第381話 お姉さん?

◇◇◇


 時は少し遡り。


 シャルエナがモーキュラスとの戦闘を始めたばかりの頃。


 下級悪魔や上級悪魔、それに魔族たちを容赦なく蹂躙していたフィエラたちの前にもまた、二体の男と女の悪魔が現れる。


「あんらぁ〜。 活きの良い人間が四人もいるじゃなぁい。しかも、みんな可愛い女の子だなんて、あたし、嬉しくなっちゃうわぁ〜!」


「相変わらずキモいしゃべりかたっすね。そのゴツイ見た目でその喋り方はやめて欲しいっす。知ってるっすか?その喋り方、人族の間ではオカマ、もしくはオネェっていうらしいっすよ?」


「そうなのぉ〜?意味はよく分からないけど、馬鹿にされてるのだけはわかるわぁ〜。だ・か・ら、ぶちのめすぞ。このクソアマ」


「素が出てるっすよ。せめて、キャラだけでも統一して欲しいっすね。キモいっすから」


 姿を現してすぐ、何故か言い争いを始めた男と女の悪魔は、同族同士で殺し合いでも始めそうなほどに濃密な殺気を撒き散らす。


「ちょっとー。ボクたち、いつまで待ってればいいのかなぁ?」


「あん?」


「ん?」


 そんな中、何とも気の抜けるような間延びした喋り方で二人に声を掛けたのは、漆黒の大鎌を片手に退屈そうにしているラヴィエンヌだった。


「あなたたちで殺し合ってくれるなら、それはそれで楽で良いのだけれど、それならせめて、他のところでやってくれないかしら。ここだと邪魔だし迷惑なのよね」


 次に辛辣な言葉を浴びせたのはシュヴィーナで、彼女は本当に面倒そうにしながら遠い山の方を指さして、向こうでやれと暗に示唆する。


「あたし、オカマって初めて見たかも。あんな感じなのね。肥大化したムキムキの筋肉であの喋り方は、確かにちょっと気持ち悪いわね」


 ソニアはオネェ口調で喋る筋肉質の悪魔を見ると、女の悪魔と同じように気持ち悪いと素直な感想を言葉にした。


「どうでもいい。やるなら早くやろ」


 そして最後にフィエラ、いつものようにマイペースに、やるなら早くやろうと二人の悪魔を急かす。


「ほら。あの子たちにも言われてるっすよ。気持ち悪いって。初見さんに言われるくらいっすから、やっぱ気持ち悪いんすよ、それ。まぁでも、それも個性だと思うんで、うちはあんまり否定しないっすけどね」


「散々否定しておいて、何を今さら言ってんだクソが。最初にやめた方がいいって言ったこと、忘れてねぇからな」


「あ、覚えてたんすね。何度やめるように言ってもやめないんで、記憶力が終わってるものだと思ってたっす」


「この、クソガキィィ」


「まぁ、揶揄うのはこの辺にして。そろそろうちたちもやることをやるっすよ。人間は、皆殺しっす」


「すぅーーーーーー。はぁーーーーーー。そうねぇ〜。ようやく私たち悪魔が世界を支配する時がきたんだし、たくさん遊ばないとねぇ」


 悪魔の男は大きく息を吸ってから長く息を吐くと、怒りを飲み込んだのか口調が元のオネェ口調へと戻り、視線は待ちくたびれた様子で自分たちのことを見上げているフィエラたちへと向かう。


「待たせたわね。私は悪魔王のベルゼラよ。よろしくね、お嬢ちゃんたち」


「うちは悪魔王のルルリカっす。短い付き合いになると思うっすけど、よろしくっす」


 悪魔王。


 それは、シャルエナが相手をしたモーキュラスのさらに上を行く上位の悪魔で、SSランクに位置付けられている強者だ。


 さらに言えば、普通の魔物よりも知能が高いため、同ランクの魔物よりも数段は強いと言っても過言ではない化け物でもある。


「わぁ。これはご丁寧にありがとぉ。じゃあお返しに、ボクはラヴィエンヌ。気軽にラヴィって呼んでねぇ」


「私はシュヴィーナよ」


「あたしは。ソニア。短い付き合いになるのなら、これくらいでいいわよね」


「ん。フィエラ。よろしく」


 これから戦うというのに、何ともまったりとした雰囲気の流れの中で自己紹介をする六人だが、それでも六人は警戒を緩めることはなく、お互いに視線を外すことはなかった。


「それで、どうするっすか?うちらは四対二でもいいっすけど、一応はそっちの希望も聞いてあげるっす」


「そうだなぁ。ボク的には一対二って言うのも楽しそうだけど、そうなると黙ってない子たちが二人ほどいるからねぇ。だから、二対一ってのはどうかな?」


「二対一っすか。うちらとしては、何なら四対一でもいいすっけど、本当にそれでいいんすね?」


「あはは。まぁ仕方ないよねぇ。四対一になったらすぐに終わっちゃうし、何よりボクがすぐに終わらせるから、みんなから怒られちゃうよぉ。だから、それでお願いねぇ」


 しばしの沈黙。


 人を煽るのが好きなラヴィエンヌの言葉は、一見すれば冷静そうに見えるルルリカでも内心では少し苛立っており、それはプライドが高く、自分たちを最強だと思っている悪魔である彼女たちにとって、到底見過ごせる言葉ではなかった。


「いいっすよ。最初に希望を聞くって言ったのはうちっすから、その提案、受けてやるっす」


「ちょっと、ルルリカちゃーん。勝手に決めないでくれるかしらぁ?私なら、あの子たちをまとめて相手にしても勝てるわよぉ?」


「黙るっすよ。ベルゼラ。そんなことは言われなくてもわかってるっす。それにあんな連中、うちも一人で倒せるっす。けど、これは明確なうちらに対する挑発なんすよ。でも、今うちらは舐められてるんすよ。格下だと思われてるんすよ。この悪魔王であるうちらが。なら、その挑発に乗った上で、残酷に、残忍に、徹底的に、嬲って嬲って嬲って嬲って嬲り殺すっす。うちらを舐めたこと、後悔させてやるっすよ」


「あーらら。あの子、一番怒らせちゃいけない子を怒らせちゃったわ」


 先ほどまでの落ち着いた雰囲気とは違い、ルルリカは悪魔らしく残酷に笑うと、横にいたベルゼラは同情するようにラヴィエンヌのことを見た。


「なら、あの子はルルリカちゃんが相手してあげてね。私の相手をしてくれる子は右側に集まりなさぁい」


「だってさぁ。どうするぅ?どんな風に分けようかぁ」


「なら。今回は少し趣向を変えて、あまり組まなそうなペアで分かれましょうか。私とラヴィ、フィエラとソニアでどう?」


「ん。私は誰でもいい。何なら一人でも……」


「フィエラ。それはあたしが邪魔ってことかしら?」


「別にそういう意味じゃない。ただ、一人でも戦えるって言いたかっただけ」


「ふふ。冗談よ。それより、フィエラと二人だけで組むのは初めてだし、少し楽しみね。シュヴィーナみたいにできるかはわからないけど、なるべく頑張って合わせるわ」


「ん。任せる」


「それじゃあ、ボクはシュヴィちゃんとだねぇ。よろしくぅ」


「えぇ。よろしくね。私が適当に合わせるから、好きに動いていいわよ。自由に動かれるのは慣れてるから」


「あはは〜。わかったぁ」


 これまではフィエラとシュヴィーナの二人で組むことが多かったが、今回はシュヴィーナの提案でフィエラとソニア、ラヴィエンヌとシュヴィーナでそれぞれ分かれると、フィエラとソニアがベルゼラの方へ、ラヴィエンヌとシュヴィーナがリリルカの方へと向かう。


「それじゃあ、私たちもどっちが早く片付けられるか勝負しましょ〜。負けた方が、勝った方にお宝を一つ渡すってことでどうかしら?」


「いいっすよ」


「よぉ〜し!お姉さん!負けないように頑張るわよぉ〜!!」


「………そのお姉さんは、どっちの意味なんすかね」


 幸いにも、勝負に勝てば貰える報酬に浮かれていたベルゼラには、そんなルルリカの疑問が届くことはなく、二人は最初のように言い争うことなくそれぞれの相手のところへと分かれていく。


 こうして、フィエラとソニア対ベルゼラと、ラヴィエンヌとシュヴィーナ対ルルリカという、二つの戦いが幕を開けるのであった。






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