第1話 自殺未遂をしました
僕、渡辺 和也(わたなべ かずや)は自殺を企てました。
その後、生かされました。
僕はただ、死ぬことで逃げれるとかそんな理由で自殺を企てた訳ではない。
僕は虐められている。でも、それが理由ではない。
ただ単に、「死ね」と言われたのが理由だった。
虐めている相手が何気なく言ったその言葉に、僕は「いいよ」で返しただけなのに、世間はそれを許さない。
おかしいのかもしれない。可哀そうなのかもしれない。
でも、一番可哀そうなのは、自殺未遂で生かされた人だという事を誰も知らない。
遡ること半年前。僕は中学の入学式の新入生として、ここにいる。
お偉いさんがいて、滅多に見れない理事長の姿、そして在校生の先輩方に囲まれたどこにでもあるような普通の入学式だ。
母はとても喜んでいた。僕も喜んだ。親の嬉しそうな顔が僕は好きだった。
入学式が終わると、各教室に戻って、色々なものを渡される。
教科書に、これは自転車のヘルメットか、僕は自転車に乗ることが無いので使う事は一生無いと思う。あとは....課題か。見たくもなかった。
たくさんの荷物を抱えて家に帰る。母の車に乗って、他愛のない話で盛り上がって、今日の夕飯は何にする?とか明日から頑張りなさいよとかそんなことを話した気がする。あとは....担任か。
担任の先生は気が優しそうな女の若い先生だった。後にこの先生が原因で自殺を企てようと考えたことは知る筈も無く、母はいい人そうねと話していた。
クラスは4つあり、僕はその中で3番目のクラスだ。がやがやした喧騒は小学校の頃から慣れている。入学式なのに、既にある程度のグループが作られていて、僕は驚いた。
担任の自己紹介が終わると当たり前のように黒板の前で自己紹介のコーナーが始まる。
僕の番が回る。とりあえず名前と出身小学、あとは「よろしくお願いします」と言って終わった。
それから母と合流して帰り、入学式は無事終わった。ちなみに今日の夕飯は僕の大好きなハンバーグだった。
次の日。学校へ行く、授業を受ける。ここまでは良かった。
帰りの掃除を変わってくれと頼まれた。僕は嫌だと断ったのだ。
そんなことでといじめに発展するのは物語の中だけだと思っていた。
だが、現実はそうじゃなかった。
次の日。学校へ行った。授業を受けた。特に何も変わりは無かった。
次の日。学校へ行く。内履きの靴が無くなっていた。ロッカーを見ても自分の名前があり、僕は仕方なくスリッパを履いて授業を受けた。クラスの男子一人からトイレに僕の靴があったと知らされ見に行くと、洋式のトイレに誰か知らない排泄物で汚れた僕の靴があった。ちゃんとその靴には僕の名前がある。
何か—心の中で壊れていく音がする。涙は出ない。
僕はその汚物まみれの靴を取り出すために、掃除用具が入っている横のドアに手をかける。後ろで誰かの笑い声がする。振り向く気など起こらなかった。こんな汚いものを見て、笑うような奴なんて、僕かいじめの加担者たちか、いじめの主犯者か―いずれにせよ気持ち悪い。
ドアを開けて、中から取り出したのはビニール手袋。幸いにもこの学校にはトイレ掃除の時に使用するため、常に置いてあるらしい。
僕はそれを二つ取って両手に身に着けると、汚物まみれの靴を右手でなんの躊躇いもなくそこから取った。そして、右手の手袋を外して、そこに捨てると流した。
まだ、汚くなかった左手に靴をもって、再度、ドアを開けて、洗剤を取り出す。
僕はそれをトイレの洗面台まで持って行くとそれを使ってこの靴を洗い始めた。
後ろからの笑い声はもう聞こえなくなっていた。おそらくもう休み時間は終わったんだろう。しんと静まるトイレで黙々と靴を洗う自分に対して、先生はなにも疑問に思ってないんだろう、きっとクラスの誰かが嘘をついて僕は保健室にいったことになっているんだろう。—でも実際はこうして靴を洗っている。まだ使ってから日は浅いのに、茶色く染まりきったその靴はどれだけ洗っても擦っても、洗剤を使っても元の白い靴には戻らなかった。
どうせ保健室に行ったことになっているのなら保健室に行こう、しかし靴は濡れていて持ち運びは不可能だった。
そこで、僕は保健室で残りの時間を潰した後にビニール袋をもらいに行こうと考えた。—靴は置いておくことにした。
その後、保健室に行き、体調が悪いので休ませてと言うと、まだ若い保健室の先生は僕にベッドを使わせてくれた。
家とはまた違うベッドの固さに柔らかい布団なのに程よい圧迫感は僕にとってとても良かった。
—その後、授業の終了を告げるチャイムとともに起き、僕は職員室へ向かう。
ビニール袋をもらい、例のトイレに行くと.....。
「うわっ、くっさぁぁぁい!!」
「何でこんなところにこんなくっさい靴があるんだよ!」
「おい、見てみろここに書いてある名前」
「(笑)あいつあの中から取り出したのかよwww」
3人組が洗面台の前で話していた。—内容は聞き捨てならなかったがモヤモヤが晴れた気がした。間違いない、この三人組が犯人だ。そのなかの一人に見覚えがあった。そいつが僕に掃除を変われといったやつだった。
三人は僕に気づくとニヤッと笑った。
「おい山田、吉田。そいつを抑えとけ」
「おっけー」「了解っと」
山田と吉田—見覚えがない二人は僕の腕を拘束し、身動きが取れない状態にした。
名前が分らないが見覚えのあるそいつに殴られた瞬間、僕の身体全体が揺れた。
動けない分、殴られると直に来る。
「あーイライラするなぁっ!!」
何度も、何度も殴られる。その度に僕の顔面はジンジン痛んだ。
「山田と吉田もやるか?」
「やるやる~」「先、山田でいいよ~」
痛みでまだ体を動かすほどの余裕が無い時に、拘束は解放される。しかし、すぐにまた腕を拘束された。
「俺最近さ、失恋したんだよな~。あーイライラするわっ!!」
2発、3発と殴られ、こんどは蹴られた。
「蹴りまで入れたぞ、こいつ」
「まぁいっか」
3人の笑い声がする。そして—
—キーンコーンカーンコーン—
「あ、やべ。授業だ」
「チッ。俺殴れなかったじゃん」
「まぁまぁ次の休み時間にでもすればいいだろ?」
そうして。やつらはトイレから出て行った。
その後。僕はひどい嘔吐に襲われ、吐いた。
—吐き気が収まった後、僕は保健室に行き、手当てをしてもらい。早退した。
1話だけの本棚 黒夢 @NAME0
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