第179話 本戦開始

変更点について

173話にて、大会期間は四日間とありましたが、トーナメント表と人数を再度計算した結果、ズレが生じておりました。

なので、大会の開催期間を四日から五日に変更いたしましたので、よろしくお願いします。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 魔族の男との話し合いを終えた俺が観客席へと戻ってくると、ちょうどソニアの二試合目が始まっていた。


「間に合ったか」


「おかえり」


「ギリギリね。もし間に合わなかったら、ソニアに怒られていたわよ」


「間に合ったんだから問題ないだろ」


 シュヴィーナに揶揄われながら席に座った俺は、舞台の方へと目を向けて彼女の対戦相手を見る。


「相手は?」


「一年生のCクラス生ですね」


「しかも、ソニアさんと同じ魔法使いのようなので、正直あまり相性がいいとは言えません」


「今回は少し、ソニア嬢の相手に同情してしまうよ」


 アイリスやセフィリアの言う通り、相手はどうやら一年Cクラスの女子生徒のようで、魔力量や魔力制御を見ただけでも、ソニアより劣っているのが分かった。


 そして、案の定二人の試合が始まると、女子生徒が魔法を詠唱するのに対し、ソニアは詠唱をせずに魔法を発動すると、それだけですぐに結果が決まった。


「まぁ、普通はこんなもんだよな」


 別に対戦相手の子に才能がないとか実力が無いというわけではなく、シュゼット帝国学園に入学できている時点で同年代の中では才能も実力もある方だ。


 しかし、その中でも俺やフィエラ、そしてシュヴィーナはすでに学園内では比較できないほどの実力があるし、ソニアやアイリスも才能でいえばフィエラたちに負けないものを持っており、実力も現時点で学園では上位に入る強さを持っている。


 だから今回は本当に相手が悪かったとしか言うことしかできず、シャルエナがソニアの相手に同情してしまったのも仕方がないことだった。


「さて、次はライドか」


 次の試合はライドと三年Bクラスの男子生徒で、武器はお互いに同じ剣のようだった。


 同じ武器同士の戦闘の場合、これまでの経験と如何に相手の動きを読み切れるのかが鍵となる。


 しかし、ライドも才能はあっても魔剣を使っていないことや経験の差から対戦相手に上手く動きを封じられてしまい、思い通りに攻め切れなかったライドはここで敗退することになった。


「今回も、見事に経験の差が出た試合になったね。ホルスティン家の後継ぎも頑張った方ではあるけど、魔剣無しでの戦闘だったからか、素の実力差が出てしまったようだ」


「ん。でも、きっといい経験になったはず。これから頑張ればいい」


「そうだね」


 シャルエナが評価したように、ライドは今回も魔剣ではなく普通の剣で身体強化を上手く使いながら戦っていたが、やはりダンジョンでの実戦経験が多い三年生には、今の彼の実力は及ばなかった。


 しかし、負けたにも関わらずライドの表情は穏やかで、次に向けて頑張ろうという意気込みが見えたことから、彼は本当に変わったなと感じさせる。


 そして、二日目の最後を飾ったのは主人公であるシュードで、彼の対戦相手は三年生Cクラスの魔法使いだった。


 さすが三年生と言うべきか、魔法使いにも関わらず立ち位置や相手との距離の取り方が上手く、さらに詠唱短縮で的確に魔法を放っていく。


 それに対してシュードは、剣に大量に魔力を流し込むと、迫り来る魔力を力任せに吹き飛ばして相手との距離を詰めようとする。


 強引ではあったが、いくら魔法を放っても魔力を纏った剣に弾かれてしまうため、対戦相手はシュードの勢いを止めることができず懐に入られると、そのまま剣に吹き飛ばされて意識を失った。


「何と言うか、無駄が多すぎる戦いだったわね」


「そうですね。ですが、あの剣を魔力で纏う技は少し厄介ですね。魔法が弾かれてしまうのであれば、私とは相性が悪そうです。何か対策を考えておく必要がありそうですね」


 シュヴィーナは自身が技巧派なためか、シュードの魔力任せの戦い方があまり気に食わなかったようだが、アイリスは逆にそれが自分との相性が悪いと感じたらしく、戦闘になった時のことを想定して戦い方を考えているようだった。


 こうして、二日目はソニアとシュードの二人も勝ち残り、いよいよ本戦である三日目を迎えるのであった。





 武術大会三日目。今日からいよいよ大会の本戦が始まる訳だが、本戦のトーナメント表は昨日新しく引いたくじによって決められており、予選とはまた違った組み合わせで試合が行われるようになっている。


 また、本戦の初日である三日目には8つのシード枠が存在しており、シード枠に入ることができれば一勝するだけでベスト16へと進むことができる。


 本戦に進んだのは全部で56人で、その内のほとんどがシャルエナを含めた二年生であり、三年生は参加人数が少ないのと、一年生は実力の差で負けた者が多かったため、本戦へと進んだ生徒の数が少なかった。


 そして、試合に出るアイリスたちの対戦表についてだが、シャルエナとソニアがシード枠であり、アイリスは今日の第一試合を務めることになった。


 対戦相手は二年のSクラス生だが、彼女の実力であれば経験の差はあれど負けることは無いだろう。


 シャルエナとソニアの二人は順当に勝ち進めば準決勝で二人が当たることになっており、昨日のソニアはシャルエナと戦えることが楽しみなのか、絶対に勝つと気合が入っているようだった。


 最後にシュードについてだが、こちらは面白いことに、今日の一試合目に勝てば次の対戦相手がアイリスとなる。


 アイリスがはたしてシュードを前にした時どんな反応を見せるのか、そして彼女がシュードと戦う時を想定してどんな対策を立てたのか、俺としても興味のある一戦になりそうだった。


 そうして始まった三日目の本戦は、第一試合のアイリスが対戦相手の双剣技と速さに多少翻弄されもしたが、動きになれると水魔法で的確に防御し、最後は危な気なく勝利した。


「アイリス。前よりも相手との位置の取り方や立ち回りが上手くなった」


「そうだな。特に最初は、初めての双剣使いだからか防御魔法を使いながら見ることに徹底していたし、感覚を掴んでからも上手く相手の動きを誘導していた」


 フィエラはアイリスの試合を見て彼女の成長を素直に褒めており、俺自身もアイリスが以前より動きが良くなったのは感じ取っていた。


 それに加え、攻撃魔法だけでなく防御魔法の発動速度も速くなっており、仮に今の速度で魔法を使用できていなければ、今回負けていたのはアイリスの方だっただろう。


(アイリスにとっても、この大会は良い学びの場になったみたいだな。他の魔法使いたちの動きをよく見ていたようだ)


 そんなアイリスの試合が終わると、次はシュードの試合が始まる。


 彼の対戦相手は二年のCクラス生だったが、今回も昨日と変わらず魔力頼りの雑な戦い方で、まさに力任せに振るった剣は相手の放った矢を吹き飛ばすと、身体強化を使って距離を詰めたシュードは剣を相手の腹部に強打させ勝利する。


「なんだか、昨日よりも雑になった気がするわね」


「恐らくですが、魔力だけで解決できると思ってしまったのでしょう。現にそれで昨日の二戦を勝ち抜きましたから、変な方向に自信がついても仕方がないかもしれませんね」


「確かに魔力頼りで雑な戦い方ではあるが、見た感じ魔力を制御できていないんだろうな」


 シュヴィーナの言う通り、シュードの戦い方は魔力頼りの雑な戦いではあるが、強力な魔力を持っていること、そしてその魔力を手に入れたばかりであるならば、その魔力を上手く制御できないというのも、ある意味当然と言える。


「制御ができていない?これまで魔力操作の練習でもサボってきたのかしら」


 シュードが魔力を制御できていない理由については、彼の魔力が覚醒をきっかけに変化したということを知っている俺くらいしかいないため、シュヴィーナがその事を疑問に思うのも不思議ではない。


 それからも休憩を挟みながら試合は進んでいき、全員の一試合目が終わると、いよいよアイリスとシュードの試合が始まることになる。


(さてさて。アイリスがどんな反応を見せるのか、楽しませてもらうとしよう)


 シュードを前にしたアイリスがどんな反応を見せるのかは、それは今後の彼女との関わり方にも大きく関係してくるため、今回は二人の試合をじっくりと見させてもらうことにした。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇


同時連載している『元勇者、魔皇となり世界を捧げる』もよければよろしくお願いします!


https://kakuyomu.jp/works/16817330663836544021





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