第165話 さっそく

 村の入り口に近づくと、今回の依頼に参加する冒険者たちがこちらに気が付いて目を向けてくる。


(男が7人に女が3人か)


 参加するのは全部で10人おり、一番若いのがシュードで、一番年齢が高そうなのが25歳ほどに見える男だった。


「今回参加するのは10人って聞いてたけど、あいつらは?」


「さぁ?急に参加することになったか、たまたま立ち寄った初心者じゃないか?」


 男たちは俺たちのことが気になるのか、近くにいる者たちと話をするが、誰一人俺たちを今回の監督者だとは思っていないようだ。


「全員揃っているようだな」


「お前たちも参加者か?まだ監督者の冒険者が来ていないから、全員は揃っていないぞ」


 一番年上の男が前に出てそう言うと、他の冒険者たちは訝しむように俺たちのことを見てくる。


「監督者ならお前らの目の前にいるだろ?俺たちが今回の監督者であるエイル、フィエラ、シュヴィーナだ」


「お前らが監督者?おいおい、俺たちより年下じゃないか。冗談はよせよ」


「冗談じゃないが?ほら」


 俺はシーラから渡されていた依頼書を見せると、彼らは困惑した表情へと変わる。


「本当に依頼書だ。じゃあ、お前らが…」


「そうだ。ようやく理解したか?」


「はぁ。やめだやめ。こんなガキに俺たちの命を預けるなんて馬鹿げてる。お前たちも命が惜しければ帰ろうぜ。冒険者ギルドも何を考えているんだ。こんなガキを監督者に選ぶなんて。俺たちを馬鹿にするなよな」


 男は俺が年下だからこの後の盗賊討伐が不安になったのか、他のやつらにも声をかけてこの場を去ろうとする。


「帰るのはお前たちの自由だが、もし帰った場合、今後お前たちは盗賊討伐の依頼に参加できなくなるぞ?」


「なに?」


「今回の依頼については、監督者である俺に全権が与えられている。つまり、依頼を達成して報告をした時、お前たちは指示に従わず依頼を放棄したとギルドに報告すれば、今後ギルドがお前たちに盗賊討伐の依頼を受けさせることがなくなるということだ」


 盗賊討伐の依頼は、低ランクの冒険者にとっては金を稼ぐのと昇格するために必要な依頼だ。


 盗賊を討伐して宝を回収すれば、その時に手に入った物は戦利品として依頼を受けた冒険者たちに所有権が渡るし、DランクからCランクに上がる際は人を殺せることが条件として決められている。


 だからDランクの時は盗賊の討伐依頼を一度は受ける決まりとなっており、今回彼らがここにいるのはその条件を達成するためでもあるのだ。


「脅してるのか?」


「脅し?違うな。事実を言っているだけだ」


「だったら、俺たちに実力を見せろ。俺たちが命を預けても問題ないと証明しろ」


「…はぁ、めんどくさ」


 男はよほど俺のことが気に入らないのか、それとも死にたくないから万が一の時に自分を助ける実力があるのか確かめたいのかは分からないが、剣を抜いて構える。


 しかし、俺が馬鹿正直に相手にするはずも無く、男に足をかけて絡め上げると、転びそうになった男の背中に踵落としを食らわせる。


「がはっ!」


 男は無様に俺の足で地面に押さえつけられると、勢いが強すぎたのか地面に少しだけ罅が入った。


「これでいいか?」


「くっ」


「なんだ?まだ足りないのか?なら…」


「ぐぁぁぁあ!」


 男はプライドのせいか俺のことを睨んでくるが、踏みつけている足に少し力を入れると、彼は苦しそうな声を上げて踠き始めた。


「やめてください!」


「…お前は?」


「僕はDランク冒険者のシュードです!あなたが強いことはわかりましたから、もうやめてください!その人も苦しんでいるでしょう!!」


 俺が男を踏みつけていると、予想通りシュードがやめるように割り込んできて、俺を睨みながら近づいてくる。


「はぁ。まぁいい」


 今は変装魔法で姿を変えているため、俺がルイスであることに気づいていないようだが、バレると面倒なのでとりあえず男を解放してやる。


「くっ」


「大丈夫ですか!!」


「あ、あぁ。助かった」


(骨も折れてないのに大袈裟なやつだ)


 そんなに力を入れていなかったので、骨が折れたりしていないはずなのに、男はまるで死にかけたように疲弊していた。


「くそっ。何者なんだよ…」


「さっき名乗っただろ。聞いてなかったのか?俺はエイル。SSランクの冒険者だ」


「SSランク?!」


 俺のランクを聞いた瞬間、絡んできた男以外の冒険者たちも驚いた表情へと変わり、困惑しているのか誰も喋らない。


「俺のランクは伝えたし、実力も見せた。これ以上は時間の無駄だから説明を続けるぞ。これからお前たちには盗賊を殺してもらう訳だが、今回は生け捕りは無しだ。命乞いをされても必ず殺せ。人質を取られたらその時は俺たちが対処するから、お前たちは絶対に手を出すな」


「何故ですか。命乞いをしてきたのなら助けるべきです!無駄に人を殺すべきではありません!」


「お前はシュードと言ったな?お前の質問についてだが、理由は二つ。一つ、今回のお前たちの依頼は盗賊の討伐であり、捕獲ではない。それに、この依頼はお前たちが躊躇わず人を殺せるかを見ることを目的としている。殺さないようであれば意味がない。


 二つ、お前たちには生け捕りにする余裕がない。仮に命乞いをしてきたとしても、それが嘘の可能性もある。しかし、お前たちにはそれを見抜く力も対処する力もないだろ?だから今回は殺す以外の選択肢は無しだ」


「ですが!」


「文句があるなら帰れ。さっきも言ったが、この依頼を受けない場合に困るのはお前たちだ。ランクを上げたくないのなら帰ってくれてかまわない」


「っ…」


 シュードもこの依頼を受けることの重要性を理解しているのか、それ以上何かを言ってくることはなく、ただ悔しそうに唇を噛むだけだった。


「よし。もう文句を言うやつはいないみたいだな。なら、さっそく出発するぞ」


 他の冒険者たちも先ほど実力を見せたせいか文句を言う者はおらず、俺たちはようやく盗賊たちがいる洞窟へと向かうのであった。





 村から離れたところにある森の中。そのさらに奥に盗賊たちが根城としている洞窟があり、俺たちはその洞窟の近くで草むらに隠れながら最後の確認を行っていた。


「これから盗賊を狩りを行くわけだが、狩りをするのは基本的にお前たちだ。俺たちは一番後ろからついて行き、お前たちの行動、判断、そしてしっかりと殺せるのかを見させてもらう。危ない時はちゃんと助けてやるから安心しろ。何か質問は?」


 質問はないかと尋ねると、大きな丸メガネをかけた魔法使い風の女が手を上げて質問をしてくる。


「中で見つけたお宝の分配についてはどうなりますか?」


「宝については見つけた者に所有権があるから、当然そいつの分だ。ただし、宝に目が眩んで死にました、何てくだらない死に方はしないようにな。自分たちで宝を取って良い状況か、本当に必要な物なのかを判断して回収しろ。他に質問は?……無いようだな。最後に、今回のお前たちは臨時のパーティーだと思え。各々が役割を果たし、盗賊たちを始末するように。それじゃ、行け」


 俺がそう言うと、冒険者たちは事前に話し合っていたように斥候役の男と女を1人ずつ先頭に置き、剣や盾使いをその後ろ、さらに魔法使いや弓使いを最後尾にして洞窟の中へと入って行く。


「フィエラ、シュヴィーナ」


「ん」


「何かしら」


「俺も探知魔法を使って洞窟の中を警戒しておくが、お前たちも自分たちの力を使って警戒しておけ。入り口に見張りがいないのがすでに怪しいからな。もしかしたら、何かあるかもしれない」


「わかった」


「了解よ」


 フィエラたちにも各自で警戒するように説明した後、俺たちも冒険者たちの後へと続き洞窟の中へと足を踏み入れる。


 こうして、全員が洞窟へと入ったことでようやく一つのイベントが始まるのであった。






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