第3話 魔法と水浴び

 この世界の魔法について、少し説明しよう。

 ごく一般的な、精霊と契約したり、自身の生命力を魔力に転換したり……といった魔法ではない。簡単に言うと、コピー&ペースト。誰かの魔法をコピーし、ペーストするだけだ。

 その魔法についての深い知識、理解、洞察があってコピーができる。それを実践できる能力があると、ペーストによって使用できるのだ。

 簡単な魔法なら、学校でも習うけれど、難しい魔法だと王侯貴族が抱えこみ、一族で継承する。それが彼らの力の源泉であり、彼らが特権をもつ最大の根拠ともなっている。

 ボクは第九王子、王族ではあるけれど、コピーさせてもらえないので王族の魔法はつかえない。ただ、ボクは別の形で魔法を身に着けようとしていた。それについては追々語ろう……。


 学校は午前中で終わる。犬人族は基本、みんな貧しくて給食をだしたり、部活をしたり、そんな余裕もないし、子供も重要な働き手であって、家に帰ってから仕事をする子も多い。

 犬人族が子育てするときは収入がない。そこで大半が自給自足の生活となり、畑仕事や、狩猟採集で日々の食事を賄う。だから犬人族の家は一軒ずつが離れ、縄張りのようにそこを食糧調達の場、とするのだ。

 リアンもクルラも優秀な狩人であって、家の大黒柱だ。

「今日は狩りに行く?」

 クルラが尋ねると、リアンは首を横にふった。

「この前、大きなイノシシを捕まえたから、今日は行かないわ」

「え? あの畑を荒らしまわっていたイノシシを、一人で捕まえたの? さすがリアン! いいな~。当分、お肉を食べられるじゃない」

 クルラは口惜しそうにそういった後「じゃあ今日、泉に行かない?」

「釣り?」

「ちがう。水浴び♥」


 犬人族の家にはお風呂がない。普段は体を拭くだけだけれど、時おり泉にいって体を洗う。そこは不思議な泉で、湧いた水がすぐ地面に染みこんでしまう。常にきれいな水が循環するので、お風呂になる。ただとても冷たいため、昼間しか入ることができない。

 四人でそこに向かう途中、リアンがボクに近づいてきて、小声で「エッチな目で見たら、殺すから!」と念を押してくる。

 あくまで女の子として生きる身であり、変な行動は疑われる。目を逸らす、というのはし難い。

「わ~い♥」

 泉に到着すると、真っ先にメルラが服を脱ぎだす。無邪気だけれど、もっとも女性的な体……大きな胸の持ち主だ。

 一応、下着はつけたままなので全裸ではないけれど、薄い布地を巻いただけの下着でもあって、目のやり場に困るのも確かだ。水に濡れると体に貼りつき、その突起もしっかり、はっきりとその形を……。

 リアンに睨まれ、ボクも慌ててメルラから目を逸らす。

 クルラは長いところなら二十メートルぐらいはあるその泉を泳ぐ。メルラは首まで浸かり、リアンは腰までで、上半身には掛け水をする。犬人族は耳が濡れることを嫌い、それを気にしないクルラが珍しく、警戒し過ぎるのがリアンだ。


「相変わらず、エンドは胸が小さいな」

「クルラも同じでしょ!」

「ちがいない。リアンみたいな、筋肉もあるのに胸もあるのは反則だよなぁ~」

 視線が集まっているのに気づいて、リアンは胸を押さえて背中をみせてしまう。

「私の方が大きいよ~」

 メルラはそういって、自分で胸に手をあて、たぷたぷと揺すってみせる。

「メルラのそれはぜい肉だろ?」

 クルラにそう腐され、メルラは怒りを自分の胸にむけるよう「む~~~~ッ!」と揺すった。その動きが激し過ぎて、ぽろりと布が外れてしまう。

「ありゃ、とれちゃった」

 女の子同士だと思っているので、メルラも胸を隠そうとしない。この辺りは「きゃ~ッ!」という反応の方が純粋にうれしいけれど、その巨乳を眺めているのも、これはこれで……。

「何かエンド、エッチな目でみている~!」

「ちがう、ちがう。どうしてそんな大きくなれるのかなって……」

「何もしていないよぉ。毎日、大きくなれって揉んでいるぐらいかな」

 犬人族には男性がいないので、それは異性へのアピールではなく、メイドとして雇われ易くなる……というメリットだ。

 胸が大きい……といって、人族から性的に……ということもない。それは倫理観がしっかりしているからではなく、人族は自尊心が強く、他種賊を下にみて、交わりをよしとしないからだ。

 だからといって、愛でるだけで済まず、手をだす輩も多い。魅力的な肉体の犬人族のメイドを集める……それは高貴な遊びとして、人族の中で流行していることも確かだった。


「あ! タガメ……」ボクはそういって、水の中を覗きこむ。

「エンドちゃんって、そういう虫が好きだよね?」

「だって、可愛くない?」

 メルラは肩をすくめて「それはエンドちゃんだけだよ」と、ボクの近くにいるけれど、虫と聞くとリアンは遠巻きだし、クルラも近づいてこない。

 ボクとしては押しつけられる彼女の胸の方にも興味あるけれど、今はそれどころではない。ボクはこうした虫や、動物、植物をコピー&ペーストし、魔法を蓄えているのだ。

 当然、人とはまったく態様も異なり、つかえるような魔法は少ない。でも極めて特殊な、応用が利くことを期待して観察している。

 クルラやメルラに、ボクが人族であることは内緒なので、ここで魔法をつかうことはないけれど、コピーだけはしっかりしておこうと、観察を止めない。

「そろそろ帰ろう」

 クルラにそう促され、みんなも従う。ここからがボクにとって大変だ。

 下着である布が濡れているので、それを外して、全裸になって制服に着替える。そのとき、ボクは見られたら色々と都合の悪いこともあった。

 濡れたケモノ耳のカチューシャ、シッポを絞り、外れないように着替えないといけない。

 それに、胸がない……。下着の布に、少し盛り上がりをつけてあるけれど、外せばぺったんこだ。

 犬人族は、濡れている髪や尻尾を、大きく体をふることで水をはじき飛ばす。でもそれって、胸もぶるんぶるんと大きく振るのと同じだ。

 特に胸の大きな、リアンやメルラだと、ピタッと貼りついた下着とともに、とても官能的……。

 でもボクがそれをみていると、濡れた下の布を外すことが難しくなる。ただでなくとも、足の間に挟んだり、みんなに見えないところで外したり、と苦労するのに、彼女たちの胸なんてみていたら、それすら難しくて……。










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