第378話 観戦
◇◇◇
「おぉー、随分と派手にやってるなぁ」
帝都での襲撃が始まって以降、上空でただ同じところを眺めているだけなのもつまらなかった俺は、水クッションに座りなが水魔法の鏡の蝶を使って様々な場所の状況を確認していた。
「シュードたちの方も一応確認してはいるが、こっちは想定通りすぎてつまらないな。それに対してフィエラたちの方はやっぱり安定してるし、なんか競い合ってるみたいで楽しそうだ」
シュードの方は、ラヴィエンヌに負けて以降あいつがどの程度成長したのかを見るために観察していたのだが、声は聞こえずとも何となく雰囲気でどういう状況なのかを察することができ、おそらくは仲間も市民も助けたいと言ったシュードに感化され、ライドたちも一緒に戦うことになったのだろう。
実力が伴っていないのに欲張るとは、何とも馬鹿な連中だ。
それに対してフィエラたちは、そもそもの地力が違うためどれだけ敵の数が多くても的確に処理しており、さらには市民を助けるついでに誰が多く敵を倒せるのか競い合うほどの余裕をせている。
いや、むしろそっちが本命となりつつあり、もはや市民の救出の方がついでのようにも見えるな。
「んで、シャルエナたちの方は学園に避難して来た人たちの誘導と治療か。まぁこっちもらしいと言えばらしい行動だな。ただ、このまま平和に終わればいいだろうが、果たしてどうかな。お、城の方でもついに始まったか。ふーん。まずは第二皇子を殺したか。まぁ、当然と言えば当然だな」
一方で、結界が張られた学園の中では、シャルエナをはじめとしたアイリスやミリア、それに他の教師や生徒たちが協力して避難して来た市民たちを誘導しており、怪我人がいればセフィリアたちが回復魔法で治療を行っていた。
そして、皇帝たちがいる城の方では街の襲撃を陽動にして騎士や魔法使いたちの意識を逸らすと、その隙に第三皇子とその部下たちが城を攻め、最初に病弱な第二皇子を始末する。
「まぁ、城の方は正直どうでもいいんだよな。誰が死のうと俺には関係ないし、興味もない」
今まさに殺されようとしている皇帝たちはシャルエナの家族ではあるが、俺にとってはどうでもいい存在だし、死んでも何かが変わるわけではないため、助けようとも思わない。
「あ、ホルスティン公爵が死んだな。あれは悪魔か?」
そんなことを考えていると、ちょうどタイミングよくライドの父親であるホルスティン公爵が黒いモヤによって胸を貫かれて息絶えると、次に立ち上がった時には禍々し魔力を身に纏い、胸の傷も綺麗に消え去っていた。
「ふーん。ソワレの話では、今回の件には悪魔の集いとかいう連中が関わっていると言っていたが、悪魔そのものまで関与していたのか。面白くなってきたな」
その後、皇帝と皇太子をあっさりと始末した第三皇子は部下と悪魔が憑依したホルスティン公爵を連れて玉座の間へと向かい、さっそく皇帝の椅子へと座る。
しかし……
「ぷっ。あっははは!!まじかよ!皇帝になって僅か数分で崩御とは、ある意味歴史に残る死に方じゃないか?いや、そもそも城にいる人たちはみんな死んで、一瞬でも第三皇子が皇帝になった事実すら知ってる奴はいないから、事実上では叛逆したことすら歴史に残るかわからない。あいつ、マジで何をしたかったんだろうな」
第三皇子が椅子に座って少しすると、悪魔は一瞬のうちに第三皇子のもとへと近づきその胸を貫くと、さらに彼を助けようとした部下たちまでも皆殺しにして、最後には魔力を解放して謎の亀裂を作り出し、そこから悪魔や魔族たちが次々と溢れ出てくる。
「あー、面白かったなぁ。それにしても、この展開は俺の知ってる過去とは少し違うな。確かあの時は、数年後にシャルエナが第三皇子を倒したはずだから、ここで死ぬようなことはなかったはずだが。もしかしたら、ローグランドじゃなくて魔族と手を組んだから、奴らの作戦も変わったのかもな」
九周目の人生の時は、第三皇子が皇帝たちを殺して皇位についたあと、シャルエナはシュードたちの手を借りて神聖国へと逃げ、そのあとは神聖国やシュードたちと協力することで第三皇子を倒したはずだ。
だが、今回はその第三皇子があっさりと死んでしまったことから、おそらくは俺がサルマージュとローグランドたちを倒してしまったため、悪魔たちが魔族と手を組んだことで、過去の形とは大きく変わったということなのだろう。
「それにしても、あの魔法は少し気になるな。召喚魔法の応用か?確かに悪魔は召喚されてこっちの世界に来るから、あいつらが召喚魔法に詳しくてもおかしくはないが、同じ世界にいる奴らを召喚で呼べるとなれば、それはもはや転移魔法だな」
悪魔が使ったのはおそらく召喚魔法だと思うが、通常の召喚魔法は霊体や精神体、つまり実体を持たない存在しか呼び出すことができない。
そのため、シュヴィーナたちエルフがよく使う精霊召喚も、元々自然から生まれた魔力から作られた精霊を契約という繋がりを使うことで召喚することができるし、悪魔も別世界に本体があり、精神だけを召喚された時にこっちの世界に飛ばして擬似的な肉体を作ったり憑依することで自由に動くことができるようになる。
しかし、あの悪魔が使った召喚魔法はこっちの世界に実体がある魔族まで召喚できていたため、まさに転移魔法と言っても過言ではないほどの効果を持っていた。
「見た感じだと、あの亀裂から出てきた時に魔族たちの体を魔力みたいな膜が覆っていたから、あれに秘密があるのかもな」
実体を持ったものを召喚できない理由についてだが、召喚魔法は召喚者の魔力や生命力を消費して召喚対象に実体を与える魔法であるため、そもそも実体があるものを召喚対象にすることはできないのだ。
もし仮に無理やり実体があるものを召喚対象にしようとした場合、その対象は一度肉体が魔力となって分解され、その後は元の形に戻ることができずに魔力となって霧散してしまうというのが、一般的な仮説として知られている。
「魔族が召喚魔法に耐えられたのは、あの魔力の膜で霧散するのを防ぎ、尚且つ魔族特有の強靭な肉体があるからか?うーん。もう一度見られれば原理が分かりそうだが、もう魔法は終わってるからな。捕まえてもう一度使わせるってのもアリだが、それは後で考えるか。それより……」
どうやら悪魔の召喚魔法は城だけでなく帝都の街全域に使用されたようで、例の亀裂は街のあらゆる所に現れると、そこから先ほどと同じように悪魔や魔族たちが飛び出てくる。
「第三皇子の叛逆という第一段階は終わったな。こっからがいよいよ本番なわけだが、もっと楽しい状況になってくれるといいな」
すると、そんな俺の願いが通じたのか、亀裂の中からは下級悪魔や上級悪魔だけでなく、SSランクの悪魔王までもが出てくると、そいつらはフィエラやシュード、さらには結界の中にまで現れて破壊を始める。
「ふむ。学園の結界は外の防御には強いが、内側にあの亀裂ができたらさすがに防げないのか。まぁ、あっちは学園長もいるし問題ないな。フィエラたちの方も苦戦はするかもしれないが、悪魔王が相手ならいい経験になるか。シュードの方は…まぁ多少人が死んでも問題ないだろ。てか、誰が死のうがどうでもいいしな」
フィエラたちの方はラヴィエンヌやフィエラがいるため問題はないし、学園の方もメジーナがいるため全員が死ぬようなことはないだろう。
それに、街の方ではギルドマスターのシャーラーや、オルガをはじめとした黒獅子の断罪、それに他の冒険者たちも協力して戦っているため特に問題はない、
あとはシュードたちの方だが、彼らについてはどうでもいいため無視だ。
というか、最初から大して興味もないし、観察はしていたが助けるつもりもないため、何をするにしても俺の邪魔にならなければ勝手にしてくれという感じだ。
「んじゃ、俺もそろそろ……」
「ぐひゃひゃ!人間死……」
それぞれの観察を終えた俺は、鏡の蝶と水クッションを消して飛行魔法でその場に浮かぶと、頭上にできた亀裂から飛び出してきた悪魔たちを風魔法で作った刃で切り刻む。
「楽しませてもらうとするかな」
俺はそう言って目の前に現れた悪魔王の一体に目を向けると、まずは準備運動ついでにそいつと戦うため、軽く伸びをして体をほぐすのであった。
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