第15話〜まずは現場調査からか
桜子は非常に驚いた。まだ事件やら人の死という非日常的なものに慣れていないからだった。慣れていない方が自然だが。
しかし、後ろに居る信濃は平常通りで、チェリーに近づく。彼の手には自身の衣服はなく、ベットに放り投げたようだ。
「現場はどこだい?」
「まずは警察に連絡では」
そう冷静に言う彼女に、チェリーは震えながら答えた。
「こ、この館の周辺に蝶々の群れが発生したらしいんです。で、道中の道に落石で塞がっているみたいでぇ…」
蝶々如きで何をと思うかもしれない。この世界の昆虫達は塩分を食す。
しかし海水のような塩分濃度の高い液体ではなく、そのまま群れで噛み付いて殺しにかかる為とてつもなく危険なのだ。
「ひとまずチェリー君、その現場に案内してくれたまえ。死体が腐ると調査がしづらくなってしまうからね」
「ひゃい!」
彼女に案内されてついて行く。事件現場は隣の部屋であった。
そこには扉が閉まっており、その近くで全員が集まっていた。空気が鬱蒼としている。
信濃が中に入ろうとすると、夫人が後ろから抱きついてきた。
「た、探偵様ぁ!」
「落ち着いてください、マルティネス夫人。調査が出来ないじゃないか」
その冷たい対応に夫人は泣き出した。
「もう扉は開けたのですか?」
「こ、ここにいる奴らは全員見たぜ」
そして桜子は近くに居たシャンティに聞く。彼女も相当顔色が悪い。彼女の体にはメアリーがくっついている。
そして夫人からの組み付きから抜け出し、信濃は扉の前へ立つ。中から物音はしない。
扉にはベーカリー・オーナーの部屋というネームプレートが飾られていた。そして、中に入る。
異臭だ、死臭とも言う。
中は色々な家具や雑貨が置かれている。棚にはいくつもの飴細工や気味の悪い人型のようなオブジェクト。壁には無数の絵画や写真、それに動物の剥製の生首まである。
ここまで集めるのには相当な金が必要だろう。
雑貨には掃除が行き届いており、ホコリはないが生活感があり、さっきまで人がいたかのような暖かさがある。
そして部屋の真ん中にはベーカリーが吊るしてあった。
「これは…自殺?」
彼は天井のキャンディリアから縄で首吊りをしており、昨日の格好のまま吊るされている。
「脈はないみたいです。それに荒らされた形跡もなければただの自殺かと」
手首を触って、桜子は本当に彼が死んでいる事を確認した。
扉から覗いていたメアリーが吐いた。彼女は口から昨日の砂糖の塊を、扉付近に産み落とした。その嘔吐の声を聞いたチェリーは走ってキッチンへと向かった。
「ば、ばばバケツ取ってきましゅ!」
シャンティは体調不良者を廊下に運んで、休ませることにした。空いた扉からジャンプして入ってきたのはフェイであった。
「自殺なら、あまり部屋を荒らすのは良い手段とは思えないね」
近くのソファに座った。彼はベーカリーの死体を見てすぐに嫌悪感を示している。
「私達は探偵だ、死体があればすぐに調査しなければならない。そもそもこれは自殺ではないぞ、フェイ君」
信濃は彼の方向を向く事はなく、ただキャンディリアとカーテンに結ばれた長い縄を観察していた。そして、窓枠を見てみると乾いた土埃が付着しているので、床も調べてみることにした。
「自殺じゃない?何か見つけたのかな」
桜子は棚やタンスを調べている。
「そのままの意味だと思います」
淡々と言うが、頭の中では昨日のあの恥ずかしい事で埋め尽くされている。今は事件に集中したいのに。邪念を取り払うように調べて行った。
外からは凄まじい嘔吐の声が聞こえる。それにイラついた信濃は外に出て、彼女達に大声で注意をする。
「君達はどこかに行ってくれたまえ。調査の邪魔だ、証拠が潰されたらどう落とし前を付けるのかね?」
廊下ではバケツを取り合っているメアリーとチェリーがおり、夫人が横で倒れていた。
シャンティがチビ二体を落ち着かせようと奮闘しているが、中々吐き気が収まらず、自身も吐きそうになっていた。
そしてフェイが信濃の後ろから出てきた。
「シャンティ、ボク達はやることが他にある。キミはこの二体を頼むよ」
「行けばいいんだろ行けばぁーよー。こちとらマジで吐きそうなんだよ」
彼はその細い体で夫人を持ち上げ、下に降りていく。その後をシャンティも二体を持ち上げて着いていった。
ようやく静かになった所で、信濃は現場へと戻った。桜子が縄を解こうとしているが、中々上手いこと行かない。
そして彼女は一旦その作業は止めて、彼の近くへと行った。
「それで、これがただの自殺じゃないってことはやはり…」
「殺人事件だね」
探偵達は更に現場の調査を進めるのであった。幸いにも、現場の状態は良い。
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