第16話 タナボタ

 ボクは、国王になっていた。

 話を端折り過ぎだけれど、簡単にいえば第二王子が暴走し、他の王子をすべて誅殺してしまった。しかしそれに反発する勢力も当然いて、その勢力が結集して第二王子の排斥に動いた。

 その旗印に、唯一生き残っていた第九王子のボクを担いだのだ。

 第二王子は、実は第四王妃……つまりボクの母親と内通していた。年齢的にはほとんど同じで、ボクを産んでから、国王の気力も萎えて不満だったところで、若い第二王子と結んだ。

 つまり第二王子と、第四王妃が企てた、クーデターだったのだけれど、それが強い反発をうけたのである。

 ボクが母親を糾弾する、と宣言して立つと、貴族の多くがあっさりとボクに乗っかり、第二王子のクーデターは平定された。

 そしてボクは、そのまま国王へと推戴されたのだった。


 隣国の王族の血もひくボクが国王となったことで、隣国も国境にせまっていた兵をひいた。第四王妃が第二王子との不義で、拘束されたことも大きかったのかもしれない。足がかりを失った上、血族が不義をした……という評判が、国内にも広がることを避けたのだ。

 ボクは母親といっても何の接点もなかったため、擁護する気にもなれない。何より第二王子とともに、国家反逆罪である。

 一応、隣国とも血縁ではあるけれど、これまでも何の接点もないので、隣国の侵入を赦す気もない。

 ボクはまだ十歳なので、貴族の協力によって、国を動かすことになる。ボクの父、国王がいたころも政治に興味を失っていたこともあって、ほとんど貴族に国の経営を任せていたそうだ。

 生憎と、今のボクは何の力もないどころか、人族の常識すら無知である。

 しばらくは王といっても、ただのお飾りになることは仕方ない。

 ただ、ボクの自由にできることもあった。

 親衛隊はボクがえらんだ。

「ボクより遅い起床の親衛隊なんて、聞いたことないよ」

 リアンが少し赤い顔をして、ボクの傍らに立っていた。

 貧血気味のため、不定愁訴によって生活に支障がでるレベル、という診断をうけたので、彼女は今、レバーなどの食事をとるようになった。でも、すぐに改善するはずもなく、本来なら親衛隊の試験に落ちたところである。

 ボクが彼女を推薦し、半ば強引に彼女を親衛隊にしたのだ。

 だって、あの危機的状況でも一緒にいてくれた。ボクを守ってくれると言ってくれた。こんな信頼できる親衛隊はいないだろ? 


 そしてもう一つ、ボクはリアンを王妃とすることに決めた。

 犬人族が王妃なんて前代未聞、と批判をうけたけれど、ボクにとってそうすることが自然だし、そうすればずっと彼女と一緒にいられるのだ。

 親衛隊であり、王妃――。その異例な事態が受け入れられた理由の一つは、第四王妃によるクーデターが起こり、王妃の立場に少しずつ改革が必要、との機運が高まっていたせいもあるだろう。

 犬人族との間に子供はできない。つまり王妃といっても、後継問題が起こらないことで、それを認めていいという空気が醸成されたことも大きかった。

 でも、ボクは諦めていない。犬人族の子づくりは、人族が魔法として錬成した、犬人族から接種した細胞から、精子をつくることで行われる。それでは性決定遺伝子がXXなので、女子しか生まれない。ボクはいつか、ボクのそれで……彼女と子づくりする、と硬く決めている。むしろ硬くして、彼女と結ばれようと思っている。

 むしろ、そのために魔法を鍛えてきた。様々な動物、昆虫、植物からも学び、彼女との子づくりに励むつもりだ。

 だけど今は、まだ隣に眠る彼女の胸を、こうして……。

「こら! 王妃といっても、まだ正式に認められていないんだから、おイタはダメだよ」

 ハマンに怒られる。リアンは中々起きないけれど、未婚の二人が先走らないよう、姑も一緒に暮らしているのだ。

 ハマンは、実は親衛隊員なのだそうだ。第九王子のボクが生まれたとき、王子を守れ、との指令をうけて、犬人族の村にもどってリアンを産んだ。それは母乳をだすためでもあり、そのリアンをボクの護衛とするためでもあった。リアンと一緒に育ってきたのも、そういう理屈だと納得できる。

 だから、ハマンは親衛隊としての職務にもどっただけである。ハマンが姉であるハルラの近くに居を構えたのも、一時的に暮らすだけだという事情もあって、また一人では守れないところを頼るために、そうしだのだそうだ。


 そうしてハマンの監視はつづくけれど、少し変わったこともある。

 二人きりになったとき、ボクはこっそりとリアンの胸へと手を伸ばす。

「ひ、人がくるから……」

「大丈夫だよ。もう少し……」

 ボクはその柔らかくも、しっかりとした弾力のある胸をその手に納めて、優しく揉みしだく。

 まだ真っ赤で、羞恥心の方が強いみたいだけれど、嫌がることがなくなった。それはボクが「王妃にする」と、周囲に高らかに宣言してからだ。

 国王の結婚には、それなりの儀式、しきたり、諸々があるので時間がかかるみたいだけれど、ボクはそれまで待つつもりはない。

 彼女だってそれは同じ。ボクは彼女の潤んだ唇に、ボクのそれを重ねる。

 彼女もボクの背中に、そっと手を回す。小さいころからずっと一緒で、いつも傍らにいた。

 犬人族は怖いことがあったり、不安になったりすると、互いに身を寄せ合う習性がある。

 ボクらは二人で育ってきたのだ。それは今も変わらないし、これからも変えるつもりもない。国王になっても、ボクはずっとリアンの隣だ。彼女に守られることもあるだろう。でも、ボクだって彼女を守りたい。親衛隊であり、王妃とするのは、そういうことだ。

 そうして、二人で歩んでいく。第九王子で詰んでいたはずだけれど、タナボタで人生が切り拓けた。でも、まだまだ多難だ。だからこそ、ケモノ耳とケモノ尻尾をつけた、彼女とともに生きていく。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第九王子で詰みました。だからケモノ耳をつけて、女の子として生きていきます。 巨豆腐心 @kyodoufsin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ