第3話 再び最強の芦屋家を

 俺が無気力になっても、日々は回る。

 父は安倍家の若造の嫌がらせにも負けずに、懸命に働いていた。いつか、芦屋家の復興を夢見て。

 母も、その父を支えていた。


 彼らは強かった。卑屈にならずに、生きていた。

 無気力になっている俺とは対照的に。

 母が玄関前で俺を抱いている時に、父と鉄平がやって来た。


 いつもであれば、父に嫌味と嫌がらせをして帰っていく。だが、その日は珍しく鉄平は俺に目を向けた。

 母は玄関を去ろうとしたが遅かった。


「これがお前の子か。才能を感じんなあ。所詮蛙の子は蛙という訳だ。可哀想になあ、無能なお前の血を引いたせいで陰陽師にもなれないんじゃないか? うちで雇ってやろうか? せいぜい荷物持ちだがな!」


 と俺を見て馬鹿にする。

 いつもであれば、笑ってごまかす父が、男を睨みつけた。


「道弥は私と違って霊力も高い。将来は素晴らしい陰陽師になるだろう。一級陰陽師にもなれると思っている。馬鹿にしないでもらおうか!」


「ハハハハハ! 一級陰陽師? 芦屋家が⁉ 冗談にしても出来が悪いぜ! 何言ってんだ、お前」


 鉄平は俺を見つめ、小さく笑う。


「どこが高いんだよ! お前が少なすぎるだけだ!」


 俺は霊力を普段極限まで抑えている。赤ん坊に転生した際、殆どを失ったがそれでも父よりも多かったからだ。

 そこまで霊力の高い赤ん坊はおかしい。それくらいは分かっていた。


「大事な息子のためってか? 雑魚が格好つけんなよ、おっさん!」


 苛立った男は胸元から護符を取り出す。護符から光が放たれると、父は護符から出る結界により大きく吹き飛ばされた。

 男はその姿を見て笑うと、去っていった。


「大丈夫? それにしても、貴方が言い返すなんて珍しいですね」


 母は父に駆け寄る。


「普段奴に逆らって、嫌がらせを受けても仕方ないからな。だが、道弥まで馬鹿にされるのは許せなかったのだ」


 父はそう言って頭を掻く。


「当たり前です。貴方が言わなければ、私があの男を殴ってましたよ!」


「気のせいかもしれんが、道弥は生まれた時の方が霊力が高かった気がした。今はまるで霊力を意図的に抑えているような……赤子がそんなことする訳ないんだけどな。道弥が霊力が高くあって欲しいという私の願望かもしれん」


 中々鋭い。今は抑えているからな。


「良いことじゃないですか。私にはよくわかりませんが、霊力が高い方が良いのでしょう? なら道弥に、安倍家に一矢報いてもらいましょう」


 母はころころと笑う。


 子供のために……男を見せたな。格好良いな、父よ。


 そして、安倍鉄平か。その顔覚えたぞ。

 父と母がこんな懸命に芦屋家のために頑張っているのに、先祖である俺が腐っていて言い訳がなかった。


 晴明への憎しみは未だ晴れずとも、今奴は居ない。

 俺が今すべきことは……芦屋家の再興だ。

 俺が敗北したせいで、子孫達が苦労しているのだ。


 千年で、随分安倍家と差がついたようだが。なんとしても、再び最強の芦屋家を取り戻す。そして、我が芦屋家に裏切った上に裏切者の烙印を押した安倍家には、必ず然るべき報いを受けさせる。

 俺の心に小さな火が灯った。

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