神はコイントスだってするし、小細工だってする(1)
今日は5月13日。
ゴールデンウイークがしめやかに終わりを告げ、日々の喧騒が戻り始めた頃合い。久々の高校登校で消耗した体力を取り戻さんと言わんばかりの勢いで、土日の2連休を謳歌していた。
「明日も休みかぁ……」
……訂正。休み自体は嬉しいのだが、ゴールデンウィークで室内遊びをやり尽くしたので、若干飽きたまである。
窓から空を見上げると、既に太陽は大分上の方から地上を見下ろしていた。もう外は灼熱地獄に違いない。それを考えるだけで行動意欲が失せるというもの。
「…………」
なんとなく、ただ何もやる気が起きない。
やること無さにベッドの上でゴロンと横になって、気が付いたら寝落ちして。ご飯に呼ばれたら部屋を出て食べて、風呂入って寝て。
自堕落な休日を送っている自覚はあった。
別に高校自体は普通に行っている。去年まで一生懸命受験勉強して入った高校なんだ。嬉しくないわけがない……。
「……はずなんだがなぁ」
ベッドの上で寝返りを打つたびに掛け時計が視界の端を過ぎる。その度に遅々としか進まない時計の針に苛立ちを覚えると共に、休みが浪費されている焦燥感が掻き立てられた。
あまりにも手持ち無沙汰過ぎて、つい無意識のうちにスマホをその手に握っていた。最早身体の一部として機能しているのではと疑いたくもなるが、まさしくこういう日は適当にタイムラインを遡っていくうちに寝落ちするに限る。
「あぁ〜、この絵、えちちでええな……」
どうせ誰も聞いていないから、気持ち悪い事を言ってみたりして。
「俺もな〜、絵が上手ければ自給自足出来るんだけどなぁ」
別段やる気があるわけではないけれど、叶うはずのない願望を口にしてみたり。
「えちちなことを……してみたり……とか……」
叶いもしない願い事を口にして、大きな溜め息と共にひとりでに傷付いてみたり。
未練だ、と一言で済む問題ではある。
ただ事実に対して心が追いついてこないのだ。
未練がましくも電話帳アプリを開いては、少しだげその名前を凝視して……。
「……アイスでも買ってくるか」
気を抜くと溢れ出そうになる気持ちを強引に蓋するように、スマホの画面を落としてポケットに入れる。
半袖半ズボンの寝間着姿ではあるが……どうせこんな灼熱天国の真っ昼間に外を出歩く馬鹿は数少ないだろうし問題ないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
道路の脇に生えている雑草をみて一言。
「俺も光合成とか出来たらなぁ」
ジリジリと焦げるアスファルトの道を歩きながら、無意味にも足元へ向けて愚痴を吐く。外は灼熱地獄とまではいかなくても、首筋に汗が伝う程度には普通に暑かった。汗をかくような趣味を持っていないから、ただ不快感そのものである。
しかしそれでも、家の中でただひたすらに悶々とし続けるよりは幾分か心地が良いのは目に見えて分かった。
ただの現実逃避だろうと言われればそれまでだが、言いたいやつには言わせておけ。今が良ければ全て良しなのだ。
そうして無気力気味な足取りで歩きながら近場のスーパーを目指していると、不意にポケットに入ったスマホがブルルと震えた。電話着信の合図である。
俺なんかに電話を掛けてくる奴なんて家族くらいしかいない筈。おおかた相手は妹あたりだろう。俺が外に出たのを聞き付けて、何かついでに買ってきてもらおうという魂胆に違いない。
面倒だからこのまま無視しておくというのも手ではあるが、後で何を言われるか分からない。寧ろ貸しを一個作ってやったと思うことにしよう。
そう思い立ったが吉日。自宅を出る前からポケットに入れっぱなしのスマホを取り出さんと手を突っ込んでみると──何気なく手を入れたから余計にか──やたらとポケットの中が熱くなっており、思わず手を引っ込めてしまった。
「うわっ、 オーバーヒートでもしてるのか!?」
こんな汗まみれな状態でポケットの中に入れていたのだ。ポケットの中の熱気と湿気によって、尋常じゃない負荷がバッテリーに掛かっていたのかもしれない。
……流石にスマホを壊したら洒落にならないぞ。ようやく高校入学を機に買ってもらえた初のスマホなのだ。購入から約一ヶ月で故障させたとなれば説教ものに違いない。
ともかく今は電話に出ることが先決だ。
動作確認も兼ねて通話をしつつ、しばらく外気に晒してクールダウンするのを待つしかない。
決して電話先に気取られてはならない……そう心に決めてから、俺はスマホを耳に当てた。
「あー、はい。もしもし」
すると帰ってきた声の様子は、妹でも両親でも、ましてはアイツでもなかった。
それはまるで機械音声。時報とも異なる、抑揚のない特徴的な声で──。
『あっ、先程は電話に出ることが出来なくてすみませんでした。こちら世界更生神託サービス株式会社の……』
──胡散臭い内容を口にしたのであった。
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