第16話〜第一発見者は
そして今は全員、昨日は食事会場になっていた部屋に集まっていた。
真ん中に夫人、その左にはシャンティ、メアリーが座っており、右にはフェイ、チェリーが座っている。
そして探偵達は容疑者達と三席ほど距離をあけて座っていた。
大きなキャンディリアの光が全員の影を濃くしている。重い雰囲気の中で、桜子が口を開けた。
「まず第一発見者は手を挙げてください。」
手を挙げたのはシャンティだった。
「アタシだ」
彼女は手を下げて、腕組みをした。彼女自身あまり思い出したくないのだろうか、彼女は吐き捨てるように言った。
「アイツ遅刻には厳しいのに自分が遅れてんの何なんだよって思って、アイツの部屋に行ったら、このザマだ」
「いつもなら何時に来るのですか?」
「五時ぐらいだな、アタシはいつも六時前ぐらいにキッチンには行ってる。んで、部屋に行ったの六時…ぐらいだったか?」
信濃が口を開けた。顎に手をあてて、昨日の出来事を思い出しながら話していた。
「五時にはもう死んでいたのだろう。昨夜の二十一時前ほどで食事会が終わった時に彼はまだ生きていた、これは私とマルティネス夫人が証明出来る」
「それで、全員二十一時から朝の五時までのアリバイを言いたまえ」
全員に緊張感が走る。事細かに覚えていないと、絶対にその部分を重点的に責められるからだ。そんな中でチェリーが口を開けた。
「み、皆様と一緒に九時半辺りで料理長様と一緒にお片付けをして十時に終わったはずですぅ…そ、それで自室に戻りましたぁ」
手も口もモゴモゴさせているので、ハムスターのようだった。顔色は青く、額には汗が大量に滲んでいるのでそのまま溶けそうだ。
「アタシもそんな感じで十時半には寝たぞ。でも、自殺じゃねぇって信濃は言うが、じゃあマジで誰がベーカリーを殺したんだ?」
「メアリーもシャンティと一緒だわ。でも深夜の十一時半ぐらいにトイレに行きたくなって、起きちゃったら、その時にー」
言葉が淀んでいるわけでもなく、ただ期待を膨らませるような言い方をしている。何かを考えているようだ。
「その時に?」
探偵が気になってオウム返ししている。少しして、彼女は思い出したように言った。アイディアを思いついたような感じでだ。
「フェイとトイレで会ったのよ!ずっと話してたら朝になってたの。だから今すっごく眠たいわ」
「うん、ボクも眠い。特に変わったことはなかったかな」
フェイは欠伸をしている。それにつられて、メアリーと夫人も欠伸をしている。
そして最後の人物にアリバイを聞く。
「夫人は?」
「ワタクシはあの後はずっと自室におりましたわ。こんなことが起きるだなんて…」
「アンタらはどうなんだよ」
シャンティがぶっきらぼうに聞いた。探偵達は夜の二十一時から今の六時十分まで寝ていた。
「桜子達はずっと部屋に居ました。それはお互いに証明出来ることです」
「でしたらぁ、今のところ昨日の二十二時から朝の五時までに犯行ができる人物は…」
助手はチェリーにそのセリフを取られたので、少し不屈である。彼女も格好つけたいという欲が少なからずあるみたいだった。
「チェリー君、シャンティ君、マルティネス夫人の三人だね。フェイ君とメアリー君はお互いが証明しあっているから除外だ」
「ちょ、ちょっと待て!アタシが部屋から出たらトイレ付近で話してるフェイとメアリーが見てるだろ?」
容疑者の一体であるシャンティが抗議している。彼女はメアリーと同室であり、二階の現場に探偵以外だと二番目に近い。
そしてトイレと遊戯室は二階の右側にあり、その左側にベーカリーの部屋と倉庫がある。その怒りん坊にメアリーは悪い笑みを浮かべて、丁寧に答えた。
「誰がトイレ付近で話をしたと言ったのかしら?メアリーはフェイの部屋で朝まで話してたのよ」
「だからシャンティが部屋を出たというのも証明出来ないし、その逆も然りという訳だね」
シャンティは容疑者から外れるチャンスはなくなった。
「ま、チェリーが殺してそうよね」
それは起爆剤になるのには十分な火薬だった。その発言で、瞬く間にこの場は騒がしくなった。阿鼻叫喚である。
「チェ、チェリーはベーカリー様を殺してなんていません!」
「どうせお前たちの仕業でしょう?人が人を殺すわけないじゃないの!これで証明出来ますわよね?」
テーブルを叩いて立ったり、そのまま取っ組み合いが始まってもおかしくないほどに口喧嘩が勃発している。泣いている者もいれば、静かに対処している者もいる。
その騒音に信濃の理性の線がプッツンしてしまいそうになっている。
「口を慎むという言葉をご存知かね?君達」
「信濃さん、もう少し言葉を優しくしてください。それでは逆効果です」
仲間内で争いは生まれてしまうのだから、戦争はなくならないのだなと、桜子は思った。
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