第11話 眠るキミ

 朝、目の前にはリアンが寝ている。こちらに背中をみせているけれど、きっと熟睡中だ。

 相変わらず寝起きは悪くて、ボクはその背中から服の下に手を挿し入れて、彼女の下着となっている布の下にねじりこんで、その胸に直接ふれる。大きくて、柔らかくて、触り心地は抜群。あまり動かすと起きてしまうかもしれないので、早めに先端にふれてみる。

 興奮していないので、それほど存在を主張してこない。でも小さく盛り上がったそこを、指先でゆっくりと回すようにこする。

「う、う~ん……」

 ボクは慌てて手をひいた。起きたら、絶対に怒られるからだ。

 最近、セルカやミルカのそれにふれて、溜まっているのだろうか? 何となくリアンのそれが気になった。彼女が起きているとき、そんなことをすると確実に怒られるので、寝ている間だけのお愉しみだ、

 でも、さすがに服の下に手を入れているとバレたとき大変だけれど、もう一度服の上からなら……。

「こら、何をしているんだい?」

 リアンが起きずとも、ハマンに見つかってしまう。この辺りは狭い家なので仕方がない。

「今日はこの前もらった干し肉を焼いているから、早く顔を洗っておいで」

 ボクはリアンを起こして、裏の小川にいく。今日は朝食もそうだけれど、大切な仕事があって、早起きする必要があった。それは岩塩を採掘しに行くのだ。


 ハマンに連れられ、ボクとリアンは籠を担いでついていく。岩塩がとれる洞窟は山の中腹にあり、誰でも入ることができるものの、中は最上級ぐらいの危険度だ。犬人族では岩塩が通貨のように物々交換に利用できるなど、貴重である一方、その採掘は命がけだ。

 並みの犬人族では、まず死ぬだろう。洞窟は細くて、大人数を展開させることも難しく、集団で突入することもできない。

 だから専門の、岩塩を採掘する者がおり、ハマンもその一人だった。

 洞窟の前まで来た。

 ハマンはボクから籠をうけとって背中に担ぐと「じゃあ、行ってくる」と、一人が頭をかがめてくぐるぐらいの、小さな穴へと入っていく。

 リアンもボクに一度、ぎゅっと抱きつくと、それで覚悟ができたのか、ハマンにつづいた。

 ハマンは岩塩採掘のプロ――。その技を、娘のリアンに伝授しようとしていた。なのでリアンも一緒に行くけれど、ボクはここまで。

 それは第九王子とはいえ、王族を連れて危険なところに行けないからで、ボクも弱くてみんなの足枷になることが分かっているから、ムリに「連れて行って」とも言えない。

 しばらく待ちぼうけだけれど、その間にこの辺りにある野草を摘む。野草は食べるためだけではない。色々とつかえた。


 待っていると、洞窟をリアンが抜け出てきた。そのすぐ後、傷だらけのハマンが出てくる。リアンは背中にかついだ籠を下ろすと、その場に崩れ落ちるようにしてすわりこんだ。ハマンも荒い息遣いで、その場にすわりこむ。

「大丈夫?」

 そう問うと、ハマンは「私は切り傷だけだ。リアンを診ておくれ」

 リアンに近づくと、左足の足首が大きく腫れ上がっていて、どうやらひねったようだ。

 こういうとき、さっき摘んでおいた野草が役に立つ。それを彼女の足首に巻いてあげて、上から布でしばった。

 ハマンも自分で止血に効く野草を、傷口の上からこすりつけて「イタタタ……」と呻いている。

 洞窟にいる魔獣は、日の光を嫌がるために、外にはでてこない。でも、入り口近くまで追ってくるので、二人で必死に逃げてきたのだ。

「でも、五キロぐらいは採掘できたよ。今日は大量だね」

 ハマンが守っている間に、リアンが採掘する。二人一組で行い、リアンが小さいころはハマンと、姉妹のハルラで採掘していたそうだ。

「リアンのことを担いでやってくれ」

 ハマンは自分では籠をかついで、ボクにリアンを背負うよう促す。

 リアンもボクの背中にしがみつくと、頭をボクの肩にうずめるようにして、ぴたっと体を密着させると、そのまま沈黙してしまった。

 よっぽど怖かったのだろう。ボクも余計なことを問わず、彼女をしっかりと背負って山を下りる。


 ハマンは採掘した岩塩を、みんなに分ける。岩塩は通貨として、物々交換の中でも重要な位置を占めるけれど、人族にも売ることができた。それで必要なものを手に入れたり、貧しい犬人族では重要な物資である。

 それを独り占めしないのは、犬人族は分け合う考え方が一般的だからだろう。それをできる者が為し、得た利益は周りと共有する。今では家を建て、家族単位で暮らすけれど、この辺りは群れだったころの意識がまだ残っているようだった。

 リアンは怖かったのか、家についてからもずっとボクの隣にいて、ボクに体を寄せてくる。

 足を怪我しているので、移動するときはボクが肩を貸すなどしているけれど、それ以上の密着度だ。

 ボクの手をすりすりしてくるなど、小さいころの癖もでている。

 その日の夜、リアンがボクの隣で眠りたがった。

「どうしたの?」

 そう問うけれど、嫌々をするように、ボクに顔をこすりけてふるばかりだ。

「今日はその子のやりたいようにさせてやりな」

 ハマンにそう言われ、ボクにしがみつくように、首に手をかけると、肩に頭を乗せて、痛めている足もボクに乗せるようにして、リアンは横になった。ボクもその頭を優しく撫でてあげると、しばらくして彼女も落ち着いたようで、眠りについてしまった。


「どうしたんですか?」

 リアンを起こさないよう、小声でハマンに尋ねると、彼女は応えてくれた。

「どうやら、リアンは私より夜目が利くようなんだ。私には五メートル先しか見えないけれど、この子は同じランプで十メートル先がみえる。そうすると、私が気づいていない敵が、彼女には分かることになり、それが怖かったんだろう」

 これまでもハマン、リアンのコンビで何度か洞窟にもぐっているけれど、今日は特に魔獣が多かったそうだ。それで、恐怖が高まり、足を怪我したこともあって怖さが倍増した。

 小さいころから、ボクと一緒だと安心する。強さはリアンの方が断然だけれど、心はちがう。基本的に、リアンは臆病で、神経質でもあった。

 その精神的な疲労もあって、眠りが深いのでは……とボクなどは考えている。今も胸のふくらみをボクは堪能するけれど、それ以上に彼女を起こさないよう、しばらくこのままで……と、その可愛らしい寝顔をながめつつ考えていた。






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