第18話〜夫人、チョロすぎだわ
「このままじゃ拉致があかないね。探偵様、犯人は誰なのか分かっているんだよね?」
「いんや、まだ分からないね。実は外部からの犯人がいる可能性がある。外部といっても私達ではないぞ、この館に居ない輩という意味だ」
「窓枠やカーペットに乾いた土埃が付着していたからねぇ。まぁ、容疑者達がカッパを被って窓から侵入してきたという可能性も否めないよ」
それを聞いた容疑者達は震えている。自分達の領土を侵す者が居るのではないかと思うと気持ち悪いと感じたからだ。
「が、がが外部からのですって!この館に殺人鬼が潜んでいるとでもいうのですの?」
「その辺りは憶測だがね。まぁ、現場は密室だとするなら入るなら窓しかないでしょうに」
分厚い唇が歪んでいる。しかし、彼女は何かを思いついたようだった。
「部屋の鍵を使った後に盗んだんじゃないかしら?それなら部屋の外で鍵を掛けたら密室の完成ですわよ」
「鍵は盗まれてはおらず、部屋の中にあった。外から鍵を掛けるとなると犯人が鍵を持っていなくてはならないからそれは有り得ませんよ」
夫人はしょんぼりしている。
「また現場に戻って証拠を探してきましょう。このまま話を聞いて、動機を探すのもいいと思いますが」
桜子がそう提案すると、信濃は席から立ち上がった。それを見て彼女も立ち上がった。
「私が現場に調査する。君は聞き込みに専念しておくれ」
「分かりました」
「あ、それと桜子君」
「何でしょう」
耳元でコソコソ話している。何か心配をしている様子だが、何だろう。
「君には不必要な心構えかもしれないが、あまり深入りはしないように。深淵をのぞく時、深淵ものぞいている事を肝に銘じておくれよ」
「はぁ、そうですか」
「それじゃあ頼んだよ。すぐに戻る」
背を向けて、現場の方に行こうとするがシャンティが席を立って彼の肩に手を置く。それに驚いた彼はすぐに距離を取る。
そんな探偵に首を傾げながらも彼女は話した。
「アタシもその現場に行っていいか。アンタに話したいことがあるからよ」
「嗚呼、その話に価値があると誇れるのであれば着いてきなさい。聞こうじゃないか」
その光景が夫人にとって面白くなかった。少しでも心配されるかなと年相応ではない乙女心を抱いていたからだった。
何も言われず、見解だけ話されたので彼女は少し不貞腐れている。
「もう、何なんですの。淑女が倒れていたのに大丈夫?の一言ぐらいかけても良くってよ」
膝にくるような立ち方で、彼女はそのまま部屋に帰ろうとするが、チラチラと信濃の方を見ている。構って欲しいのだ。
「ワタクシ帰りますから。留まってと仰っても遅いですわよ」
「危ないので部屋に留まっていてください。これ以上被害者を出してはいけない」
「はい、分かりましたわ」
信濃はただ職務上の定型文を出しただけなのだが、それが夫人の乙女心に響いた。彼女は頬を赤くしながら軽い足取りで部屋に戻った。
「夫人、チョロすぎだわ」
「分かりやすくハートが出ていますぅ」
チビッ子の二体はあんな枯れた恋愛観には、ならないようにと心に刻んでいた。
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