第32話 ご挨拶
俺は真に乗って東京にある自宅に辿り着いた。
「主様、何かありましたらお呼びください」
そう言って、真は姿を消した。
「ありがとう、真」
俺は真に礼を言った後、玄関を開ける。
「ただいまー」
俺の声を聞き、奥から両親が走ってやってきた。
「無事だったのね!」
母はそう言って、俺を抱き締める。どうやら中々心配をかけていたらしい。
「おかえり。無事、式神を使役できたんだな。顔を見れば分かる」
「ああ。立派な式神を」
俺がそう答えると、後ろに何かが召喚された。
「立派なんて……照れますわ」
そこには片手を頬に当て、頬を赤く染めた莉世が居た。
呼んでねえのに出てきやがったよ。
「お父様、お母さま、この度道弥様に使役された式神の莉世と申します。どうか末永くよろしくお願いします」
まるで恋人が両親に挨拶するかのように莉世が両親に頭を下げる。
「あらあら。道弥ったら、こんなに可愛い式神を連れてきて。流石私の息子ねえ、隅に置けないわ」
母はまんざらでもない対応である。
「道弥様には私の全てを捧げるつもりです、お母さま。絶対に道弥様には傷一つつけさせませんので、ご安心を」
「頼もしいわー。とっても綺麗な着物ねえ」
「ありがとうございますー」
「なんの妖怪なのかしら?」
「狐ですわ」
とほのぼの挨拶をしている。俺以外にまともな対応をする莉世は中々レアだ。
一方父はと言うと、ありえないようなものを見るかのような形相で莉世を見ていた。
「莉世さん、と言ったかな。む、息子をよろしく頼むよ」
「はい、お父様。お任せください。全てにおいて、私が道弥様を幸せにします!」
苦笑いの父と対照的に莉世は素晴らしいほどの笑顔だ。
「道弥、少し話そうか」
挨拶の後、父は凄い速度で俺を引っ張って外に出る。
「おい、何だあの子は! 妖怪なのに全く妖気を感じない。これだけ隠せるということはよほど妖気操作が高くないと無理だ。狐って言っていたが明らかにそこらの妖狐のレベルじゃない」
九尾と言ったら、父は倒れそうだな。
「父さん、莉世は……強い妖狐です」
素晴らしい強引な説明だった。
というか、何の説明にもなってない。
「だが、明らかに普通の妖狐じゃ……」
「強い妖狐です、父さん」
俺は父の両肩をしっかりと掴み、告げる。
「そ、そうか……分かったよ道弥。俺はどうやらお前のことを完全に理解できていないらしい」
どうやら父は考えるのを諦めたようだ。
「道弥、ご飯作ってあげるから、早く戻ってきなさい~」
母の声が家から聞こえる。
「はーい」
俺は母に呼ばれ、家に戻った。
帰宅して一週間。俺は鍛錬は欠かさなかったものの、のんびりと過ごしていた。
「そういえば道弥。今日、夜月ちゃんが来るって言ってたわよ」
母が思い出したかのように言う。
「え? そうなの?」
俺は朝食を食べながら言葉を返す。
「忘れていたわ。貴方が旅に出ていた時に一度訪ねてきたのよ。十時くらいに来るんじゃない?」
「了解」
夜月には最近までずっと陰陽術を教えていた。最近は自分の家で習うことが増えたのか、教える頻度は減ったが今でもたまに教えている。
夜月の実力はおそらく既に三級に近い四級といったところか。
陰陽師試験も余裕だろう。
しばらく家で護符作成をしていると、呼び鈴が鳴った。
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