第387話 修羅
◇◇◇
場所は変わり皇城。
その城門へと続く道。
「敵だ!殺せ!!」
「ぎゃはは!女だ!女はあの柔らかいもも肉が美味いんだよなぁ!!」
「俺は舌が好きだな!焼いて食うと美味いんだ!胸は脂が乗り過ぎてて美味くねぇ!」
襲撃者の少女を前にした悪魔たちは、それぞれ好きな部位について言葉にすると、想像しただけでお腹が空いたのか、その口からは涎が溢れ出す。
「まったく。この下衆どもが。私を前にそんなくだらない話をするなんてね」
「ぎゃはは!美味しく食ってやるよ!女!!」
「鬱陶しい。抜刀術三ノ幕『氷華五月雨』」
「ぐきゃ???」
そうして我慢できなくなった悪魔たちは、複数で同時に少女へと襲い掛かるが、少女は焦った様子もなく一瞬のうちに何度も刀を振るうと、悪魔たちの頭や手足が切り飛ばされ、バタバタと切り刻まれた肉片たちが地面へと落ちて行く。
「早く行かないと。父上たちが……」
少女は、殺した悪魔など気にも留めることなくさらに進んでいくと、その途中で何体もの悪魔や魔族を始末し、ようやく城門へと辿り着く。
「ちち…うえ…あに…うえ……」
しかし、そんな彼女が目にしたのは、無惨にも殺され首だけとなり、城門の壁へと吊るされている変わり果てた家族たちの姿で、彼らは殺されてから時間が経っているのか、切り口から流れ出た赤い血は、ベッタリと赤い滝を作り上げているのであった。
「あ…あぁ…あぁぁぁぁあ!!!」
それが、家族を助けるために皇城へと走り続け、誰よりも早くこの場へと辿り着いたシャルエナが目にした光景であった。
「殺す。私の家族を殺した者たちは、誰であろうと必ず殺す」
かつて無いほどの怒りと憎悪。
溢れ出るその感情は、シャルエナに新たな覚悟と決意を抱かせ、その感情に支配された彼女は迷いなく自身の使えなくなった左腕を切り落とすと、不格好ながらも氷の義手を作り出し、その手には同じく氷の刀を握る。
「全員、報いを受けさせてやる」
そうしてここに、復讐に燃える一人の修羅が生まれるのであった。
「これ、もしかしてシャルエナ殿下がやったのかしら」
「多分そうだろうねぇ。ここに残ってる光景を見るに、氷魔法が使われたようだし、シャルエナちゃんの得意魔法も氷魔法だしねぇ」
その次に皇城へとやってきたのはラヴィエンヌたちで、彼女たちは目の前に広がる無惨な光景を前にし、思わず言葉を無くしてしまう。
「何というか、随分と荒々しい戦い方ね」
「そうですね。これはシャルエナ殿下らしくない戦い方です」
ソニアやアイリスの言葉通り、その場には切り刻まれたり氷柱で貫かれたりと、様々な方法で殺された悪魔や魔族たちの死体が転がっており、その他にも悪魔たちに殺されたの思われる騎士たちの死体がいくつも転がっていた。
「これは……」
「なるほどねぇ。これを見ちゃったら、そりゃあ怒っちゃうよねぇ」
そうして死体を避けながら進んで行くと、次に彼女たちが目にしたのはシャルエナが移動させ、城門の隅の方に置かれたヨルツハイムたちの首であり、それを見た彼女たちはここで何があったのかをすぐに察する。
「ラヴィエンヌさん。すみませんが、陛下たちの頭を回収していただくことはできますか?」
「まぁ、ボクの影の中に入れておけば問題ないけど、もしかしてあれを使う気なのぉ?」
「はい。まだ体が残っていれば、の話ではありますが」
「わかったよぉ。なら、そっちも探しながら進もうか。とりあえず、彼らの頭はボクの方で回収しておくねぇ」
「お願いします」
ラヴィエンヌはそう言ってヨルツハイムたちの頭を自身の影の中に入れると、五人はそのまま中へと足を踏み入れる。
「これはまた、酷いですね」
「中に入った瞬間、一気に気温が下がった感じがするわ」
「よほどさっきの光景が許せなかったようね。まぁ、あたしも両親を殺されたら冷静でいるなんて無理だけど」
城の中の光景は酷いもので、氷魔法によって地面は凍てつき、壁や床に残った斬痕からは無数の氷柱が伸び、地面に転がる死体は頭や手足が容赦なく切り落とされ、ゆっくりと嬲って殺したのか悪魔や魔族たちの表情は恐怖に染まっていた。
「ほんと、敵さんたちは随分と好き勝手してくれたみたいだねぇ」
「この様子だと、生存者はいないかもしれませんね」
「でも、ちょっとおかしいわね。ここにある騎士たちの死体、いくつかは剣で切られたような跡が残ってるわ。切り傷から見てシャルエナ殿下の刀とは違うし、どちらかと言えば騎士たちが使う剣に似てるわね」
「なるほどねぇ。何となくわかってきたよぉ。今回の事件の流れがぁ」
「そうね。私もわかった気がするわ」
騎士や使用人たちの死体を調べていたシュヴィーナは、そこで彼らの死因が悪魔ではなく剣によるものであることを知ると、その話を聞いていたラヴィエンヌもようやくこの帝都で何が起きているのかを理解する。
「何がわかったのかしら」
「どうする?シュヴィちゃんが説明する?」
「そうね。今回はラヴィに任せるわ。こういう状況をまとめて説明するのはあなたの方が得意そうだし」
「わかったぁ。なら、ボクが説明するねぇ。まずだけど、今回の事の発端は、おそらく皇位を狙った誰か、まぁボクの予想では十中八九で第三皇子だろうけど、その第三皇子による叛逆が今回の事の始まりなんだと思う」
「叛逆…ですか?そう思われた理由をお聞きしても?」
「うーん。アイリスちゃんは直接戦ってないからわからないかもだけど、ボクたちが学園の外で戦っていた時、その中には悪魔に憑依された騎士なんかもいたんだよねぇ。その時は悪魔がどっかにあった死体を使って憑依したんだと思ってたんだけど、どうやらそうじゃなかったみたぁい。そもそも、悪魔は誰かに召喚されないと魔界からこっちの世界に来られないから、召喚した人たちがいるはずなんだけど……」
「そうですね。なので、その召喚者は私たちが結界の中で襲撃された、悪魔の集いではないかという話になりましたね」
「うん。けど、そうだとしたら、悪魔に憑依された騎士たちの数があまりにも多すぎるからおかしいなぁとは思ってたんだけど、そもそもの始まりを逆にして考えれば、納得できる話だと思わない?」
「そういうことですか。つまり、悪魔の集いが悪魔を召喚して帝都を襲撃したのではなく、ラヴィエンヌさんの言う第三皇子の叛逆、これがそもそもの始まりであり、第三皇子が悪魔の集いと手を組んでことで、今回の大規模な襲撃へと繋がったわけですね」
「正解!アイリスちゃん、やっぱり頭がいいねぇ」
「なるほどね。だからシュヴィーナも騎士や使用人たちの体に残った斬痕を見て、おかしいと言っていたのね」
「その通りよ。加えて言えば、さっきラヴィが回収した皇帝たちの首の断面も、悪魔がやったにしては綺麗すぎたわ。それこそ、かなりの業物の剣を使ったくらい綺麗に切られていたもの」
「悪魔であれば欲望のままに人を殺しますから、そもそも首を切って楽に死なせるということもないでしょう。ラヴィエンヌさんやシュヴィーナさんの仰る通りなのかもしれませんね」
「とりあえず、大体のことはわかったし、状況整理はこの辺にしようかぁ。いつまでもここにいたら、シャルエナちゃんがどうなるかわからないしぃ」
「そうね。この戦い方を見るに、かなり危ないわね。あとのことを考えていない感じがすごく伝わってくるわ」
「では、早く行きましょう」
セフィリアのその言葉を最後に、ラヴィエンヌたちは皇城の中を調べながら魔力感知でシャルエナの後を追うが、その途中でヨルツハイムたちの物らしき首のない死体を見つけると、それもラヴィエンヌの種族魔法で回収し、シャルエナの反応がある玉座の間へと向かうのであった。
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