第164話 後悔

 メジーナと今後について話をした翌日。俺はさっそく授業には参加せず、1人で学園の端の方にあるダンジョンの入り口へと来ていた。


「久しぶりだな。特殊ダンジョン『明けの明星』」


 このダンジョンは明けの明星と呼ばれており、初心者から上級者までダンジョンに入れることや、闇を払う新しい希望の星が生まれて欲しいという意味も込められ、明けの明星という名前が付けられた。


「ん〜。久しぶりの1人も悪くない」


 今日の俺は久しぶりに1人で行動しており、フィエラとシュヴィーナは授業があるためこの場所には来ていない。


「ソロで挑むのも久しぶりだし、本当に楽しみだ」


 ダンジョンの入り口の前には救護所や管理役の教師、そして上級生のパーティーが何組かおり、彼らもこれからダンジョンに挑むのか仲間たちと作戦会議や装備の最終確認を行なっていた。


 また、学園の関係者以外にも外部の冒険者が何組かいるが、彼らも特別な手続きをすれば学園の敷地内へと入りダンジョンに挑戦することができるようになっている。


「君。少し待ちなさい」


「ん?俺ですか?」


「そうだ」


 俺はパーティーの間を通ってダンジョンの中に入ろうとするが、そこで後ろから来た1人の青年に呼び止められる。


「君は見た感じ一年生だろう?一年生はまだダンジョンには入れない。危ないから帰りなさい」


 青年はどうやら、俺が一年生はダンジョン実習を終えてからしかダンジョンに入れないことを知らないと思っているらしく、親切にそのことを教えようとしてくれているようだ。


「ご親切に教えていただきありがとうございます。ですが問題ありません。学園長に許可をもらっていますので。これが証拠です」


 俺は懐から学園長に貰った証明書を青年に見せると、彼は驚いた表情でそれを手に取る。


「本当だ」


「これでご理解いただけましたか?」


「あ、あぁ。だが、君だけでダンジョンに挑むのか?他に仲間は?」


「今はいませんね」


「なら、今回は私たちと組むのはどうだろうか。危なければ助けてあげられるし、何よりこのダンジョンのこともわからないだろう?」


 青年は根が優しいのか、初めて会ったにも関わらず俺のことを心配してくれており、パーティーに入ることを提案してくれた。


「ありがたい話ですが、遠慮しておきます」


「なぜだ?」


「俺は先輩が思っているより強いんです。でなければ、学園長がこんな特例を認めてくれるはずがないですよね」


「確かにそうだな」


 少し嫌味な言い方ではあるが、ここで適当な理由を並べると話が拗れてしまうため、学園長が認めたという点を強調して話を進めていく。


「わかった。学園長が認めたのであれば、実力は確かなのだろう。だが、分からないことがあればいつでも聞いてくれ。後輩が死ぬのは悲しいからね」


「ありがとうございます」


 少なくともこの青年よりはダンジョンについて詳しく知っているが、心配してくれている人にこれ以上何かを言う必要もないため、俺は素直に感謝を伝える。


「では、俺はもう行きます」


「あぁ。頑張ってくれ」


 青年と別れると、俺はダンジョンの入り口近くにいる管理者に学園長からもらった許可書を見せ、いよいよダンジョンの中へと入った。


「ふふ。本当に久しぶりだな」


 明けの明星のダンジョン1階層は周りが岩の壁に覆われており、如何にも初級ダンジョンといった雰囲気がある。


 このダンジョンは1階層から10階層がFランクの難易度で、出てくる魔物はスライムや子供のゴブリンだけだ。


 5階層あたりまでは1匹ずつしか出てこないが、それ以降は2匹や3匹といった感じでまとめて出てくるようになる。


「まさに、初心者を育成させるためのダンジョンだよな。まぁ、こんな低層に用はない。さっさと深層にいくか」


 スライムやゴブリンなどが今の俺の相手をできるはずもないため、自身に身体強化をかけると、最短で次の階層へと向かうため走り出す。


(80階層までの道は頭に入っているが、とりあえず今日は40階層あたりまででいいか)


 このダンジョンの階層は1階層から10階層がFランクであり、11階層から20階層がEランク。


 そして、それ以降は20階層ごとに一つずつランクが上がっていく作りとなっており、現在の最高地点はSSSランク相当の151階層となっている。


 151階層という最高地点だが、これはダンジョンをクリアしたという訳ではなく、そこまでしか攻略することができなかったのだ。


 俺が生まれるよりもずっと前。当時の皇帝がこのダンジョンの攻略を命令し、騎士団と多くの冒険者たちを派遣した。


 最初は人海戦術で攻略を進めて行ったが、難易度が上がるにつれて攻略できる冒険者や騎士たちの数も減っていき、結局は最終攻略もできずに150階層のボスを倒して大規模攻略は終わったそうだ。


(ほんと…何階まであるんだろうな、このダンジョン)


 謎の多いダンジョンではあるが、だからこそ攻略したい者も多いのか、今も高ランクの冒険者たちが数多く挑戦している。


(いつか完全攻略をしたいところではあるが、まだそこまでの実力は無いからな。しっかりと実力をつけてから行こう)


 俺はその後も身体強化で最短ルートを駆け抜けながら魔物たちを適当に倒していき、目標であった40階層のボスを倒したところで、その日の攻略を終えるのであった。





 明けの明星の攻略は順調に進んでいき、攻略を始めてから僅か5日で、Aランクの終わりである100階層まで攻略することができた。


 このダンジョンは非常に面白い作りをしており、階層が増えるごとに地形や天候、そして広さや道の複雑さまで変わってくる。


 例えば50階層は広い森林地帯だったが、90階層は輝く鉱石があたりを照らす美しい洞窟だったり、さらには数百キロもある一本道や逆に何重にも入り組んだ複雑な道だったりと、本当に様々な作りをしているのだ。


 俺の最高地点は、自殺する一つ前の前世で挑戦した時の80階層であったため、それ以降の情報はなく、さすがの俺でも慎重に攻略する必要があり、結果的に100階層まで攻略するのに5日という時間を要した。


(まぁ、それでも十分早いんだけどね)


 100階層までクリアしたところで一度ダンジョン攻略を中断し、しばらくはだらけながら休息日を挟む。


 そして、学園が休みである今日はフィエラとシュヴィーナを連れて魔導列車に乗って移動し、さらにそこからしばらく走ったところにある小さな村へと来ていた。


「まだ耳が痛い」


「フィエラ、大丈夫?」


 初めて魔導列車に乗ったフィエラは獣人のため耳が良すぎるせいか、列車の動く音によって耳を痛めてしまったようだ。


「『回復ヒール』…どうだ?」


「ん。治った」


フィエラの聴力はこれから行う依頼で必要となるため、俺は彼女に回復魔法をかけて耳を治してやる。


「それにしても、今回は少し面倒な依頼を受けてしまったな」


「そうね。まさか低級冒険者の引率をすることになるなんて」


「面倒」


 今回俺たちがここに来た理由は、ギルドマスターであるシャーラーからの指名依頼であり、Dランクになりたての冒険者たちを連れて盗賊の討伐をして欲しいと言われたからだ。


 正直面倒ではあるのだが、ギルドマスターからの依頼であるため、残念だが今回は断ることができなかった。


「さて。あそこに集まっているのが、今回連れて行くやつらだな」


 村の入り口付近には10人の冒険者が集まっており、俺たちはその集団のもとへと近づいて行く。


「うわ。まじか…」


「どうしたの?」


「いや。なんでもない」


 近づいたことで集まっている冒険者たちの顔が見えると、俺はそこに1人の青年の姿を見つけたことで、この依頼を受けたことを心底後悔した。


(なんで主人公がいるんだよ)


 そこにいたのは紛れもなく歓迎会の時に会ったシュードであり、この世界の主人公でもあった。


(これは、面倒ごとになりそうな予感だな。はぁ、もう帰りたい)


 彼がいるということは、これから面倒ごとに巻き込まれるということになるが、依頼を受けてしまった以上、今から断ることもできない。


 仕方ないと諦めた俺は、重くなった足を頑張って動かし、帰りたい気持ちを我慢しながら彼らのもとへと向かうのであった。






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