第385話 反省は戦いの後で
「フィエラ!ソニア!大丈夫?!」
ベルゼラが魔界へと戻ってからしばらくして、ルルリカとの戦いを終えて駆けつけたシュヴィーナとラヴィエンヌは、焦土と化したあたり一面と、そんな場所で両腕を失った状態で気を失っているフィエラ、そしてそんな彼女を涙を流しながら傷の手当てをしているソニアの姿を見て、慌てた様子で駆け寄る。
「あーりゃりゃ。こりゃあまた、随分と手酷くやられたねぇ。両腕が無いよぉ」
「そんなの見ればわかるわよ!それより、うちのフィエラをこんな風にしたあの悪魔はどこに行ったのよ!」
「落ち着きなって、お母さん。今調べてみたけど、気配がどこにも感じられないから多分帰ったか、負けたんじゃないかなぁ。ねぇ、ソニアちゃん」
「そうね。あたしたちが負けて、あの悪魔は興醒めしたからって帰ったわ」
「ソニア……」
ラヴィエンヌの問い掛けに対して、ソニアは力無くそう答えると、シュヴィーナはそんなソニアを見て心配そうに彼女の名前を呼ぶ。
「皆さん!大丈夫ですか!!」
「さっきの火柱はいったい……」
すると、次にやってきたのはフィエラの放った火柱を見てすぐに駆けつけたアイリスとセフィリア、そしてミリアの三人で、彼女たちもまた、シュヴィーナと同様に両腕を切り落とされて気絶しているフィエラを見て言葉を無くす。
「これはいったいどういう……」
「セフィリアさん。まずは治療の優先をお願いします」
「そ、そうですね。すぐに治療します」
初めて見るフィエラのあまりの姿に驚いてしまったセフィリアは、ミリアの一言で正気を取り戻すと、すぐに魔法で治療を始める。
すると、切り落とされたフィエラの腕はあっという間に元通りになり、さらには狂化時にできた他の傷も綺麗に消えて無くなる。
「これで大丈夫かと。ただ、気力と魔力の消耗が激しかったようで、しばらくは目を覚まさないかと思います」
「そう。治ったならそれでいいわ。ありがとう、セフィリア」
「いえ。回復魔法は私の専門ですからお気になさらずに」
「そう言えばぁ、三人はどうしてここにぃ?」
シュヴィーナが保護者らしくセフィリアに治療のお礼をしていると、ラヴィエンヌは本来は結界の中にいるはずのセフィリアたちが何故ここにいるのか気になったのか、その理由について尋ねた。
「それは、メジーナ学園長から私たちに指示がありまして。どうやら結界の中に現れた悪魔の一人とシャルエナ殿下が戦い勝利した後、シャルエナ殿下が皇城の方へと向かって走って行ったそうなんです。なので、そのことを皆さんにお伝えした後、シャルエナ殿下のもとへ向かうよう言われたのですが、その途中で先ほどの火柱が目に入り、急いでこちらに向かったのです」
「なるほど。シャルエナちゃんがねぇ。まぁ当然ではあるかなぁ。だって、あの亀裂を使った元凶の魔力は皇城の方から感じられたし、家族がそこにいる彼女なら当たり前の反応だよねぇ」
「三人がここにきた理由はわかったわ。なら、結界の中の方はどうなの?さっき、シャルエナ殿下が悪魔を倒したって言ってたけど、それはつまり、結界の中にも悪魔や魔族が現れたってことよね」
「そちらは問題無く片付きました。上位悪魔も私たちの方で倒せましたし、その他の魔族や下級悪魔たちも先生方が協力して倒してくれました。それと、何体か悪魔王と名乗る悪魔も現れましたが、こちらは学園長が瞬殺していましたね」
「そう。アイリスがそう言うなら本当に問題は無いのでしょうね」
「はい。ただ、その中に自分たちを悪魔の集いと名乗る頭のおかしな人たちもいましたので、おそらく今回のこの襲撃は、その組織が主導したものではないかと思います」
「悪魔の集いかぁ。ボクもその組織については少し聞いたことがあるよぉ。結構昔からある組織らしくて、村や奴隷なんかを犠牲にして悪魔を召喚し、悪魔に世界を捧げようとしている頭のおかしな組織だったようなぁ。なるほどねぇ。確かに、悪魔が今回の襲撃に関わっているのなら、その組織が元凶でもおかしくないかぁ」
アイリスから齎された情報を基にラヴィエンヌは現在の状況を整理すると、この帝都で何が起きているのか、その大体を把握するのであった。
「それじゃあ、次はこっちね。ソニア、いったいここで何があったの。そして、フィエラに何があったのよ」
「それは……」
「もぉ〜。何があったのか知らないけど、時間も無いから早くお願いねぇ。君のせいでフィエラちゃんがあんな風になったのか何なのかは知らないけど、ここで焦らすとシャルエナちゃんも同じことになるかもしれないんだよぉ。だからさぁ、ぐだぐだしてないで早くしなよ」
「っ……。わかったわ。実は……」
ラヴィエンヌの容赦の無い言葉と雰囲気に飲まれたのか、ソニアは一度肩を跳ねさせた後、ここで何があり、そして自分が何もできなかったことを全て話す。
「……あたしは、何もできなかった。フィエラの手助けをすることも、彼女止めることもできなかった。あたしは、ただの役立た……」
「はぁ。そんなことで落ち込んでいたの?」
「……え?」
自分は役立たず。ソニアがそう口にしようとした瞬間、その言葉を遮るようにシュヴィーナの呆れた声が彼女の耳に届き、俯いていた顔を上げる。
「それ、どこもソニアは悪くないじゃない。まぁ、確かに止められるなら止めた方がいいだろうし、利用できるなら利用して戦うのも一つの選択肢ではあるけど、それはただの選択肢に過ぎないわ。暴走、つまりそれは制御不可能ってことよ。その状態を利用するなんてこと、簡単に出来るわけないわ。そんなの、私でも無理。多分出来るのはルイスくらいじゃないかしら」
「そうだねぇ。実際、野生の獰猛な動物と出会ってすぐに共闘するなんて難しいこと、簡単に出来るわけないよねぇ。まぁ、ソニアちゃんのメンタルが弱かったって話は別にしても、ボクでもちょっと難しいかもねぇ」
「ソニアさん。そんなにご自身を責める必要はありません。悪魔が何と言おうと、それは一個人の意見でしか無く、それが必ずしも正しいと言うわけではないです」
「アイリスさんのおっしゃる通り、悪魔の言葉は一つの意見でしかありません。これまで私も多くの人の懺悔などを聞いてきましたが、それもまた一人の主観による考えでしかないのです。視野を広く持ち、多くの人の声を聞いてみれば、意外とそれは自身の偏った思い込みでしかなく、自身が思っているよりも周りは気にしていないということはよくある話なのです」
「ソニアさん。私も諜報活動をする際、一つの意見だけでなく、多くの人の情報を集め、様々な視点から情報を把握できるようにしております。その経験から言わせてもらえれば、ソニアさんが思っていることはただ一個人の意見でしかなく、私や皆さんから意見を言わせてもらえれば、あなたは十分に頑張った方だと言えます」
「でも、あたしは……」
シュヴィーナたちの言葉を聞いたソニアは、それでも思うところがあるのか、それ以上の言葉を紡ぐことができなかった。
「まぁ、ソニア自身に思うところがあって、それを反省なりどうにかしたいって思ってるのならこれ以上私たちが何かを言うことはないわ。けれど、私から言わせてもらえれば、今回の件はそもそも戦いの中で理性を無くして暴走したフィエラの方が悪いわね」
「んねぇ。ボクも戦いの最中に暴走して理性を無くすとか、正直どうかと思うよぉ。まぁ、意図的なものじゃなかったみたいだけど、それでもねぇ」
「とりあえず、フィエラのお説教は彼女が目を覚ましてからってことにして、悪魔と戦ったのがフィエラなら、ソニアはまだ動けるわよね。なら、早く立ってシャルエナ殿下を追うわよ」
「でも、あたしが行ってもまた何もできないだけじゃ……」
「あーもう!ウジウジするなんてあなたらしくないわね!私たちが初めて会った時のあなたは、魔法が使えなくても諦めず、例え自身が弱くてもフィエラを守ろうとした勇気のある子だったでしょ!もう終わったことにいつまで悩んでるのよ!」
「シュヴィーナ……」
「それに、メンタルが弱いと思ったのなら、尚更ここで立ち上がりなさいよ。でないと、ソニアはもうずっとそこから立ち上がることができなくなるし、私たちについて来ることは疎か、ルイスの隣に立つことも一生できなくなるわ。だから、早く立ちなさい」
「っ!!」
シュヴィーナの言葉を最後まで聞いたソニアは、一度自分の頬を両手で叩くと、先ほどまでとは違い闘志のこもった瞳で立ち上がる。
「ごめんなさい。シュヴィーナの言う通りだわ。次で挽回してみせるわね」
「ようやく話がまとまったねぇ。それじゃあ、早く皇城の方に行こうかぁ。それにしても、自分でほっぺを叩いて気合いを入れるとか、ソニアちゃんは随分とベタなのが好きなんだねぇ。まぁ、そういうの嫌いじゃないけどぉ」
「まったく。ラヴィエンヌはすぐに人を揶揄おうとするのね。でも、色々とありがとう。それと、アイリス、セフィリア、それにミリアも声をかけてくれて助かったわ」
「ソニアが立ち直れたのなら、それでいいですよ」
「そうですね。それに、お城での戦いと言えば最終決戦が定番ですから、ソニアさんが力を貸してくれるなら心強いです」
「私は当然のことをしたまでです。それと、フィエラさんのことは私にお任せください。本来は皆さんと一緒に行くつもりでしたが、フィエラさんがこんな状況であれば、風魔法が使える私が運んだ方が早いでしょうから」
「そうだねぇ。じゃあ、フィエラちゃんのことはお願いねぇ。ミリアちゃん」
「お任せください」
未だ目を覚まさないフィエラを皇城へと引き摺って行くことはできないため、今回はミリアがフィエラを連れて学園へと戻ることになり、他のメンバーでシャルエナを追って皇城へと向かうことを決める。
「それじゃあ、皇城に行こっかぁ」
こうして、ラヴィエンヌのその言葉を合図に五人は走り出すと、シャルエナを追って皇城へと向かうのであった。
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