第158話 昇格試験の前に
オルガにクランへと誘われてからようやく二週間が経ち、俺たちは冒険者ギルドへと向かっていた。
「フィエラとシュヴィーナが来るのはわかっていたが、まさかアイリスたちまで来るとはな」
「申し訳ありません、ルイス様。ですが、私もクランに入れてもらいたいので、自分から挨拶に行くべきだと思いまして」
「私も冒険者ギルドというものに興味がありましたので、勉強のためにも一度行ってみたいと思っておりました。あなた様のお邪魔はいたしませんので、お許しください」
現在はフィエラたち2人に加え、ソニアとアイリス、そしてセフィリアとミリアの3人も加わっており、かなりの大人数だった。
「別についてくるのはいいんだが、これだと目立ちすぎるな」
女6人に男1人だからか、周りからの視線は凄まじいもので、中には殺気すら感じさせるものすらあった。
「これは少し面倒だな」
「大丈夫。自分たちに絡んできたら、自分たちで解決する」
「俺に絡んできたら?」
「私が守る」
フィエラは意気込んだように胸の前で拳を握ると、任せろと言わんばかりに頷いた。
「まぁ、俺は相手するのは面倒だしそれでいいや」
俺は絡んでくるやつらを相手にするのも面倒になってしまったので、フィエラが任せろと言うのならと彼女に任せることにした。
しかし、美女が集まれば逆に男たちは尻込みするものなのか、冒険者ギルドに着くまで話しかけてくるようなやつらはおらず、何事もなく冒険者ギルドへと辿り着くことができた。
そして扉を開けて中に入ると、すでにオルガとライが来ており、椅子に座って俺たちが来るのを待っていた。
「おぉ、エイル。ようやくきたか」
「オルガ、久しぶりだな」
「あぁ。二週間も待たせてしまって悪かったな。それより、今日は随分と人数が多いな。しかも女ばかり」
「その件だが、あとで話すよ。まずはこいつだけ紹介する。フィエラ」
「ん。フィエラ。エルとパーティーを組んでる」
「嬢ちゃんがエイルの仲間か。…なるほど、エイルが連れているだけのことはあるな」
オルガはフィエラを少し見ただけで彼女の実力が自分たちに近いものであると理解したのか、納得したように頷いた。
「俺は黒獅子の断罪のクランマスターをしているオルガだ。こっちは幹部の一人で、今回フィエラの嬢ちゃんの昇格試験を担当するライ」
「ライです。よろしくお願いします」
ライは未だ黒いローブを深く被っており、その顔を見ることは出来なかったが、フィエラは彼の何も感じさせない静かさに逆に興味を持ったようだ。
「あなたと戦えるの楽しみにしてた」
「光栄です。私もあなたの期待に応えられるよう頑張らせてもらいます」
「はは!ライが楽しそうにしているのは久しぶりに見たな」
俺にはライの雰囲気の違いが分からなかったが、同じクランにいるオルガには彼が楽しんでいるのが伝わったのか、オルガも楽しそうに笑った。
「それにしても、改めて見ると凄いな」
「なにがだ?」
「エイルの周りにいる嬢ちゃんたちだよ。皆んな美少女ばかりだし、お前そのうち後ろから刺されるんじゃ無いのか?それとも、もう刺されてたりしてな」
「ふっ。俺を刺せるようなやつがいるなら、是非とも会ってみたいな。まぁ、いればの話だが」
「はっはっは!そんなやつがそこら辺にいたら、街の至る所で殺傷事件が起きているだろうな!」
オルガの大きな笑い声がしばらくの間ギルド内に響いたあと、ライがそろそろ本題に移ろうとオルガに話しかける。
「あぁ、そうだったな。ここじゃなんだし、場所を変えよう。前と同じ部屋を借りているんだ」
「わかった」
俺たちはオルガたちに連れられて場所を移すと、前にオルガと話をした談話室に全員で入った。
「ちと狭いな。まさかそんな大人数で来るとは思ったなかったから、小さい部屋しか借りてなかったんだ」
「いや、気にするな。この人数で来た俺たちが悪いからな」
部屋には二人用のソファーが2つと、一人用の椅子が2つしかなく、ここにいる全員が座るのは無理そうだった。
なので、俺は指を一度鳴らして足りない椅子の代わりに水クッションを作り、適当な位置に配置した。
「座れなかったやつらは、それに座ってくれ」
「わかったわ」
シュヴィーナはそう言ってすぐに水クッションに座ると、彼女に続いてソニアとミリアも座った。
「私はエルの隣に座る」
フィエラは相変わらず俺の隣を誰にも譲る気がないのかすぐに隣に座ると、アイリスとセフィリアは一人用の椅子に座った。
「お前、魔法も使えるのか」
「まぁな。それより、本題に入ろう。まずは俺たちからだが、アイリス」
「はい。オルガ様、初めまして。私はエイルさんの友人で、同じ学園に通うアイリスと申します」
アイリスには、俺の婚約者だということをオルガたちに話さないように予め説明しており、今回は友人ということで話してもらうことにした。
「こりゃあ、ご丁寧にどうも。それで?アイリスの嬢ちゃんは何のようなんだ?」
「はい。先日、友人のソニアさんより、オルガ様のクランに誘われたとお話を伺いました。そこでお願いなのですが、私もどうかクランに入れてはいただけないでしょうか」
「ふむ。クランになぁ」
オルガは腕を組んでアイリスの実力を確かめるように目を細めると、瞳に少しだけ殺気を込める。
「っ…」
アイリスは突然の殺気に少しだけ驚いた様子を見せるが、すぐにオルガを睨み返すと、視線を外さずじっと見続ける。
「ふっ。いいだろう。アイリスの嬢ちゃんは冒険者登録してるのか?」
「はい。現在はCランクです」
「そうなのか?実力的にはAくらいありそうだがな」
「事情があり、あまりランク上げはしていなかったのです」
「そうか。まぁ、これから上げていけばいいだろう。嬢ちゃんのことも歓迎するよ」
「ありがとうございます。オルガ様」
「いいってことさ。それと、俺に様付けは不要だ。様付けで呼ばれるような大層な生き方はしていないからな」
「では、オルガさんと呼ばせていただきます」
「様付じゃなければ好きに呼んでくれ」
どうやらアイリスの実力はオルガを納得させるに足りたらしく、彼は満足そうにアイリスがクランに入ることを認めた。
「それで、エイル。改めて確認だが、この子たちの扱いはどうすればいい?」
「俺がパーティーを組んでいるのは、フィエラとそこにいるエルフのシュヴィーナだけだ。そこの修道服のやつはクランには入らないから、他は本人たちと相談して決めてくれ」
「あいよ。なら、パーティーはこの3人に2人ほど加える感じで組ませればいいか。それじゃあ、次はこっちの話だな」
俺たちの話が終わると、今度はオルガからの話で、彼はクランのリーダーらしい雰囲気に変わると、SSランクの昇格試験について説明を始めた。
「まず、SSランクの昇格試験だが、最初にライとフィエラの嬢ちゃん、その次に俺とエイルが行う。戦闘が終われば、その日のうちにギルマスとの面接をしてもらうが、話は俺の方から通してあるから安心してくれ。んで、その後はお偉いさんたちで話し合いがあるから、結果が出るのは3日後あたりになる」
「わかった」
「それと、事後報告ですまないが、今回の昇格試験はうちのクランのやつらが見に来ている。お前を幹部として迎えるって話したら、かなり反感が出ちまったな。すまないが、お前たちの実力を見せてやってくれ」
「それは想定内だから問題ないさ。寧ろ、入ってから絡まれるよりずっと楽だから助かった」
「はは。そうだな。今のお前の状況を見れば、間違いなく絡まれるだろうな」
「俺としては不本意なんだがな。それで?具体的なルールの方は?」
「ルールとは言っても、そこまで難しいものじゃない。試験官である俺たちと戦って、SSランクに相応しい実力があると認めさせればいい。
ただし、当然だが殺しは無しだ。あとは降参した相手をさらに攻撃するのも無しな。まぁそんな事をすれば、人格に問題ありとされて昇格なんて一生できなくなるけどな。
それ以外なら何でもありだ。怪我を負わせても、例え腕が切れても、優秀な回復魔法の使い手がいるからすぐに治るぞ」
(なるほどな)
オルガの説明を聞いた俺は、この試験で求められていることを大まかにではあるが理解した。
この試験で求められるのは、実力はもちろんのこと、戦闘状況の判断と人格、そしてどんな傷を負っても冷静な判断ができるのかといったところだろう。
SSランクにもなれば、受ける依頼は高ランクの物が多くなるだろうし、より死との距離も近くなる。
そんな中で生き残るには、戦況を理解する観察眼とどんな状況でも冷静な判断ができる胆力が必要となるだろう。
SSランクの冒険者は数が少なく貴重なため、ギルド側としても実力のある冒険者を簡単に死なせたくはない。
そういった点から、試験の時は殺し以外は基本的になんでもありということになっているのだろう。
「わかった」
「理解が早くて助かる。それじゃあ、俺たちは先に訓練場の方に行ってる。準備ができたら、いつでも来てくれ」
俺たちが試験の内容に同意したのを確認すると、オルガとライは席を立ち扉を開けて出て行く。
「アイリスたちは観戦席の方に行ってくれ。俺とフィエラはこのままオルガたちについて行く」
「わかりました。頑張ってください」
「あぁ」
アイリスたちも俺とフィエラに頑張るよう言葉をかけて出て行くと、部屋には俺とフィエラだけが残った。
「さて、フィエラ。これから俺たちは楽しい楽しい戦いに行くわけだが、意気込みは?」
「勝つ」
「あはは!そりゃあいいな!やっぱ、勝負は勝つつもりでいかないとな。俺も、殺さない程度に勝ちにいくか」
人を殺すことは簡単だ。首を刎ねたり心臓を貫いたり、魔法で消し炭にすればそれで終わりなのだから。
しかし、今回は違う。殺しは無しのただの勝負だ。
手を抜いて勝つなんてことは、よほどの実力差がない限りは無理だろう。
(勝ちにいくなら、何か犠牲を払う必要がありそうだ)
それが腕なのか足なのか、それとも目を失うことになるのかはまだ分からないが、失ったとしてもどうせ治せるのだから気にする必要はない。
「なら、今はこれからのことを全力で楽しむしかないよな」
俺はそう言うと、オルガと戦えることが嬉しすぎて、鼻歌交じりに訓練場の方へと向かうのであった。
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