第36話 確かめてみるか


すみません。本文修正しました。(4/2 15:21)

お手数ですが、もう一度お読みください。 

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「今なんと?」 


 俺は怒りを押し殺して静かに尋ねる。

 このデブ、なんの確認もせずに紫を出しただけで失格だと?

 ふざけるのもいい加減にしろ。


「お前、とりあえず紫になれば自動的に合格できるとでも思ったか? たまにいるんだよ。お前みたいに不正をして陰陽師になろうという馬鹿がな。陰陽師試験は毎年合格率一パーセントの超難関試験だ。合格すれば食ってはいけることもあり、不正してでもなろうとする馬鹿も居る。お前みたいにな」


 男は脂ぎった顔で、こちらを不正したと決めつけて話し始める。


「不正したという根拠はあるんですか?」


 俺は苛立ちを隠しながらなんとか口にする。


『殺しますか? 私なら一瞬で骨まで燃やせますよ?』


 同じく莉世も苛立った声で言う。今にも顕現しこいつを殺しそうだ。


「紫色が不正を物語っているんだよ。お前のような素人には分からないかもしれないがな。紫とは一級陰陽師相当。日本を代表する陰陽師のレベルな訳だ。日本にはわずか八人しか居ない。一級陰陽師という頂にたどり着くには、若くても二十代前半だ。お前のような若造が紫など、不正としか考えられんのだ! だいたいどこの家の者だ、お前のような馬鹿を生んだのは」


 そう言って、男は持っていたタブレットを触り始める。


「お前は芦屋家か! ハハハハハ! 裏切者の芦屋家! そうか、認められたくて遂に不正にまで手を出したのか。実に馬鹿な家の子供らしい行動だ。当主ですら三級に達していない弱小陰陽師一族から一級など笑い話にもならん。私も当主は見たことがある。実に無能そうな愚かな男だった。その息子なら不正をしてもおかしくは――」


 父を――!


「では、俺が不正をしたか直接確かめてみるか?」


「そんなことする必要はない。俺が不正と言ったら不正だからな」


「怖いのか? 弱小陰陽師家の子供とすら戦うのが怖いんろう? 偉そうに言っていても所詮、実力もなく、ただ家の力だけであがった男じゃ戦えないか」


 俺は馬鹿にするように言う。

 それを聞いたデブが憤怒の表情に変わる。


「調子に乗ってくれるじゃないか。雑魚の芦屋家風情が。二級陰陽師の強さを教えてやるわ。死んでも知らんぞ、クソガキが。おい、そこの試験官、審判をしろ。もしお前が一発でも入れられた合格にしてやる。まあ、ありえんがな」


 試験官が不安そうに俺とデブを交互に見る。


「命を奪うような行為は勿論、禁止でお願いします。私が、勝負が決まったと判断した場合は止めさせてもらいますので、ご了承お願いいたします。戦闘は基本ルールで」


 試験官はそう言うと、結界を張る。戦闘で被害を出さないためだ。

 陰陽師同士の戦いの基本ルールとは、式神、陰陽術あり、呪具・護符無し。式神は自分自身とみなされるため許されている。


「構わん。式神でも陰陽術でもなんでも使うがいい。戦闘でも不正ができるのならな!」


 デブはすっかり勝ったつもりで、ニタニタと笑う。


「それでは……始め!」


「出ろ、真」


 俺はそう呟いた。

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