第2話〜食事会にようこそ

 扉を開けるとすぐに閉められた。外はもう雨風で人が居ていい天気ではないからだ。


 私は雨水に濡れたカッパを脱いでいると、前から誰かが小走りで向かってくる。


「探偵様ぁ、お待ちしておりましたわぁ!」


 前を見てみると目の前には三十路を超えた高身長の女が居た。大きな帽子を被り、深紅のドレスを着て派手なアクセサリーを身に纏っている。


 派手な化粧に、些かシンプルなペンダントが首を光らせる。


「うふふ、お食事会にようこそ!」

「マルティネス夫人、食事会にお招きして頂き感謝致します。そして離れてください。私の文化では抱擁はしないのです」

「あら、ここは極西きょくせいですのよ?気にしないわ。それより息子がどうもお世話になったようで」


 マルティネス夫人の息子とは、ある事件を引き受けた時に出てきた依頼人である。彼経由で彼の母と会食とは何とも奇妙だ。


 信濃は嫌であるが、それを表に出すのは極東の人間として礼がなっていない。極東の人間の挨拶はお辞儀だけで済ますので、こうした接触はほぼないといっていいだろう。


 対して、極西の人間は頬にキスの真似をしたりハグをしたりする。敵意がない事と友好的である事の証明ではあるが、極東の人間には慣れない習慣だ。


 そして、信濃は人間嫌いだ。他人に触られたり、他人に話しかけられると鳥肌が立って十尺ほど距離をとる。


「夫人さん。荷物と雨具はどうすればよろしいでしょうか」

「あら、アナタが信濃のクッキーかしら?珍しい髪タイプね。しかも東西ハーフ」


 夫人はずっと信濃を抱いていたが、桜子の方を見ると彼を離した。少しホッとしている所を彼女に見られなくてよかった。


 私の髪を見て、値踏みをしているようだ。そういう現金な目線が気に入らない。


 極西のクッキーの髪に使われる素材はクリーム、チョコ、飴の三種類がある。


 先に出ている素材ほどメジャーであり、飴タイプは加工が極めて難しいため一番数が少なく希少価値がある。


 そしてクッキーの髪の主流はクリームであり、溶けにくく加工しやすい。

 チョコレートは溶けやすいのが難点であるため、クリームと比べれば少ないだろう。それでも飴よりかは加工は大分しやすいが。


 極東と極西のクッキーの特徴がミックスされた混合タイプもまた珍しい。あまり需要がないため作られないのだ。


 そして夫人は探偵達が持っている雨具の水が滴っているのを見て、嫌な顔をした。


「まっ、汚らしいですこと。クッキー達!早く荷物をお部屋に持っていきなさい!」


 彼女がそう大声で呼ぶと、続々と奥の扉からクッキー達と人が一人が出てきた。

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