第13話 引き継ぐ者1
足場の悪い森の中をアリーチェとリアムが仲良く助け合い歩いて行く。双子の兄であるリアムが妹のアリーチェを気遣って手を貸している様子はとても微笑ましいはずなのに何かが心に引っかかる。
「バルテレミー様、大丈夫ですか?荷物が重すぎますかね?」
リッカルドに声をかけられハッとした。
「あぁ、大丈夫だ。行きよりは軽くなったからね」
食料が減った分軽くなったリュックを揺すって背負いなおすと少し足を速めた。
「フェアリーネ様は大丈夫でしょうか?」
リッカルドの隣りにいたマーゴットがボソリと零す。
大切にしていた炎龍の番が亡くなり、その悲しみをまともに感じ取ってしまったフェアリーネのショックは計り知れないだろう。しかも同調していたフィアンマまでいなくなった。
「しばらくマティウスを農村に留めて置く方が良いかもしれませんね」
このまま農村にフェアリーネだけ残すのは彼も不安だろう。
今も片時も離れない二人を見ているとその方が良い気がする。
「ですが騎士団長としての仕事をこれ以上引き伸ばすことは出来ないでしょう」
リッカルドも弟としては二人が心配だが、首都を護る騎士団の者として団長不在の心許なさを口にした。
今は副団長ダリューンがその責務を立派に果たしているがあまり長く留守には出来ない。
「双子をしばらく村に残すようですよ」
マーゴットがマティウスから聞いたと教えてくれた。
子供達が居れば回復に向けて助けになるのは間違い無いだろう。
だがアリーチェもここ数日様子がおかしい。前のように私の行く先ざきへついて来ようとしないし話しかけて来る回数も減った。
「アリーチェが、少し変だと思わないか?」
私の言葉にリッカルドとマーゴットが顔を見合わせた。
「そう、ですね。今回の事で少し思うところがあったのでは無いですか?少し成長したのかもしれません」
マーゴットの言うことにも一理ある。アリーチェは前から大人びた事を口にしたりしていたがこのところリアムまでしっかりとし、兄としてアリーチェに寄り添う事が増えた気がする。
だがそれだけでは無い感じもするのは気のせいか……
「アリーチェがバルテレミー様にまとわりつかなくて寂しいなんて思っているんじゃ無いですよね?ふぐっ!」
リッカルドが軽口をたたくとマーゴットがゴスッと肘を脇腹へ入れたようだ。
「農村に残って少し時間を置けば、このまま落ち着いていくと思いますから」
マーゴットが笑みながらリッカルドを連れ離れていった。
私としては別にアリーチェが前のように側にいることを嫌がった覚えはないのだが、まぁいずれ彼女も学院へ行けば年の近い気の合う友人が出来るだろう……薬学部はエイダンが受け持っているからいつでも様子は聞けるだろうし、ふむ。
昼休憩をむかえそれぞれ簡易食を受け取り腰を落ち着けていた。歩いている間にはあまり感じないが座って汗が引いてくると少し肌寒さを感じる。
「アリーチェ、冷えていないかい?」
干し肉やナッツなどの食事では暖が取れずかと言って短時間の休憩で火をおこすこともない。
「お気づかいありがとうございます。私は大丈夫です」
にっこり綺麗に微笑み食べ終わったのかリアムと何処かへ行った。
私といるのが嫌になったのだろうか?
何だか落ち着かず視線を彷徨わせるとマティウスとフェアリーネが木陰に消えるのが見えた。
「マティウス様がついているので心配いりませんわ」
それに気づいたマーゴットがそう言いながら私にマントを手渡してくれる。
「アリーチェとリアムにも渡したほうが良いだろう」
立ち上がり私が持っていこうと手を出した。
「いいえ、リッカルドが今持って行きましたから大丈夫です」
まぁ確かに私が行くこともないか。
日が陰り始める頃まで進みようやく野営の準備を始めた。
リッカルドやエイダンが子供達の為にテントを建てているとリアムが面白がって自分も手伝うと言い出した。私もやってみようかと思ったがポツンと離れた場所からそれを一人で見ているアリーチェに気づきそちらへ向った。
「疲れたかい?」
声をかけるとぼんやりしていた顔を綺麗に整え微笑んだ。
「少し、ですけど大丈夫です。バルテレミー様は大丈夫ですか?」
「あぁ、少し足を痛めたようだが大丈夫だ」
疲労からかさっき少し足がつってしまいまだ痛む。
「それは大変ですわ。すぐに父さまを探してきます」
アリーチェは辺りを見回すと少し離れた木陰に消える両親を見つけ走り出した。
「アリーチェ!大丈夫だ、ここにいなさい」
魔術部長と騎士団長がいるとはいえ夕暮れの森の中、あまり皆から離れるのは危険だろう。
彼女を追って私もフェアリーネ達がいる方へ向かっていったが、彼等を見つける前にアリーチェの手首を掴んだ。
「あの二人はしばらくそっとしておいてあげよう。私なら平気だ」
振り返ったアリーチェが躊躇いつつも頷いた。
私は掴んだ手に気づき慌てて離した。
「あぁ、すまない、少しきつく掴んでしまった」
アリーチェの肌は透けるように白く繊細で弱い。フェアリーネもそうだ。
私が掴んでしまった手首が僅かに赤味をおびていた。
「これぐらいはいつもの事です。気になさらないでください」
「だが……」
「リアムならもっと乱暴に掴んできたこともありますよ。しばらく赤く残るほど」
私の慌てようがおかしかったのか、アリーチェがそう言いながら前のように無邪気な笑顔を見せた。
「それは兄としてやり過ぎだな……アリーチェ、これからも私には今のように笑ってくれないか?」
そう言うとアリーチェはサッと顔をそむけた。
「それは……私はこれまでバルテレミー様に馴れ馴れしすぎたと思いますので。それにいつまでも子供のままではいられませんから」
「君はまだ子供だよ、まだ9歳で……」
私がそう言うと、アリーチェは即座に反論してきた。
「いいえっ!私はもうすぐ10歳になります。それに私は母さまと同じで他の人とは違います。髪も白いし、それに特殊魔術や炎龍のことも……」
アリーチェがそんな事を考えていたなんて……恐らくルーチェと同調してしまった時から少しずつ彼女の中では変化が起きていたのかもしれない。
前とは違う自分や、この先への不安もあったのだろう。そんな大事な時に頼るべき両親に頼れない。
きっと心を痛めていたに違いないのに気づいてやれなかったなんて。
「アリーチェ、そんな気持ちを誰かに……リアムには話したのかい?」
ここの所リアムはアリーチェにつきっきりだった。まるでフェアリーネとマティウスのように。
「リアムは言わなくてもわかってくれる」
双子ゆえの繋がりがあるのか。
私がアリーチェに何を言ってあげればいいのか戸惑っていると後ろからリアムが駆け寄ってきた。
「アリーチェ!バルテレミー様……何かありましたか?」
私達を見比べ警戒の眼差しを向けられる。兄として妹を守ろうとしているのだろう。
「いや、大丈夫だ。それから二人にはハッキリと言っておく。私は君達の味方だから、アリーチェのことを誰かが何かを言ったらすぐに私に言いなさい」
二人を並べてそれぞれ肩に手を置いて真剣に言い聞かせる。
「どんな些細なことでも、相手が何処の誰であろうと私が必ずそいつを仕留めて……いや、抗議してやるから」
アリーチェとリアムが顔を見合わせたあと私に向き直る。
「「いちいち仕留めていては誰もいなくなってしまいます」」
二人は同じような呆れた顔でため息をついた。
「それでは父さまと同じです」
「母さまに叱られますよ」
フェアリーネに?
「それは……不味いな」
二人はクスクスと笑い出した。
私もつられて一緒に笑う。
「ありがとうございます、バルテレミー様」
アリーチェの笑顔にホッとした。
「ではまたこれまで通り頼むよ」
これでひと安心かと思ったがアリーチェが困ったような顔をした。リアムも何も言わないが無理だろうっていう態度だ。
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