第7話 狩り
今日は学校が終わって、リアンとクルラ、それにメルラとボクで、狩りをするため森に来ていた。
犬人族は縄張りに近い感覚で、生活圏を決めている。森の中で暮らすので、境界はないし、マーキングしてここ、というような明確な区分はされていないけれど、大体ここまで、と自分たちのエリアを決めている。
クルラとメルラの家と境を接するので、その辺りを一緒に探索する。
動物も、ボクの知る世界とほとんど変わりない。イノシシ、シカ、ウサギなどは農作物を荒らすこともあって、獲物とすることが多い。
クマもいるけれど、クマは犬人族も倒すのが大変で、クマの方も実力の拮抗する犬人族を、わざわざ襲ってくることはないので、対立しつつ平行線という感じだ。
「この前、イノシシは先にリアンに仕留められたからな。今日はシカを狙う」
クルラは腕まくりしながら、そういって先頭をすすむ。この世界の狩りは弓矢と剣であり、体術がものをいう。リアンとクルラが狩りにおいては優秀で、ボクとメルラは獲物を追い立てたり、仕留めたケモノをはこぶ係だ。
午後からしばらくやっていたけれど、シカ一頭、ウサギ四羽を狩ることができた。
仕留めたら、すぐに血抜きする。血がのこると肉に臭みがでる。大切な命を狩った以上、ムダにすることはできないので、血が固まり始める前に抜くのだ。
「シカを捌いて別けるから、一旦うちに寄ってくれよ」
クルラにそう言われ、クルラとメルラの家に向かう。ただ、リアンはあまり乗り気ではない。
二人が暮らすのは洞窟だ。トイレなど、水回りだけは外に、個別に小屋を建てているけれど、基本は山の中腹にある、入り口の小さな横穴があって、そこを生活の拠点としている。
「お姉ちゃん、お帰り~ッ!」
洞窟から飛びだしてきたのは、クルラとメルラの妹、シルラである。今は四歳で、来年には学校に通う。赤毛の短髪で、クルラとメルラより、どちらかといえば従妹にあたるリアンに毛の色は近い。
大体、犬人族は子育てをはじめると、五歳差で子供を産むことが多いそうだ。五歳から学校に通いはじめ、手がかからなくなるから、次の子供を……と考える。結婚をしない犬人族では、子づくりのタイミングも自分で決めるので、計画的だ。
「二人とも、よく来たね」
畑仕事を終えたのか、クルラとメルラの母親が野菜を入れたかごを抱えてもどってきた。彼女はハルラ――。犬人族の名前は、語感を合わすのが通常だ。それは語頭、語尾のどちらでもよく、リアンの母親がハマンで、ハルラとは語頭を合わせたことが分かる。
ただリアンが来たがらなかった理由は彼女だった。ハルラは上半身裸で、平気で外でも歩いてしまう。
畑仕事なので、どうせ汚れるから……と、今も上半身は裸であり、たわたな胸が露わとなっていた。
ここまで明け透けなのは珍しいけれど、山奥なのでどうせ誰もいないし、女性ばかりの犬人族は羞恥心も低い……そう見なされるのが、リアンは嫌なのである。
リアンはちらちら、ボクのことを気にする。
リアンの小母にあたるハルラでさえ、ボクが男とは知らないので、こればかりは仕方ない。もっとも、例え男と知っていたとしても、彼女なら気にせず裸でいそうだけれど……。
ちなみに、ハルラとハマンは姉妹だけれど、ハルラの方がハマンより五歳上だ。一世代しか家族という認識、つながりを意識しない犬人族では、母親が一緒でも、年が離れるとあまり姉妹として意識しないものだけれど、ハルラとハマンはちがった。
ハルラは一時期、町の方で人族に仕えていたことがあり、お金を蓄えてから子育てに入っている。その話を聞くのは好きで、昔はよくボクたちも訪ねてきた。
「母さん、ちょっと台所をつかうよ」
クルラはそういって、台所といっても単なる台となったところに、運んできた収穫物をおく。ここも水は小川から汲んできてつかう。ボクらのいる小屋より、やや下流に当たる。
解体もお手の物だ。リアンやクルラになると、毛皮をとるためにどこを切ればよいか? といったことまで考えてトドメをさす。皮は人族に売ることもあるけれど、大したお金にはならず、大抵は自分たちでつかう布団やカバー、防寒着などに用いる。
「肉は均等……、皮はどうする?」
「うちはそれほど必要ないから、シルラちゃんの冬着にでもして」
「そいつは助かる。たまには私とメルラのお古じゃなく、新品を着させてやりたい」
「よかったね、シルラちゃん」
そうメルラから語りかけられ、シルラも嬉しそうに「うん!」と頷いた。
「終わったかい? 野菜を洗いたいから、終わったら空けておくれ」
ハルラがそういって、相変わらず上半身が裸のまま、こちらに近づいてくる。ハルラがこうだから、クルラもメルラも、小さい頃は裸でいることが多かった。学校に通うようになって、いつも服を着るようになったが、遊びのときにはひやひやしたものだ。もっとも、それはリアンの目が怖かった、という意味で、だけれど……。
大人の犬人族は、乳が大きい。基本、母乳で子供を育てるし、三、四歳で乳離れするので、まだシルラは乳を飲んでいるかもしれない。子供が必要とする間は、乳も張っている。
「何だい、エンド。あんたも乳を飲みたくなったのかい? そんな見つめて……」
「ち、ちがいます」
慌てるボクに、ハルラは笑いながら「最近、シルラも離乳食が増えたから、別に飲んでいっても構わないよ」
「じゃあ……」というわけにはいかない。リアンに睨まれ、ボクも苦笑しつつ「遠慮しますわ」
「しかし、うちのメルラもそうだけれど、リアンももう子育てできそうだね」
二人の乳を見比べ、ハルラはそう値踏みする。
リアンも乳をガン見され、恥ずかしいのか両手で隠してしまう。
「私は一旦、働いてから子育てすべき、という主義だ。社会を学んでからでも遅くないからね。リアンはどうするんだい?」
「私は……」
言い淀んだリアンは、ボクをちらっと見る。でも、その答えにボクは協力できないので、横を向いた。でもそれは、さっきまでリアンの乳を見ていたためでもあり、美乳をみつめられるタイミングでたっぷりそれをする。そんな思惑を知られたくないためでもあった。
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