神はコイントスだってするし、小細工だってする

@mjp_red5

プロローグ

とある昔、頭の良い学者がこう唱えた。


『神はサイコロを振らない』と。


それはイチ事象に対して起因となりうる条件を寸分違わず合わせることで、その事象は必ず再現出来るという定説である。


つまり目の前で起こる現象は必然であり、絶対。

その理から外れようものならば──それは神が世界に干渉してきたに違いないはずなのだ。



だがしかしそれから時が経ち、世界の理を解き進めていくうちに、人々はその必然の壁を破るようになっていった。


イチ事象に対する結果はイチにあらず。

ニにもサンにも分裂し、それらは確率的に存在している。

勿論回数を重ねていけば結果は収束するが、物事を細分化していくと、意外とそれはバラバラな軌跡を描いているものだったりするのだ。



ともすれば、こうも言い換えられるのではないだろうか。


『結果は収束するのだから、途中どんな寄り道をしても変わらないのではないか』と。


よく世間では『運命の人』やら『収まるべき場所に収まった』などと言って、紆余曲折ありながらも結果的にはなんだかそれらしい形に収まっていたり。

……その逆も然りだが。




つまるところ何が言いたいかと言うと────。


「────さてと。そろそろ仕事でもしようかな」


そこは何てことのない、ただの部屋。

机があり、椅子があり、ベッドがあり。その中で一際目立つのは、若干薄暗い空間の中にある複数のディスプレイだ。椅子に座るとそれらが視界一面を覆うようにして広がっては煌々と光って照り付ける。


最近は座りっぱなしの作業が多かったせいか、心なしか肩が重い。ついでに言うと瞼も重い。

やはりもう一度寝直して、体調が万全な時にやるべきなのでは……などと躊躇していたら、まるでコチラの思惑がバレていると言わんばかりに、上司からのメッセージが手元の携帯端末へと大量に送り付けられていた。


「しゃーないな」と独りでにぼやきながら、カチカチとマウスを操作して、既にPCへインストールを済ませているアプリを起動させる。


「おっと久々の起動だっけか。ログインパスワード何にしたっけな……あぁそうコレコレ、いつものだ」


頭は殆ど働いていないが、慣れた手付きで卓上のキーボードを軽快に叩く。

個人情報に変わりがないことも確認。契約内容に不備がないこともざっくりと確認。報酬内容もバッチリ確認。問題なし。



そうしてしばらく操作していくにつれて画面に現れた『ようこそ』のボタンを前に、肝心な内容を決めていないままであったことにふと気付いて手を止めた。


「僕は……いや、私は……。今回はどっちの性別でいこうかな」


前回は男でやった気がするが、大して面白くなかった。しかしその前に女でやった時は途中修羅場になって仕事どころじゃなくなってしまったことを思い出す。


……どちらでも良いのであればと、机の脇に置いてあったコインを一枚手に取って。そしてそれを親指で真上に弾いて──。


「──ハロー、地球人。これからよろしく」


弾いたコインの結果を見て小さくほくそ笑んでから、神は世界への干渉を始めたのであった。

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