第4話 仲直り

手紙を書くと決めてから、岡崎ガールの行動は早かった。

俺の翼を掴むと足早に家へと連れて帰った。

岡崎さんの家はよくある、年季の入った和風のお家だった。家族は外に出かけているのか、自分と岡崎さん以外は誰もいない。


食事用のテーブルには、虫除けの網が食事の余りに被せて置いてあった。今日の朝ご飯は塩鮭か。いいね。

岡崎ガールはそれを丁寧に別の場所へ移し、文房具を広げた。


「これ使ってみる?」


ガラスペンを渡してみたが、使い方がわからないというので、岡崎さんに教わった内容をそのまま教えてあげた。

インクがないので、仕方なく学校で使っている墨汁で代用した。

インクと墨汁では全然違うので、上手く書けないだろうと思ったのだが、不思議と綺麗に線が引けている。これも不思議パワーのおかげだろうか。


「すごいね、ブッコロー!

漫画家になったみたい!」


まぁ確かに万年筆と言ったら、子どもの頃は漫画家のイメージだよね。


岡崎ガールは悩む様子もなくスラスラと手紙を書きはじめ、俺が家の中をキョロキョロと見渡している間に書き終えてしまった。

手紙を書くのが苦手、というのはなんだったのだろうか。


それから岡崎ガールは嬉しそうに友達の家へと向かった。恥ずかしいから家で待っててと言われたが、こっそりと空を飛んで着いて行く。


5分ほど飛んで追いかけると、友達の家に着いた。岡崎ガールはインターホンの前で数回深呼吸をすると、覚悟を決めて鳴らした。


中からは、70歳くらいのおばあちゃんが出てきた。あら弘子ちゃんと、にっこり笑った顔は優しさに溢れている。きっと友達のおばあちゃんだろう。


「おばあちゃん...。

この前はごめんなさい!」


岡崎ガールは握りしめていた手紙をおばあちゃんに渡していた。


「って!!友達っておばあちゃんかい!!歳、離れすぎでしょ!」


思わず響き渡る声でツッコんでしまった。

その声に気づき、岡崎ガールとおばあちゃんはブッコローを見上げた。


「あ!ブッコロー!!もう、着いてこないでって言ったのに〜!」


「いやぁ、気になっちゃって。

仲直りしたい相手って、このおばあちゃんだったんだ。」


おばあちゃんに軽く会釈をして、岡崎ガールのそばに降り立つ。


「うん。この前ね、おばあちゃんが大切にしてた花瓶を割っちゃったから、謝りたかったの。おばあちゃん、本当にごめんなさい!」


「あらあら、そんな気にすることないのに。弘子ちゃんは本当にいい子だねぇ。

ありがとね。わざわざ手紙なんて書いてくれて。嬉しいよぉ。」


おばあちゃんは孫娘を相手にするように、優しく頭を撫でた。

なんだろうか。最近歳のせいか、おばあちゃんの優しさになぜか目頭が少し熱くなった。


「よかったね。弘子ちゃん。仲直りできたみたいで。」


「うん!ありがとね、ブッコロー!」


岡崎ガールは満面の笑みで答えた。


「それでさ、弘子ちゃん!

文房具のこと、ちょっとは好きになれた?」


「あんまり変わんない!」


「変わらんのかいっ!!!」


がっくりと肩を落としたが、岡崎ガールの屈託のない笑顔を見ると少しこちらも嬉しくなる。


「でもね、ブッコロー。

文房具がね、気持ちを伝える宝箱ってこと、わかったよ。私、自分の思ったこと伝えるのが苦手なんだけど、手紙書くのすごく楽しかった!」


その表情は、いつもの岡崎さんと重なった。

文房具のことを話す岡崎さんだ。


するとブッコローの脇に挟んでいたガラスペンに熱が篭るのを感じた。見てみるとうっすら緑色に光っている。


「うわ!光ってる!!たぶん帰れるぞ!!」


「ブッコロー、帰っちゃうの?」


岡崎ガールはそこまで悲しむ様子もなく、軽く聞いてきた。近くの家に帰る程度に考えているんだろう。


「弘子ちゃん。俺、帰るね。」


短い時間ではあったが、この可愛らしい岡崎さんにもう会えないと思うとやっぱり少し寂しい。


「弘子ちゃん、これから楽しいことがいっぱいあるからね。文房具王になれなくても、落ち込むことないから!」


「文房具王?」


「いや、なんでもないよ。

じゃあ、未来で待ってるよ。岡崎さん。」


「だから、岡崎じゃないって!」



俺はガラスペンをまた太陽の光にかざした。

するとあの時と同じ感覚が蘇る。

タイムスリップした時の感覚だ。



視界は緑の光で埋め尽くされ、体が浮くような感覚がする。




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あぁ。またタイムスリップできるなら、競馬で大勝ちしてやる。










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