第161話 SSランク

 戦闘試験が終わった後、俺たちはギルドマスターによる面接が始まるまでの間、談話室へと戻って話をしていた。


「にしても、フィエラの嬢ちゃんも強いな。ライとあんなにいい勝負するとは、俺も戦いたくなったよ」


「ん。私もオルガに興味がある。とくに、あの闘気と武器。今度手合わせして」


「はっは!こんな美少女に興味を持たれるとは、男冥利に尽きるな。いいぜ。クランに入ったらいつでも相手をしてやる。とは言っても、俺も依頼とか仕事で忙しいからな。長時間は無理だがな」


「構わない。あなたと戦えるのならそれでいい」


「そうか!」


 2人はその後、気が合ったのか戦い方やお互いの武器について話し始め、フィエラはお気に入りのガントレットを自慢していた。


「あちらは楽しそうですね」


「そうですね。フィエラも近接戦がメインですから、話が合うのでしょう」


 俺がそんなフィエラを眺めながらお茶を飲んでいると、もうローブを被っていないライが話しかけてきた。


「確かに、あの2人は似ているかもしれません。あ、それとエイルさん。オルガに勝利したこと、おめでとうございます」


「ありがとうございます。ライさんに良いものを見せてもらったおかげですね」


「あはは。あの時は驚きましたよ。まさか、私の夢闘術を一度見ただけで模倣してしまうとは」


 ライはそう言って少しだけ目を細めると、何かを探るように俺のことを見てくる。


「安心してください。俺は一度もあなたに会ったことはありませんよ。ただ…」


「ただ?」


「俺が天才だったってだけです」


 オルガの話では、ライはクラン内で諜報の仕事を担っているらしく、恐らくだが俺がどこからかライの情報を手に入れたのではないかと思い探りを入れてきたようだ。


 しかし、もちろん俺が彼のことを知ったのは今日が初めてであり、前世でも夢闘術なんて技は見たことがなかった。


「……ぷっ。あっははは!」


 ライは俺の答えがよほど面白かったのか、目元に涙を浮かべてしばらくの間笑うと、乱れた呼吸を整えながら申し訳なさそうに謝る。


「突然すみません。ですが、あまりにも面白い答えでしたので」


「そうですか?」


「えぇ。これまで実力もないのに自分を天才だ最強だと宣う愚か者は何人も見てきましたが、あなたのように本当に才能があって自身を天才だという人は初めて見ました」


「では俺からの提案ですが、そんな天才と戦ってみませんか?」


「私がですか?」


「はい。あなたの夢闘術と戦ってみたいんです。あんなに素晴らしい技は初めて見ましたから」


「エイルさんにそう言ってもらえると光栄ですね。私でよろしければ是非」


「ありがとうございます」


 それからしばらくの間、俺たちはルーシェが準備ができたと呼びに来るまで、途中から合流したアイリスたちも交えてクランに入った後の話などをしながら時間を潰すのであった。





 ルーシェの案内でギルドマスターがいる部屋へと案内された俺たちは、部屋に入る前に扉の前で止められた。


「ここからは1人ずつ部屋の中に入り面接をしてもらいます。待ってる間は、近くにある椅子に座ってお待ちください。終わりましたら先ほどの部屋に戻っていただいた構いません。では、エイルさんからどうぞ」


「わかりました」


 俺は扉をノックしてから部屋へと入ると、そこには薄緑の髪に長い耳をしたエルフの優しそうな男性が立っており、俺が入ってきたのを確認すると優しく微笑む。


「いらっしゃい。君がエイルくんだね」


「はじめまして」


「うん。僕はここのギルドマスターを任されているシャーラーだよ。よろしくね」


 シャーラーはとても優しそうな雰囲気をしているが、彼からは恐ろしいほどに何も感じられず、それだけでかなりの強者であることが分かる。


「はは。そんなに警戒しないでくれ、何もしないから。いや、これから面接をするんだし、何もというわけではないね。まぁ、とりあえず座ってよ」


「わかりました」


 俺が彼のことを観察していたことがバレていたのか、シャーラーは笑いながらそう言うと、俺が座ったのを確認してから自身も椅子へと座る。


「それじゃあ面接を、と言いたいところなんだけど、実はそんなに聞くこと無いんだよね」


「そうなんですか?」


「うん。だって、君のことはヴォイドから手紙で聞かされているからさ」


「え、ヴォイドさんからですか?」


 意外な人物の名前が出たことで俺は少し驚いてしまったが、シャーラーはそんな反応を見て楽しそうに笑った。


「そう。ヴァレンタイン公爵領にある冒険者ギルドでギルマスをしているヴォイドだよ」


「…もしかして、元パーティーメンバーなんですか?」


「お!察しがいいね。その通り。僕とヴォイドは昔パーティーを組んでいたんだ。まぁ、みんな年齢で前ほど動けなくなったから解散しちゃったんだけど」


 シャーラーはそう言うと、少しだけ寂しそうな表情で笑った。


「ほんと、いくつになっても慣れないものだね。自分以外の仲間だけが歳を取っていくのは」


 エルフという種族は他の種族よりも長命なため、長生きした分だけ多くの出会いと別れを経験する。


 だからほとんどのエルフは神樹国から出ることなく過ごし、同じ時間を生きていける同族とだけ生活をしていくのだ。


「ごめんね、急に暗い話しちゃって」


「いえ。大切な人との別れが辛いという気持ちは理解できますよ。だから気にしないでください」


「なんだが、君の言葉には重みがあるね。僕よりも全然生きていないはずなのに、不思議だよ」


「人生は生きた時間じゃなく、どんな出会いをしてどんな経験をしたかだと思いますよ」


「はは。その通りだね。さて、それじゃ面接をしようか」


 それからは、シャーラーからいくつか質問をされて答えるだけの簡単な面接が行われ、15分ほどで面接は終わった。


「うん。少し考え方は変わってるけど、人柄も問題なさそうだね。実力も申し分ないし、このまま上に話を通しておくよ」


「よろしくお願いします」


「結果については3日後に出るから、都合の良い時にギルドに来てくれ。担当のシーラに伝えておくからさ」


「わかりました」


「それじゃ、面接はこれで終わりだ」


「ありがとうございました」


「あ、待ってくれ」


 俺は椅子から立ち上がって部屋から出ようとするが、扉に手をかけたところで後ろからシャーラーに声をかけられる。


「君、エルフの国も助けてくれたんだろう?」


「ヒュドラの件ですか?」


「そうそう。僕もあそこの出身でさ。友人から話を聞いたんだ。その件についても感謝したくてね。故郷を救ってくれて本当にありがとう」


「気にしないでください。俺はただヒュドラと戦いたかっただけですから」


「ははは。ほんと、戦うことが好きだね」


「はい。まぁでも、あなたがいれば、俺がいなくてもエルフの国は助かったでしょうね」


「…そう思うかい?」


 シャーラーはそう言うと、僅かに殺気を放って威圧をしてくるが、それだけでも彼の実力がどれほど高いのかが伝わってくる。


(少なくとも、セシルさん以上の実力者だな)


 シュヴィーナの母親であるセシルもかなりの実力者ではあったが、どうやらシャーラーはそれ以上の実力者のようだ。


「呼び止めてすまなかったね。話は終わりだ。次の子を呼んでくれるかい?」


「わかりました」


 俺はシャーラーに見送られて今度こそ部屋を出ると、椅子に座って待っていたフィエラに部屋に入るように伝え、俺は談話室の方へと戻った。


 そして、昇格試験が終わってから3日後。俺とフィエラは無事にSSランクへと昇格することができ、その日はシュヴィーナやアイリスたちにお祝いをされるのであった。






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