第7話 親馬鹿が過ぎますよ

「これからは、紙に呪言を刻み、霊力を消費しなさい。それが陰陽師への近道だからな。陰陽師の仕事は、護符や結界だけじゃない。妖怪と戦うことも多い」


「はい」


「妖怪と戦うためには、護符や呪ももちろん有効だが、他に何があると思う?」


「妖怪を調伏し、式神として使役して戦わせます」


「そうだ。私も中鬼ちゅうきを調伏しているが、中鬼は戦闘力も高い。妖怪はいくらでも調伏できる訳ではない。数が多いほど、術者の負担になるため、少数に絞らなければならない」


 妖怪として一番オーソドックスなものはやはり鬼だろう。

 子供くらいのサイズで、小さい小鬼は六級妖怪。大人の人間より大きい中鬼は四級妖怪。五メートルを超えるサイズになると、大鬼と呼ばれ二級にまで上がる。


「承知してます」


「陰陽師はやはり呪を唱えている間、隙だらけだからな。式神に身を守ってもらい、ともに戦うように」


「それは、陰陽師相手でもそうですよね?」


 俺は父に尋ねる。俺の相手は妖怪だけでなく、陰陽師の可能性もある。


「……そうだな。人間相手もなくはないが……その場合はどうしたらよいと思う?」


「敵の式神を破壊するか、直接陰陽師を狙います」


「ああ。だが、式神というものは仕留めても、陰陽師が霊力を再度消費すれば復活する。勿論等級は種類によって、再召喚時間は異なるが。他人の式神を奪えると思うか?」


 式神は陰陽師と契約している限り、殺されても復活してくる。それが式神の強みであり、敵に回った際、最も厄介な部分だ。だが、高位の式神は破壊後、再召喚までに時間がかかる。魂の修復に時間がかかるのだ。


「可能です」


「よく勉強しているな。理論上は相手の式神を奪うことは可能だ。相手と、相手の式神の契約を破棄させ、その上でこちらが解放された妖怪を調伏する。だが、戦闘中にそのようなことをするのは不可能だ。よっぽど実力差がないと、契約破棄などできない。現実は式神破壊後、再召喚までの時間に陰陽師を狙うことになるだろう」


「分かりました」


「まあ、道弥が妖怪と戦うのはまだまだ先だ。ゆっくり覚えていけばいいさ」


 こうして、父による訓練は終わった。





 夜も更け、俺が和室の布団に入ってしばらくした後、父の声がかすかに聞こえる。


「由香……実は、道弥がもう護符の作成に成功したんだ」


「ええっ⁉ 貴方、数年は最低かかるって、言ってませんでした?」


 母は大声を上げる。


「その……はずなんだが。五歳で護符の生成に成功するなんて聞いたことがない」


 うーん、やりすぎたな。


「まあ、凄いことはいいことじゃないですか。あの子は年の割に賢いからおかしくもないでしょう? それに道弥は毎日、毎日一人で陰陽術の練習をしています。正直、心配になるくらい。それが実を結んだのですよ」


 母は嬉しそうに言う。。息子の成長が素直に嬉しいようだ。


「そして、できた護符なんだが……凄まじい霊力を感じた。あれほどの護符は、一級陰陽師の方でも難しいんじゃないか、と思うくらいに」


「貴方、親馬鹿が過ぎますよ。いくら道弥が凄いからって、一級だなんて」


 母はそう言って笑っている。確かに客観的に聞くと親馬鹿でしかない。


「そうか、それもそうだな……親馬鹿が過ぎるのかもしれん。私が、道弥には立派になって欲しいと、思いすぎているのか」


「あまり期待しすぎたらいけませんよ?いくら凄くてもあの子はまだ子供なんですから」


「覚えておこう。そういえば、新たな仕事が入ったよ」


「良かったですね! なんの仕事ですか? 結界の張り直し? それとも、妖怪退治?」


 母の明るい声が響く。


「……陰陽師フェスタのスタッフだ」


「……まあ、仕事に貴賎はありませんよ。陰陽師フェスタですか。道弥も連れて行ってあげて下さいね。たまにはどこか道弥も行きたいでしょうし」


「分かった」


 陰陽師フェスタってなんだよ。と、俺は布団の中で小さく突っ込んだ。

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