第6話〜ドレスで食事を?
桜子は非常に悩んでいた。
食事会では普通に来ていた服で参加するものだと勝手に思っていたからだ。
それが今、肩周りにレースがついた、群青のドレスに着替えさせられていた。顔にもクッキー専用のメイクをしている。
信濃も緑のバンダナに、ベージュのコートに緑の着物から黒のスーツを着て、髪を後ろに縛っている。
彼は黒髪黒目の優しい顔立ちの二枚目だ。しかし、過去のせいで容姿の褒め言葉は好きではない。そんな彼でも、桜子のファッションには強いこだわりがある。
「嗚呼、歩く度に揺れるレース。私が空なら小鳥の君は更に綺麗に映るのだろう」
「詩人にならないでください」
そのドレスがよく似合っているのだろう。ポエミーな事ばかりを呟いている。
部屋の真ん中で、ずっと桜子は立っていた。その近くを信濃は回って確認している。
「可愛いからいいじゃないか。ほら、私がエスコートしてあげよう」
「嫌です。信濃さんが投げ飛ばされた時に助けられないじゃないですか」
「アグレッシブだね」
この格好で唯一気に入っている物はこの手袋である。捜査の際に、クッキーのカスや砂糖水で物が汚れないからである。
そしてその手を彼は片手を優しく取った。そのまま連れていこうとするので、桜子は膨れっ面になった。すぐさま手は離された。
クッキーも人間と同じく老廃物があり、それがクッキーのボロボロとしたカスである。
そして砂糖水というのは人間でいうならば汗や体液であるので体は溶けない。しかし、砂糖水の濃度が極端だと、普通に溶けるので注意が必要である。
「嵐を潜り抜けて持ってきたドレスだぞ?尚更着るべきじゃないか」
「勝手に持ってきたのでしょう?」
そのまま脱ごうとすると、彼は慌てて合掌してお願いしている。このまま断るとモチベーションが削がれるだろう。
「…次はありません」
「物分かりの良い小鳥は大好きだ」
そのまま抱きつかれたので、手で退ける。
そして部屋を出て、鍵をかける。すると、階段付近にはチェリーが居た。彼女は目を輝かさせてマジマジとそのドレスを見る。
「綺麗…!」
「君、お目が高いじゃないか。この飴髪には何も装飾品は要らないと思わないかい?自然のものが一番美しいと私の出身地では…」
信濃が彼女に近づいて、桜子についての怒涛の早口のマシンガントークをする。人生初体験に度肝を抜かれて、ただ困惑していた。
彼の耳を引っ張ってやめさせた。
「それより食事をとる場所はどこでしょうか。早く行かなければ失礼です」
「あぁわ!すみません!チェリーに着いて来てください」
そのまま彼女に着いていった。
「構ってほしいからって強引だなぁ」
「あんな真似を次したらもう服を着ません。彼女に謝ってください」
「申し訳ない…本当に」
チェリーはクッキーが人間に謝罪を促していた事にカルチャーショックを受けた。
そして、はっきりと意見の言える彼女に少し羨ましいと同時に憧れた。しかし、その憧れはすぐに消えた。
何故ならば、
食事会場は一階の、広間から見て左上の部屋だった。
扉を開けると中は赤の壁紙で統一されており、キャンディリアの大きさと輝きは先程の部屋の物とは全く違っていた。
テーブルには大きなケーキと美味しそうなご馳走が目や鼻を楽しませる。
「探偵さん、とてもスーツがお似合いですことねうふふふふふ」
「はは、ありがとうございます。離れてください。近いです」
夫人が彼にハグをした。派手な格好がより派手になってリニューアルだ。心做しか、ウエストが細くなっている気がする。
そして探偵達は座ろうとするが、席は二つしか用意されていなかった。案内してくれたチェリーに信濃は尋ねた。
「チェリー君か、桜子君の席はどこかね?」
「クッキーは人間と食卓を囲みませんからありませんぅ…すみません」
その発言を聞いた信濃の眉間がグッと険しくなったので、それに怖くなったチェリーは泣いた。
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