第44話 最終試験

 試験官達は最終試験のことを考えることを辞めた。


 そして、遂に最終試験の日を迎える。

 八月二十一日午前八時五十分。

 俺は指定された夢ヶ原正面入口の前に座っていた。


 夢ヶ原は第五級立入禁止地区に該当している。陰陽師以外は立ち入れないことになっているため、周囲はフェンスで覆われている。

 とはいえ、深部まで行かなければそこまで危険はないように感じる。

 集合場所には既に多くの合格者達が集まっていた。二次試験合格者なだけあって、前回よりも質が上がっている。


 陰陽師試験は十五から三十歳まで受験可能だ。

 若者や、三十直前の者など様々な年齢の者が狩衣姿でアナウンスを待っている。

 後、十分で始まろうとしている最中、突如大型バイクの轟音が静かな森に鳴り響く。


 大型バイクに乗って現れたのは先日の試験に学ランでやってきていたヤンキーであった。

 ヘルメットを取ると、そこにはお馴染みのリーゼントが顔を出す。


「ふう、間に合ったぜ! まさか青森がこんな遠いとはよ!」


 バイクの後ろにはしっかりと釘バットが括りつけられている。

 よく警察に止められなかったなあいつ。青森県警は何をやっていたんだ。

 なぜ彼は陰陽師試験を受けようと思ったんだろうか。

 関わらないでおこうと、奴から目をそらし周囲を見渡すと、宝華院兄弟や、夜月の姿も見える。


 兄はこちらを鋭い目で睨んでいた。

 一位が取れなくて、悔しかったのだろうか?

 すると、皆の前に太った試験官が現れる。


 というか、この間のデブだった。

 ふごふごと言いながら、正面に立つとマイクを持つ。


「それでは只今から最終試験を行う。最終試験は三人でチームを組み、この森でサバイバルをしてもらう。順次番号で呼ぶため、その三人で集まるように」


 その言葉を皮切りに、若い男の試験官が番号を呼び始める。


「九八六六、二七三一、一七七四一、前へ」


 俺の番号呼ばれた瞬間、周囲がどよめいた。

 俺と共に前に出たのは女の子と、なんとあのヤンキーである。前に出ると試験官の男から勾玉を一つ渡される。白い綺麗な勾玉だ。


「おい、あのチームの中に一位が居るぞ……」


「誰だ? あのヤンキーではないだろ?」


 どうやら俺の番号は有名になっているらしい。

 ヤンキーは他の奴等に睨みをきかせていた。 

 その後も延々と番号が呼ばれる時間が過ぎる。


「全員、チームに分かれたな。各チームには勾玉を一つ渡している。それが今回のポイントとなる。最終試験合格は単純明快。多くの勾玉を取り、ポイント上位チームが合格だ」


 デブが言う。


「色により、ポイントが違う。赤が一点。青が十点。白が百点だ。成績一位のチームには白を、二位から二十位には青。それ以外には赤を渡している。つまりルールはシンプルだ。敵のチームから奪い取れ」


 その言葉を聞き、皆が周囲を警戒し始める。


「とはいえ、これは陰陽師の試験。試験会場である妖怪の一部にも勾玉を持たせている。妖怪を祓い勾玉を得ることも可能だ。どちらを選ぶかは任せよう。なお、妖怪に持たせた勾玉の数は公開しない。だが、妖怪にも白や青の勾玉を持っているものは居る。念のために言っておくが、殺しはなしだ。人を殺した時点で失格となる。当然だがな。状況によっては罪に問われることもあるから気をつけろ」


 俺はデブの言葉を聞きながら、考える。

 試験自体は中々考えられている。

 チームごとに勾玉は一つしか渡されなかった。つまり、これはチームでの得点なのだろう。


 五百人ほどの人数から、百七十チームほどいるが、十点以上を持っているチームは現時点で二十チームしかいない。

 妖怪に持たせた勾玉の数が分からないから明確に推測できないが、おそらく合格チームは七十ほど。合格だけならば、それほど多くのポイントは必要ない。

 デブが急に下卑た笑いを見せる。


「あっと。一つ大事なことを伝え忘れていた。察している者も居ると思うが、先ほど呼んだ番号は成績順だ。そして今回勾玉を所持していいのは、チーム内で成績が最も下位の者だけだ。チーム内で成績トップの者が持つことは許されない。また試験は過酷であり、チーム内の者がリタイアすることも当然考えられる。その場合、リタイア一人につき、五点総得点から引かれる。覚えておくといい」


 デブの言葉を聞き、受験生が声を上げる。


「一人でもリタイアが出たら、殆どのチームはマイナスじゃないか!」


「おいおい、雑魚と組まされたら終わりだぞ!」


 避難轟々だった。

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