第38話 二次試験

 一次試験から三日後、今日は二次試験の日である。

 二万人以上いた受験生は八千人にまで減っていた。二次試験は東京のとある大きなイベント会場を貸し切って開催される。


『主様、本日の試験は何をされるのですか?』


「例年だと、二次試験は戦闘試験だ。妖怪との戦闘や、結界術や結界の解除など、様々な技術が複合で必要らしい」


 とネットで見た。

 ここで霊力だけある一般人がだいたい落とされる。

 仕事柄危険な職だし、戦闘無しではやっていけないから間違ってはないだろう。


 会場には既に多くの陰陽師見習いが集合していた。

 皆一様に陰陽師の正装である狩衣を羽織り、各自試験に備えている。

 念仏を唱える者。護符や人形ひとがたを見つめている者様々だ。

 だが、一人リーゼントで学ランを着ている男が居る。家に置いてあった昔の漫画でしか見たことのない姿だ。

 なんだあれ。観光客か?


 手には釘バットを持っている。皆陰陽師ルックな中、学ランのヤンキーは大きく浮いていた。

 関わらないでおこう。

 人混みも嫌いな俺は会場の端っこでのんびりと開催時間を待った。

 だが、そんな俺の元へ一人近づく者の姿が見える。


「おはよう、道弥」


「おはよう、夜月」


 俺の元へやって来たのは夜月だった。銀髪と狩衣姿は少しミスマッチ感があるが、夜月は所作の一つ一つが美しい。

 それ故、どこか様になっていた。


「会場全体が緊張しているが、道弥は全然だな」


「これでもしているかもしれんぞ」


 そう言って俺は笑う。


「道弥は緊張とは無縁だろう。皆真剣に陰陽師を目指しているんだな。二次試験からは順位が出る。二次試験では私も一位を目指す」


「まだ師匠越えは早いぞ」


「直接的な戦闘じゃなければ分からんさ」


 夜月もすっかり自信を持って。

 随分強くなった。夜月なら既に四級上位程度の実力はある。合格は固いだろう。

 軽い世間話をしていたはずなのに、夜月は真剣な顔に変わる。


「なあ、道弥……私は道弥に伝えたいことがあるんだ」


「なんだ? 聞くぞ?」


「いや、今はいい。最終試験後に話す」


「そうかい。楽しみにしてるよ」


『道弥様、絶対告白ですよ! このアバズレ! よりにもよって道弥様に告白なんて、身の程を私が教えましょう!』


 頭の中で莉世の怒った声が響く。

 何を言ってるんだ、この馬鹿は。

 話していると向こうから二人組の男がこちらへ向かってくる。


 見たことあるような? だが、俺は自慢ではないがほぼ知り合いが居ないため、気のせいだろう。

 男は俺に目もむけずに、夜月の方に顔を向ける。どうやら夜月の知り合いらしい。


「やあ、夜月。久しぶりだね。今年の試験を受けると思っていたよ。同期になりそうだ」


 と爽やかそうな男が夜月に挨拶をする。


「ああ。宝華院さんもお元気そうで何よりです」


 夜月はほんの少しだけこわばった声で言葉を返した。

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