第389話 俺のために争って

◇◇◇


「これ、どういう状況だ?」


 フィエラや第三皇子たちの行動をある程度観察した後、俺は上空にできた亀裂から飛び出てきた悪魔や魔族を適当に殺しまくり、最後に炎の魔法を使うSSランクの悪魔王と戦った。


 んで、いろいろと試しながらそこそこに楽しんだ訳だが、悪魔は天使とは違い人族と同じ属性魔法をメインにして戦うため目新しさもあまりなく、さらにはよく喋るし殺す殺すってうるさかったから、遊ぶのも飽きて一方的に魔法の練習台にしてやった。


 そうしたら、最後の方は心が折れた悪魔王が逃げようとしたもんだから、逃げられないように頭を鷲掴みにして急降下したところ、皇城へと突っ込んだという訳だ。


「なんであいつらがここに?」


 そうして周りに漂っていた砂埃が晴れると、右側には悪魔の気配を漂わせている第三皇子、左側にはセフィリアに治療されているシャルエナと、そんな彼女を守るように立っているアイリスとソニア、そして今から戦闘でも始めようとしていたのか、武器を構えるシュヴィーナとラヴィエンヌの姿があった。


「うわぁ!!空からイケメンが降ってきたんだけど!」


「悪魔か。男?いや、中身が女で、第三皇子の体に憑依したのか?」


「うっそ!?私の姿を一発で見分けてくれるとか中身までイケメンじゃん!どっかの赤紫髪の女とは大違い」


 第三皇子に憑依した悪魔はそう言っておそらくソニアのことを睨むと、「チッ」っと小さく舌打ちをするが、どうやらソニアはあの悪魔を見て何か怒らせるようなことを言ったようだ。


「それで?お前たちはここで何をしてるんだ?」


「え、あれを無視して話を続けるのぉ?」


「いや、別に気にするようなことでもないだろ」


「そうかなぁ。まぁ、ルーくんがそれでいいならいいけどさぁ。えっと、ボクたちは見ての通りだよぉ」


「ふむ……なるほど。大体わかった」


「え、本当にわかったのぉ?」


「大体はな」


 ラヴィエンヌは冗談のつもりで見ての通りだと言ったようだが、シャルエナがセフィリアによって治療され、そんな彼女を守ろうとしているアイリスやラヴィエンヌたちを見れば、大体の状況を察することはできる。


 おそらくだが、この城で何かがあったことを知ったシャルエナが単身で乗り込み、その際に城壁に晒された皇帝たちの首を見て感情的になり悪魔たちに挑んだが、力及ばず負けたといったところだろう。


 んで、その後にラヴィエンヌたちが助けに来ていざ戦おうという時に、俺が邪魔をして今の状況に至ったんじゃないだろうか。


「すご。ほとんど当たってるぅ」


「ほとんどっていうか、ほぼよね」


「なんでそこまで詳しいのか、逆に疑問だわ」


「さすがルイス様ですね」


 ソニアは俺が何故ここまで状況を読めたのか疑問に思っているようだが、皇帝たちが殺されるところまでは俺も状況を見ていたし、シャルエナの性格を考えれば行動を読むこともそれほど難しくは無い。


 それに、最初からラヴィエンヌたちがいたのであればシャルエナだけが怪我をしているというのもおかしな状況であるため、その結果から今の状況に至ったであろう過程を予測するのは簡単なことだった。


 かといって、ここまで詳細に教えれば何故助けなかったのかという話になっていろいろと面倒なので、とりあえずここは無視をして話を戻す。


「ひとまず、お前たちがここにいる理由はわかったけど、フィエラはどうしたんだ?あいつなら、この状況でここに来ないはずはないと思うんだが」


 フィエラは基本的には他者に興味を示さないが、狼らしく一度懐に入れた相手には意外と面倒見がいい方だし、何気に気にかける性格であるため、そんな彼女の性格を考えればシャルエナを気にかけてここに来ているはずだが、今はどこにも彼女の姿が見当たらない。


「フィエラなら、気を失ったからミリアと一緒に離脱したわ」


「気を失った?何があったんだ?」


「ソニアと二人で悪魔王の一人と戦っていたんだけど、その時にガントレットが暴走したの。それで、気力と魔力を使い果たしたフィエラは気を失ったのよ」


「暴走か。つまり、あの時に見えた火柱はフィエラの暴走が原因だったわけか。なるほどな」


 俺が悪魔王の相手をしていた時、突然空を貫くように赤黒い溶岩のような色をした炎が見えたが、どうやらあれはフィエラの暴走によるものだったようだ。


「よしっ!決めた!私、あんたを魔界に連れて帰るわ!」


「ん?」


 そんな感じでお互いの状況確認をしていると、第三皇子に憑依した悪魔が俺を指さしながら何やらよくわからないことを言い出す。


「確認だが、あんたって俺のことか?そして、魔界に連れていくと?」


「そう!銀髪のあんた。えーっと、さっきはルイス様って呼ばれてたわね。ならルイスが名前よね?私はフェルマよ。私、綺麗なものやかっこいいものが好きなんだけど、ルイスの見た目はまさにドンピシャよ!すっごく気に入ったの!だから、私と一緒に魔界に行こう!」


「ふむ。魔界か」


 自身をフェルマと名乗った悪魔が俺を連れていくとか気に入ったとかいろいろと言ってはいるが、それ自体はどうでもいいから無視をするとして、魔界に行くというワードは少し興味を惹かれるな。


 まぁ、見た目は第三皇子だからちょっと気持ち悪いけど。


「え、もしかしてルーくん、迷ってるぅ?」


「まぁ、魔界には興味があるからな。どんなところなのか行ってみたい気もするし」


「え!!じゃあ一緒に行く?行っちゃう?」


「うーん。いや、また今度にしようかな。とりあえず、まずはお前ら戦おうとしてたんだろ?なら、戦ったらどうだ?」


「えぇー。この流れで戦うのぉ?」


「んー、なら!私が勝ったら一緒に行こうよ!んで、ずっと一緒に暮らそう!大丈夫。ちゃんとお世話するから!」


「なら、勝てば考えてやるよ」


「よし!なら、早くあいつらぶっ倒して、ルイスと一緒に魔界に帰ろーっと!」


 まぁ、本当に行くかどうかは別にしても、魔界に興味があるのは事実だし、これくらいなら言っても問題はないだろう。


「シュヴィちゃん。これ、ボクらが負けるなんてこと、許されるわけないよねぇ」


「当然よ。私たちが負けようものなら、目を覚ましたフィエラが怒るだろうし、何より私自身も許せないわ」


「だよねぇ。ボクもちょっと許せないかもぉ。自分自身も、そして堂々と他の女に浮気しようとしているルーくんもぉ」


「そうね。浮気は許されないわ」


「お二人とも、必ず勝ってくださいね」


「二人が負けるようなことがあれば、あたしも気がどうにかなりそうよ」


「シャルエナ様のことは私にお任せください。その代わり、必ずあの女狐さんを倒してください」


 うーん。どうやら、全然問題ないわけじゃなかったようだ。


 適当に話を合わせておけばいいかなと思ったんだが、どうやらフェルマだけでなくラヴィエンヌたちにも要らぬ燃料を与えてしまったようで、ラヴィエンヌとシュヴィーナたちから刺すような視線が向けられる。


「あー。とりあえず、あとのことはお前らが戦って決めてくれ。俺は観戦でもしてるからさ」


 本当は俺もフェルマと戦ってみたくはあるが、元々この戦いはラヴィエンヌとシュヴィーナ、そしてフェルマによるものであったため、俺がこれ以上介入するのは場をつまらなくさせるためよろしくない。


 それに、仮にラヴィエンヌたちが負けるようなことがあれば、その次に俺がフェルマと戦えばいいだけなので、ここで急いで彼女と戦う必要もないだろう。


 てことで、場の状況を確認し終えた俺は、適当な場所に移動すると、その場をラヴィエンヌたちにお返しし、俺は静かに彼女たちの戦いが始まるのを待つ。


「絶対に、ルイスくんは私が連れて帰るから」


「ふん。ルーくんは絶対に渡さないからねぇ」


「この戦い、私たちが勝たせてもらうわ」


 こうして、少し長くなりはしたがようやくラヴィエンヌたちの戦いが始まりを迎え、俺は彼女たちの戦いが迎える結末を見届けるため、じっと静かに待つのであった。






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