第6話 メイドの立ち居振る舞い

 メイデン学園ではメイドの基本を学ぶ。

 調理――。これは問題ない。前世でも一人暮らしが長く、一通りはこなしてきた。この異世界の植生や動物、昆虫などは元の世界とほとんど一緒。むしろ、調理実習では人族の食べるものを実際に調理するので、ふだんよりおいしい食事がとれ、それはそれで楽しみだ。

 掃除――。苦手だけれど、やるしかない。

 洗濯――。これは大変だ。洗濯機はないし、洗剤も人族ならつかえるけれど、実習でそれを配ることはない、それぐらい貴重だ。なので、きれいに汚れを落とすのに、洗濯板だけでは限界もあって、そのコツを学ぶのがこの授業の大切な点である。

 もっとも大変なのは、所作――。立ち居振る舞いといってもよいけれど、これは人族だから……とか、前世の記憶とかではなく、ボクがメイドになっても……という意識が邪魔をする。

 人族がメイドを折檻するとき、耳や尻尾をひっぱることが多いらしい。それが犬人族の弱点でもあるからだ。

 でも、ボクはそれをされると、犬人族でないことがバレてしまう。つまりメイドとして従事することは、ほぼ不可能なのだ。よほど優しいご主人様でもみつかれば、別だけれど……。


「ホント、エンドってこういうの、苦手だよね」

 メルラに笑われる。メイドとして学ぶのは五人。武術クラスと合わせ、十一人がこの学園の五年生全員だ。これでも豊作とされ、下の学年は全員を集めても一桁でしかない。

 これは犬人族が点在して暮らすことが影響する。町をつくらないので、一つの学校の子供の数が限られるのだ。

 ボクは今日、メイドとして落第となり、居残りをさせられていた。深々と頭を下げるけれど、目の前にいるご主人様が次にどう動くかを、相手の足先をみつめて判断しないといけない。

 そうやって先回りして、色々と気を回さないといけないのだけれど、これが中々に難しい。

「ほら、ちがうわよ。朝の設定なのだから、これからご主人様は身なりを整えようとしているの」

 そう指導してくれるのは、セルカ。メイドとしての授業は全員がうけるので、メイドクラスといったものはない。でも、このメイドの授業で最優秀な成績を修める少女である。白い髪と尖った耳、長い髪をシニヨンにまとめ、今からもうメイドとしての容姿をととのえている。

 ちなみにメルラもいるのは、彼女も居残りだからだった。


「人族は朝、湯浴みをする人もいます。よいですか? 相手が全裸でいるときは、特に気をつけないといけません」

 そういうと、セルカは服を脱ぎだす。

「え? 何を……?」

「はぁ……。あなたたちが落第しないよう、状況に即した行動がとれるか? 検査します。私をご主人様と思って、私の行動を先読みして、お仕えするにはどういう行動をとるか? 考えて」

 考えて……といわれても、セルカにとっては同じ女の子同士で、恥ずかしくはないだろうけれど、ボクとしては全裸の少女を前にして、考えることといえば……。

「エンドさん、前にまわってどうするの? ご主人様には後ろから近づく。ほら、メルラさん、相手の肘をもって、添えるようにして軽く持ち上げて。そう、それで後ろから手を回して、体を洗う」

 セルカは胸自体、それほど大きくない。小さくはないけれど、メイドとして肉体的なアピールがない分、所作といった立ち居振る舞いを磨いてきた。だから優秀で、先生からも同級生を指導して、と頼まれているのだ。

 メルラがセルカの脇から手を挿し入れ、その胸の辺りを優しくこすると、小さいながらもぷるん、ぷるんと形のよい胸が揺れる。

「本当に拭く必要はないから……。メルラさんは右利きだから、右は慣れているだろうけれど、左は?」

「こう……?」

「ダメ! それでは強すぎるわ。もっと優しく……そうよ。もう少し丁寧にするといいかしら。次、エンドさんもやってみて」


 セルカの背中から、手を回す。別にタオルを水で濡らしているわけではないので、軽く体を拭うだけ。

 だから優しく、その表面をなぞるようにする。でもその膨らみ、湾曲したそこを丁寧にたどっていくと、その先端にある突起に、弥が上にもふれざるをえないのであって……。

「エ、エンドさんは……ちょっと優し過ぎで……」

「こう……」

「う、うん、いい感じね……」

 セルカは真っ赤な顔をして、顔を俯けている。ボクの微妙なタッチが、何やらツボに……というか、ツボのような形をした丸みのあるそこを、絶妙に感応しているようだ。

 そうなると、優等生のセルカにちょっとイタズラしたくなり、ボクもその先端をつまむようにして、丁寧に拭き上げる。

「エ、エンドさん? そこはそんなに拭く必要は……」

 でも、そんなことを言って、微妙に嫌がっていないと感じさせるのは、ボクの右手の上に、そっと添えられた手が外そうとするより、そこに固定するかのように、動かないからだ。

「じゃあ、これぐらいの力加減?」

「う、うん……」

「もう少し強い方がいいかしら?」

 わざと……というか、ボクも少しでも愉しみたいから、そういいながら動かす指を止めない。布越しだけれど、彼女のそれが硬く、またもっとして欲しいかのように、さらにその存在を露わに大きくなるのを感じて、ボクもさらに強く……。


 そのとき、ボクが居残りさせられているので、心配になって見に来たリアンががらりとドアを開けた。

 ボクはハッとして胸から手を放すけれど、時すでに遅し……。

「何をしているのかしら?」

 冷静だけれど、怖いぐらいの鋭い声音で、リアンがそう尋ねてくる。

「あぁ、リアンさん。朝の湯浴みにおける所作を……」

「今日、やることだったかしら?」

「肉体の動きの機微に合わせて、正しい判断を下せるよう……」

 セルカも、どうしてリアンが怒っているのか? 戸惑いつつそう応じる。ただ全裸でいる必要もないので、そそくさと服を身にまとった。

「でも、ためになったよ~」

 空気を読まず、メルラがそう言ったことで、何となくその場が丸く収まった。

 でも、丸く柔らかいものを堪能したボクの方が、下半身のとんがりを中々鎮めきれておらず、それをみるリアンの目も鋭くなっているのに気づき、ボクの心は丸く……どころかざわつきが収まらず、益々硬くなるばかりだった。





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