三題噺(ヤドカリ、母、夜)
九大文芸部OBOG会
三題噺(ヤドカリ、母、夜)
作者名:木倉 兵馬
百物語って知ってっか?
ほらあれだ、ロウソク百本火をつけて、ホラーな話を一つ話し終えたら一つ吹き消すっていうあれだ。
で、オレはその夜、その百物語をダチ二人とやってた。
まあ最初のほうは良かったんだが、三人で回すとどーしても似たような話になったりいまいちパッとしない話になったりで白けてきちまってさ。
スマホを使って録音しようぜ、あとで全部文字にしてみような、なんて言ってたのが馬鹿らしくなって気さえしたんだよ。
でも今更やめるワケにもいかなくてさ、五十話くらい終わったとこで、だんだん「怖い」とは別の方向に行きだしたんだよ。
なんつうかな、うまく言えないけど、シュールっつうの?
意味がわからん話が夏子の口から出てきたのが始まりだったな……。
夏子ってさ、ほら日本人形系お嬢様みたいじゃん?
で、けっこう変なとこあるんだよ。
あいつの話、今から聞かすんだけど。
オレラらのガヤ入りだけど、音を茂美が短く分割したからすぐ終わるぜ。
『それでは五十一話目を本位田夏子がお話しいたます』
『なんでフルネームなんだよ……』
『これからお話するのはとても恐ろしく、人類史に書き残すべき物語だからでしてよ』
『お、おう』
『夏子さんなんか顔こわ』
『はあ? 茂美様、わたくしはアフロディーテさえ恥じ入ってタルタロスへ逃げ込む美の化身でしてよ? その言葉……お取り消しになって!』
『お、おう』
『こわ』
『こわ、ではなくってよ』
『すいやせん』
『……仕方がありませんわ、進めますわよ。これは母が宮古島で子守唄のように聞かされた話だそうですわ』
『宮古島か……キレイなとこなんだろ?』
『ええ、そうでして。しかしそのような所にこそ恐るべき真実が隠されていますの』
『こわ』
『茂美様! まだ話し終えてませんわ!』
『すいやせん』
『……もう、茂美様はこれだから! 母はこのように申していました……「ある時、ヤドカリがガブリーと叫んだ」』
『……夏子?』
『そしてこうも申しておりました……「ガブリーと叫んだヤドカリはたちまち人間になった」と』
『……夏子? 夏子??』
『これからが本題ですわよ! そこまで話し終えて母はわたくしを指さしてこう叫んだのです、「我々人類の先祖はヤドカリでしてよ!!」と!!』
『……夏子? 夏子??』
『こわ』
『これでこの話はおしまいでしてよ(ロウソクを吹き消す音)』
(二十秒ほど環境音のみ)
『お、おい茂美! どうすんだこれ! どうすんだよこれ!?』
『こわ』
『「こわ」じゃねえんだよ! なんなんだよこの話!? 次オレ何話せばいいんだよ!?』
『怖い話』
『いやそうだけどさ!? シュールが過ぎねえか!? これハードル縦に出されたようなもんだろ! どうやって飛び越えろって言うんだよ!?』
『……グッドラック!!』
『し、茂美! 適当なこと言って逃げんじゃねえ!!』
『さあ、いちご様。あなたの番でしてよ?』
『夏子―……!! なんてことしてくれんだよー!?』
……。
…………。
………………。
そっか。
やっぱそうなるよなあ……。
そういう顔になるよなあ……。
あ?
ああ、オレの下の名前言ってなかったっけ。
いちご。
金田一いちご。
なんかさ、ママがさ、ハマってたアイドルアニメのキャラみたいにかわいい女の子に育って欲しいからつけたんだ。
まあ、今はこんなカンジだけど……。
は、はあ!?
なんだよ!
そういう雑に褒めても嬉しくねえんだよ!
恥ずかしいだけだよ!
……ま、まあ、嬉しくなくも……ねえ、けど……。
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