第168話 可愛いだけじゃない

〜sideドーナ〜


 ルイスたちが盗賊たちとの戦闘を始めた頃。ルイスの指示で近くの村へと来ていたドーナは、上空からその小さな村を眺めながらどうするかを考える。


「う〜ん。最初に村を囲むべきか敵を捕まえるべきか悩んじゃうな〜。う〜ん。うん?うん!敵を最初に捕まえよう!最初に囲んで人質なんて取られたら面倒だもんね!そうと決まれば、みんな〜!集合〜!!」


 村に隠れている盗賊たちを最初に捕まえることに決めたドーナは、可愛い声で周囲に呼びかけると、彼女のもとに水の下級精霊や草や花の下級精霊たちが集まってくる。


「みんな!ドーナはこれからあそこの村にいる悪い人たちを捕まえたいの!みんなはずっとこの村を近くで見てきたよね?だから、誰が悪い人で誰が良い人なのかドーナに教えて!」


 下級精霊たちは意思はあるが喋ることができないため、その意思をドーナに直接送り込んで情報を伝えていく。


「なるほど。村にいる人の数は20人で、そのうち5人が監視役なんだね。若い子たちは四日前に連れて行かれたから老人たちしかおらず、監視役も少ないと。わかった!じゃあ、ドーナがその人たちを捕まえるから、みんなはその悪い人たちのもとに向かってくれる?」


 ドーナに指示させられ下級精霊たちは、それぞれ村へと降りていき、盗賊たちの仲間のもとでドーナに合図を送る。


「おっけ〜!その5人だね!」


 合図を確認したドーナは薄緑色の魔力を解き放つと、彼女の魔力に応えるように5人の男の足元から太い蔓が伸び、容赦なく拘束していく。


「な、なんだ?!」


「急に植物の蔓が!!」


「う、動けねぇ!!」


 男たちは急に足元から伸びてきた蔓に驚いて逃げることができず簡単に拘束されると、まるで芋虫のように地面へと転がった。


「よし!悪い人たちは捕まえたね!次!」


 ドーナは盗賊たちを全て拘束したのを確認すると、今度は巨大な木の根を何本も生えさせて村全体を囲み、誰一人逃げることのできない完璧な檻を作り出す。


「な、なんじゃ」


「これは…木の根?」


「か、神の怒りじゃ…」


 村に残されていた老人たちはあまりの光景に神の怒りだと勘違いし、祈りを捧げる者や頭を地面につけて平伏する者がいた。


「うんうん!これで大丈夫そうだね!それじゃあ、最後はみんなに指示を出しに行かないと!」


 ルイスの指示通り盗賊の拘束と村を囲み終えたことを確認したドーナは、最後の仕上げをするためゆっくりと盗賊たちの前へと降り立った。


「何だこのちっこいの」


「おい!お前が俺たちにこんなことをしたのか!」


「さっさとこれを解け!」


 盗賊たちはドーナの姿を見るなり、拘束を解くように怒鳴り、顔を真っ赤にして犬のように吠える。


「あれが神様か」


「なんと可愛らしい」


「あぁ、神よ…」


 それに対し村人たちは、ドーナの放つ人ならざる魔力と愛くるしさから、神だと勘違いして全員が平伏した。


「あっはは!ドーナが神って、人間は面白いね!でも残念!ドーナは神様じゃないよ?」


「で、では…あなたはいったい…」


「ドーナは植物の精霊ドライアド!」


「精霊様?」


「そう!本当は自然を壊す人間なんて助けたくないし、勝手に死んでくれればいいって思ってるんだけど、今回はあの人にお願いされちゃったからね。仕方ないから助けてあげる」


 植物を司るドーナにとって、自然を破壊し、環境を壊して生活する人族は敵だ。


 しかし、今回はルイスからのお願いということもあり、仕方ないと思いながら村人たちを助けていた。


「さて!それじゃあ…ゴミども。お前たちはもう終わり。観念して彼らが来るまで待っててね」


「終わりだと?いいからこれを解けよ!」


「はは!お前こそ、お頭が来たら終わりだぞ!今降伏するなら許してやってもいいぜ?」


「さっさとしろ!」


 盗賊たちは未だ状況が分かっていないのか、傲慢な態度で拘束を解くよう訴えるが、次のドーナの言葉で彼らの勢いは無くなった。


「お頭?それならすでに討伐されていると思うよ?」


「は?」


「だって、今回の討伐しに行った冒険者の中にはSSランクの彼がいるもの。どんなにお頭が強かろうと、彼には敵わない。今頃死んでるんじゃないかなぁ?」


「え、SSランク」


「お頭の実力は確かAランクくらいって」


「じゃ、じゃあ本当に…」


「落ち着け」


 盗賊たちの間には動揺が広がるが、その中でも一人だけ、5人のリーダーなのか一人の男が落ち着いた声でそう言った。


「向こうにはお頭の他にも30人以上の部下がいる。それに低ランクの冒険者も連れているのだ。いくらSSランクといえども、足手纏いを助けながら戦うことは不可能だろう」


「た、確かに」


「そうだよな」


「すみません。動揺してしまいました」


 男は仲間たちからよほど信頼されているのか、彼の言葉を聞いただけで他の盗賊たちもすぐに冷静になった。


「ふーん。おじさん、仲間に信頼されてるんだね?」


「さぁ、どうかな。だが、仲間は大切にしている方ではあるな」


「そっかそっか!じゃあ、おじさんがここにいるお仲間の心の支えなんだね!そんな人には……絶望してもらおうかな」


「なに?…あ、あぁぁぁあ!!!」


 ドーナは植物を使って男を持ち上げると、拘束を一度解いてから改めて手足を広げた状態で一本ずつ拘束する。


 盗賊の男は何が起こるのか困惑した様子を見せていたが、次の瞬間には蔓を使って左足を強引に引きちぎられ、苦痛に満ちた叫び声を上げた。


「あ、このままじゃ血が出過ぎて死んじゃうね。今血を止めてあげるね」


「ぐわぁぁぁぁ!!」


 止めどなく流れ続ける血を止めるため、ドーナは傷口から植物の蔓を足に入れると、血を吸わせて残りの足を干からびさせ、血が流れる血管すら強引に閉じて血が流れないようにする。


「ふふ。いい悲鳴だね。ドーナ、すごくゾクゾクしちゃう。ほら、次行くよ?」


「や、やめ…あああああ!!!」


 その後も男は、一本ずつ腕や足を引きちぎられては強引に血を止められ、全ての手足が無くなった頃には口から泡を吐きながら気絶していた。


「ふふ。これで分かったよね?あなたたちはもう負けたの!だから、ドーナと一緒にあの人が来るまで大人しく待ってようね?」


 ドーナは気絶した男の上に座って小さな足を組むと、ニッコリと笑って他の盗賊たちや村人たちを黙らせる。


「ルイス、早く来ないかな〜。褒めて欲しいな〜」


 盗賊と村人たちが恐怖から静かになったのを確認すると、ドーナは早くルイスに褒めてもらいたくて、彼に褒められた時のことを想像しながらルイスの帰りを待つのであった。





〜sideルイス〜


「おぉ、すごいなこれ」


 村に戻ってくると、洞窟に向かう前までは普通だった場所が、まるで巨大な木にでも埋まったかのように村自体が見当たらなくなっていた。


「シュヴィーナ。ドーナに俺たちが来たことを伝えてくれ」


「わかったわ」


 シュヴィーナがドーナに意思を送ってから少し待つと、囲んでいた木に人が通れる分の隙間ができ、俺たちはその隙間を通って村の中へと入っていく。


「エイル〜!!」


「待たせたな、ドーナ」


 少し歩いて村の中心部へと辿り着くと、俺たちを見つけたドーナがすごい速さで飛んできて、シュヴィーナを無視して俺の腕に抱きついてくる。


「ううん!大丈夫だよ!」


「そうか。それで?盗賊たちの方はどうなった?」


「全員捕まえた!早く見て!」


 小さな体で頑張って腕を引くドーナに連れられて向かった場所には、手足が全て無くなり気絶している男と、恐怖に満ちた顔をしている四人の男たちが座らされていた。


「これが村にいた盗賊たちか?村人たちは?」


「うん!他の精霊にも聞いたから間違いないよ!村の人たちはさっき別の場所に移ってもらった!いても邪魔なだけだし!」


「よくやった」


「むふふ〜!もっと褒めて〜!」


 上機嫌なドーナを指先で優しく撫でながら、俺は怯えている盗賊たちのもとへと近づいていくが、あと少しというところで俺と彼らの間にシュードが割り込んでくる。


「エイルさん。これはどういうことですか?」


「何がだ?」


「この人たちは村の人たちじゃないんですか?何故こんなことを」


「あー、そういえば説明してなかったな」


 俺はこの村に来た経緯やこの男たちが何なのかを説明していなかったことを思い出し、面倒だと思いながらも説明してやることにした。


「この男たちは、さっきまでお前らが戦っていた盗賊の仲間だ」


「え?」


「俺があの洞窟の中を探知系の魔法で調べた時、あの洞窟には人質なんていなかった。それに、お前らも盗賊と戦って分かったと思うが、あいつらは気力と活力に満ちていた。しっかりと食事を摂っていたということだ」


「…つまり、食料は定期的に村から提供されており、人質がいないにも関わらず村人たちがそうする必要があったということは、村にも監視役がいたということですか?」


「その通り。そして、それが今お前の後ろにいるやつらだ」


「そんな…」


 シュードはまさかと言いたげな表情で後ろを振り返るが、男たちは全てが事実だと言わんばかりに青ざめた顔をしており、恐怖のせいか震えていた。


「わかったならどけ。邪魔だ」


「うっ…」


 呆然と立ったまま動こうとしないシュードを強引に退かした俺は、腰に下げていたイグニードをゆっくりと抜いて地面へと突き刺すと、俺を見上げる男たちと視線を合わせる。


「それじゃ、少し俺とお話をしようか?」


 俺はそう言うと、目の前で恐怖のあまり顎をガタガタと振るわせる男たちを見下ろしながら、ニヤリと笑った。






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