幕間⑤

 地下の階段から出た瞬間、広間の明かりに目がくらむ。

 あの少年に頼まれたものを探すために上がって来たのだが、どこを探せばいいのだろう?頼んできた彼自身もあるのは知っているが、どこにあるかはわからないと言っていたし、どうしたものか。

 在処の見当がつかない以上、とりあえず城中の部屋という部屋を探すしかない。俺が迷っている間にも、彼は下で戦っている。彼の頑張りを無駄にしないためにも少しでも早く目的のものを探し出さなければ。


 それにしても、不思議な少年だ。

 城の中を駆け回りながら思う。

 不思議な力を持っているからではなく、今この状況になぜ彼がいるかがわからない。もっというならあの子の救出にあれほど真剣になることが不思議で仕方ない。

 彼は俺が守る街に住んでいるわけではない。そうなれば魔女に連れ去られた少女と面識があるわけでもないだろう。なのになぜあそこまで、命を懸けてまで戦えるのだろう?

 そんなことを考えているうちに一階の部屋を全て確認し終えてしまった。一階は生活スペースだったようで、料理スペースや不思議なほど寒い食材の貯蔵庫などがあったが、探していたものやそれに関係しそうなものは見当たらなかった。となると、次に向かうべきは二階だ。

 二階へ上がる階段は中央の広間にしかなく、また入り口に戻ってくる形になった。階段に上る前、その横に開いた壁の穴が目に入った。

 俺が来た時にはすでに壁には穴が開いていた。城の主である魔女がこんなところに穴をあけるとは考えられないので、あの少年の仕業だと思うのだがこの穴だって不可思議だ。

 こんなところに穴が開いているのに、ほかには荒らされた形跡はない。というのは嘘で、広間に飾ってあった鎧が持っていた盾と剣を拝借しているので荒らされてはいるのだが、来た時には荒らされてはいなかった。ということはつまり、————彼はここを狙い撃ちしたのではないか。そんな疑念がよぎる。

 壁の穴の先は階段になっていて、その先に魔女がいた。彼は魔女のいる場所を知っていたのではないか。ここに来る途中、森の中で迷ったときも彼は迷わずこの城への道を示した。魔女の居場所を知っていたと考えるといろいろな辻褄はあう気がする。

 そうなるとあの少年の目的は、連れ去られた少女の救出ではなく魔女の打倒ということになってしまう。しかし、それは違うと俺の中のなにかが言う。

 確信があるわけではない。だが、あの少年が言った『あの子を助ける』という言葉。あれに嘘はなかった。なぜなら、その時の目は真剣だったからだ。あれが嘘ならば彼は相当な詐欺師だろう。

「ああっ、もうっ!」

 こんなところでごちゃごちゃ考えていても仕方がない。本音で言えば、俺は彼を信じたい。本気で彼女を助けたいのだと。なら、それでいいじゃないか。

 今もあの穴の先の部屋で戦っている少年を俺は信じて、彼に頼まれたものを届ける。それがあの子を救う唯一の手だと信じて。

 決意を新たに二階への階段を駆け上がる。

「待ってろよ!すぐに見つけて届けてやるからな!!」

 俺の決意の雄たけびは、誰もいない魔女の城の中に響き渡った。

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