第10話 体を拭く

 シャガルが来たとき、菓子折りではないけれど、手土産としてお肉をもってきた。王族が手ぶらで……と気にしたのかもしれない。スクウェアなトラベルバッグに、たっぷりと干し肉をもってきたのだ。

 犬人族は、野生の動物をつかまえて食べるジビエだけ。でも人族は家畜化した動物を食べている。だから白身が多くて、おいしいお肉で、お裾分けにクルラとメルラの家にやってきた。

「シルラ、待って……。おう、リアンとエンドじゃないか。どうした?」

 基本、彼女たちは家では下着姿だ。下着といっても、布を巻いてあるだけなので、水着に近い。ただ肌色多めで、ちょっと血流が上がると先端がくっきりとした生活、と思えばいい。

 リアンももう諦めているので、今さら注意もしない。これでも昔は全裸だったのであり、母親のハルラがふだんから裸でいるため、そうだったのだ。

「イノシシ肉を干したから、お裾分け」

 ボクが第九王子で、王族からの土産……とは言えないので、この前捕まえたイノシシの肉、ということにしておく。

 クルラの後ろから、シルラが全裸で飛び出してくると、その後ろからメルラも全裸で飛びだしてきた。どうやらみんなで、体を洗っていたようだ。お湯をつくることがないので、犬人族は昼間に濡れた布で体を拭くだけのことが多い。なので、昼間訪ねるとこういうことが往々にして起こり得る。リアンも呆れた様子で、深いため息をついた。


 ボクたちが家にもどってくると、リアンが「私も体を拭こうかな……」という。

「どうぞ、どうぞ」

「覗く気でしょう⁉」

「覗く気はない。その気はないけれど、覗いちゃったらゴメン」

 むしろ覗く気満々だけれど、体を洗っておくのは必要であり、リアンも一計を案じた。「先に洗ってよ」

 ボクもなるほど……と思って、先に体を洗うことにする。桶に水を汲んで、それをもって洗い場に入る。床は石を布いていて、水がすぐに溜まらないのと、泥跳ねを防止する。

 体は布で丁寧に拭い、頭も水をかけて流すだけ。犬人族だと、皮脂がでるので水だけでも髪が艶々する。

 人族であるボクは、そこまではムリで、水洗いだけだとごわごわするけれど、こればかりは仕方ない。人族は基本、石鹸などをつかうのだけれど、ここにはないのだから……。

 ただ、洗い場から出ようとして、外から会話が聞こえてきた。ボクも慌ててカチューシャのケモノ耳と、腰にケモノ尻尾を巻く。

 扉といっても藁を編んだだけのものをそっと開けて外をみると、リアンとセルカが話をしている。あまり芳しくない話なのか、リアンも渋い表情をしている。あまり他人の前で表情を変えないリアンとしては珍しいことだ。セルカも深刻な話なのか、笑顔がない。


 やがてセルカが去り、ボクも洗い場からでてきた。

「どうしたの?」

「ちょっとね……。じゃあ、次は私が入るから、覗かないでね」

 リアンはそういって、洗い場に消える。前フリにしか聞こえないけれど、さっきの表情をみると、何かあったことを思わせた。

 昔は体を洗うのも一緒だった。それこそ、犬人族には男性がいないので、リアンはボクの下腹部を指さして「何でこんなものがついているの?」と尋ねてきた。

「リアンのもよく見せて。ホントだ、ちがうね」

 ボクはそのときから自覚があり、リアンのそれをじっくりと観察させてもらってから、そういう。

「さわってみていい?」

 リアンはそういって、ボクの下腹部を丁寧にさわる。

「痛くないの?」

「骨はないから、痛くないよ」

「下のこれは? しわしわしているね……」

 丁寧に指の腹を這わせ、その感触を確かめている。水のお風呂で、ちぢこまっているためにしわしわで、カチカチだ。

 でも、興味津々でそう弄られると、ボクの方が反応してしまう。

「あれ? さっきと形がちがう……。大きく、硬くなったよ」

「うん。ここは形が変わるんだ。もっと大きくなるよ」

「ホントだ~……」

 小さいころの、他愛のない会話だけれど、今思いだすと赤面してしまう。


 今は、一緒に入ろうというだけで険しい瞳を向けられる。でも、覗くだけなら……と、そっと近づく。

 そのとき、背後から「ねぇ」と声をかけられ、ボクもドキッとしてふり返った。

 そこにはセルカが立って……あれ? セルカじゃない。姉妹のミルカだ。彼女たちは姉妹でそっくりだ。違いはほくろの位置で、耳にあるのがセルカ、鎖骨にあるのがミルカである。セルカはメイドとして優秀だけれど、ミルカはどちらかというと自由な気風で、成績もあまりよくない。

「ミルカさん、どうしたのかしら?」

「エンドさんがセルカに施したことを、して欲しくて……」

「施した? 何かしら?」

「ほら、メイドの補修のとき……」

 彼女の胸を堪能させてもらったとき……か。なるほど、その話をミルカはリアンにしたのだ。それで彼女が不機嫌となり、あんな表情をしたのだろう。

「セルカったら、それ以来、自分の胸をさわることが多くて、問い詰めたら白状したの。で、私もしてもらおうと……」

 変なことを目覚めさせたか? でも、今さら断りにくい。なぜって? メイドの修養の一つとして施したことだからだ。


 リアンが洗い場からでて、家にもどると、こっそりと洗い場に忍びこむ。そこでミルカも全裸となった。

 彼女も胸は小さめで、でも形はよい。彼女をすわらせ、ボクは後ろにまわって、脇から手をまわして、ゆっくりと胸の辺りを布で拭く。周りからゆっくりと、優しく這わせていくと、彼女の突起はすぐに佇立した。

「こ、これなのね……」

「そうよ。セルカが気に入ってくれたのは」

「い、いいわね。うん……、すごくいい」

 犬人族は、性的な接触がほとんどない。子づくりとて、自分一人でできる。こうして胸をさわり、その敏感なところを責める……とは、自分一人ですることで、他人にしてもらうことではないのだ。

 だから彼女も、とろんとした表情を浮かべ、それを受け入れている。右胸、左胸、その先端まで優しく、丁寧に拭きあげていくと、彼女は満足そうに「くぅ~ん……」と呻く。

 何だか、リアンに隠れて楽しんでいる……という背徳感のようなものもあり、興奮するけれど、この後の方が大変そうで、彼女をここからどう逃がそうか? 浮気している気分にもなっていた。



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