幕間⑥

「馬鹿野郎がっ!」

 閉じてしまった石扉に叫ぶ。

 あの少年は軽々閉じたが、この大きく重い石扉は俺の力ではピクリとも動かない。

 俺があの部屋に出入りできたのは、少年が扉を開けたままでいたからだ。

 こんな目の前にある扉一つ開けられない自分の無力さが歯がゆい。

 腕の中で眠るこの少女を助けられたのも少年のおかげ。

 魔女を一度倒せたのだって少年のおかげだ。

 今だってあの少年は命を賭して俺とこの少女を逃がそうとしている。

 俺は何の役にも立っていない。だが、そんな俺に少年は託してくれた。

 彼が命がけで助けようとした少女のことを。

 だったら、ここで止まっているわけにはいかない。

 扉に背を向け、地上へ向かう階段を駆け上がる。

 少女を抱えながらはさすがにきついが、あの扉の向こうで少年はもっと苦しんでいるだろう。それに比べれば、この程度、きつくもなんともない。

 ————待っていろ、絶対に助けに戻るからな。

 遠くに見える地上の光を目指して足を急がせる。



 少年から託された少女は腕の中でよく眠っている。

 その手の中には少年からもう一つ託されたものがあったことはまだ誰も知らない。

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