第27話


「はぁっ、はぁっ……」

 力をすべて使い果たし、立っている気力すらもなくなり、倒れるように瓦礫にもたれかかった。

 肉の焦げた嫌な匂いが鼻の奥にこびりついて離れない。

 ここまでやればさすがの魔女ももう復活はできないだろう。

 どれくらい戦っていたかはわからないが、周囲は瓦礫に埋もれ、部屋を照らしていた松明もほとんどが壁ごと地面に転がっているところを見るに相当な時間戦っていたようだ。


 ————やっぱり約束守れなかったな。


 もう出入口は瓦礫の中に埋まってしまって部屋から出ることは敵わない。出入口があったとしても、この体では部屋が崩落する前に出ることはできないだろう。

 ちゃんと二人は無事に地上に出られただろうか

 そして、アレには気づいてくれただろうか。

 気づいてくれたなら、いずれこの時代の僕にたどり着けるはずだ。

 ちょっとズルいかもしれないが、それくらいのズルなら神様も許してくれるだろう。


 失った右足から血と熱が抜けていく。

 寒気とともに視界がかすみ、意識がだんだんと遠のいていく。

 明確に、そして確実に死の足音が近づいてきている。


 そんな中、背中に人の温もりを感じた。

 死の間際の幻覚かもしれないが、それでも感じたんだ。

 それが誰なのかは、そんなもの聴かなくてもわかる。

「ちゃんと守りましたよ、約束」

『うん、ちゃんと見てたよ』

 その声に視界が歪み、頬を温かいものがつたう。

『私には見てることしかできなかったけど、それでも君の頑張りはちゃんと見てたよ。君が戦ってくれたおかげで“私”はこれからを生きていけるんだよ。————ありがとう』

 その言葉一つで僕は救われた気がした。

 ほかでもない彼女に感謝される。それだけで胸の奥がすっと軽くなった。

「これで僕の旅も終わりですね」

 ここが長いようで短かった旅の終着点。まさか過去に来るなんて思ってもいなかったが、最後が魔女との戦いなんて僕にしては上出来だろう。

『ちがうよ、————ここから始まるんだよ』

 少女は優しい声音でそう言った。

 そうだった、ここは終わりじゃない始まりなんだ。————僕らではない僕らの。

 どんな出会いで、どんな旅になるか。

 大冒険かもしれないし何気ない日々の積み重ねかもしれない。それを想像するだけで自然と笑みがこぼれた。

 あぁ————それは、なんて……。

「なんだか安心したら眠くなってきちゃいました」

『いいよ、疲れただろうし一休みしよっか。でも、その前に』

 瞼を閉じる寸前、背中の熱が離れる。だが、すぐに背中と首に熱が戻ってきて、

『ズルはダメだよ。神様が見逃しても私は見逃さないから』

「えぇーっ、いまそれですか?」

 二人でひとしきり笑った。



『おやすみなさい』

「……おやすみ、なさい」

 眠るように重いまぶたをゆっくりと閉じた。

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