第20話〜協力したいんだよ、キミに

 遊戯室に歩いていく。ずっと彼が着いてくるので居心地が悪い。


「何が目的で着いてくるんですか」

「協力したいんだよ、君に」

「そうですか」


 遊戯室に着いて、勝手にご飯を用意して食べながらメモを書く。この作業は中々に楽しい。しかし隣でその作業を凝視している青年が居るので落ち着かない。


「そろそろ仕事に戻っては?」

「今、この館で指揮監督をする者はいないんだよ。新しい料理長が就任するまで待機なんだ」

「今、何が出来るのか自分で考えて行動しないんですか」


 そうやってオウム返しのような事を言うと、彼の笑みは消えた。


「全員が行う仕事にはね、個人の意思は要らない。主体性も要らない。この館のクッキーはただ命令に背かないという命令を頭に入れておかなくてはならない」


 誰かの入れ知恵だろうか。輝く星の目は酷く冷たい。


「…なんて、酷い」

「そんな事分かりきっているよ。ね、それよりキミの推理を聞かせてよ。今までの話で大体は掴めているでしょ」

「推理は探偵がやるものです。助手は証拠やアリバイを集めるのが仕事なのですが…良いでしょう。少しだけお話します」


 先程までの冷たい目からキラキラした目に変わった。助手はその落差に驚きながらも、彼に流されて話してしまった。


「ふふ、桜子ちゃんの仕事振りを聞けるだなんてね。楽しくなってきたよ」

「緊張感がなさすぎます。殺人事件ですよ?」

「ごめんね、あまり人が死んだという実感が湧かないんだ」


 本当に実感がないのだろうか。そう思ってしまった。私は食べるのをやめて話した。


「桜子が調べて、変だなと思った事を今からお話します」

「この事件で奇妙な点は三つです。一つ目は遺書、筆跡を真似て書くというリスクの高い事をした。すぐにバレてしまうのに何故?」

「そこに何か意味があるんじゃないかな。犯人がわざわざそうするって事はね」

「二つ目、彼が死んだ後に犯人はどうやってあの密室から出たのか。窓の鍵は閉まっていたし、勿論扉だって閉まっていました」

「密室殺人事件、ミステリーにおいて定番だね。ゾッとするよ」

「三つ目、これが一番よく分からない点です。なぜ。殺害予告が送られているならばまだしも、何もないのでしょう」


 返答は当たり障りないもので、彼は愛想笑いしている。


「そこにも何か意味があるんだよ。まだ調査は完璧には終わってはいないのだから」

「はい、口を開けて」


 スプーンを持って口に近づけてくる。反射的に食べてしまった。


「何をするんでふか、やめてください」

「キミって本当に面白い子だよね。ボクの予想を逆走していくだなんてね」


 イタズラが成功したように笑っている。その笑みは嘘ではなく、心から笑っているようだった。怒りで顔が赤くなっているのか、それとも恥ずかしいから赤いのか。


「次はありませんからね、もう」

「顔が赤い原因がボクって中々いい気分だね」


 扉が開かれた、入ってきたのでチェリーだった。


「フェイ様ー!あ、やっぱりここに居たのですね?桜子様もいらっしゃいますぅ」

「チェリーさん。どうかしましたか」

「メアリー様から殺害予告状が見つけたと。そ、それを全員で見ようって」


 彼女の足は震えており、後ろを指指した。どうやら食事会場で確認するようだ。


「それは本当ですか。すぐに行きます」

「本当に何かの意味があるのかもね」


 そればかりしか言えないのだろうか。桜子はそう思った。

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