第146話 関心
シュヴィーナとソニアの四回戦目が終了後、少しの休憩を挟んで五回戦目が始まる。
五回戦目は初戦で勝利したメルトと、シード枠で今回が初戦となるアイリスだ。
メルトは初戦でカマエルがすぐに降参したため疲労や魔力の消費も無く、アイリスも今回が初戦ということで素の実力以外の差は一切ない。
そして始まった五戦目は、まずはお互いに様子見で簡単な魔法から攻撃を仕掛けるが、魔力量ではメルトの方が圧倒的に劣るため、彼女の方から攻撃力の高い魔法で攻め始める。
しかし、それに対してアイリスは依然として簡単な魔法で攻撃を防いでいくと、最後は水の剣をメルトの前に突き刺し降参させた。
六戦目。この試合はライドとシュヴィーナの序列戦が行われるはずだったが、いざライドが舞台の上にあがると、対戦相手のシュヴィーナが舞台に上がることはなかった。
「シュヴィーナちゃん。次、君の番だよ?」
「あぁ。私は辞退します。さっきのソニアとの戦いで疲れてしまったので」
シュヴィーナはそう言ってわざとらしく肩を落とすと、ライムはそんな彼女を見て苦笑いしながらライドの不戦勝を告げた。
「くく。お前睨まれてるぞ」
「知らないわ。私は疲れたから休んだだけだもの」
不戦勝を告げられたライドは明らかに怒りを滲ませながらシュヴィーナを睨むが、彼女自身は本当に気にしていないのか肩をすくめるだけだった。
「それじゃあ次行くよー!七戦目はフィエラちゃんとアイリスちゃんね!2人とも舞台の上に上がってきてー!」
ライムが声をかけると、左からフィエラ、右からはアイリスが舞台の上へとあがる。
「よし!2人とも頑張ってね!始め!」
ライムは開始の合図と共に舞台の上から降りると、舞台には静かに見合うフィエラとアイリスだけが残った。
「フィエラさん。こうしてあなたとお手合わせできる機会ができて、私は嬉しく思います」
「ん。私もアイリスと戦えるの楽しみにしてた」
2人の言葉に嘘偽りは無く、お互いにルイスを思う者同士、そして旅に同行できた者とできなかった者、2人は互いに相手がどこまで強くなり差がついたのか、ずっと知りたいと思っていたのだ。
「実力でいえば、確実にフィエラさんの方が上でしょう。なので、最初から全力で行かせてもらいます」
「ん。かかってくるといい」
「では。『
まずはアイリスが水魔法の霧を使用すると、舞台を覆うように霧が発生し、フィエラとアイリスの姿を隠していく。
(魔力感知)
次に、アイリスはフィエラの位置を認識するため魔力感知を使用すると、霧でフィエラの位置が分からないにも関わらず、彼女の頭の中にはしっかりとフィエラの位置が描かれていた。
「『
それは入学試験の時に使用した魔法であり、詠唱をしていないため以前よりも本数は10本と少ないが、込めた魔力量は試験の時とは比較にならないほど多く、一本一本の威力もかなり上昇していた。
「はぁ。いけ!」
アイリスが上げた腕を勢いよく下すと、10本の剣は狙い通りにフィエラのもとへと放たれる。
「いい技。でも…」
霧の効果で視界が悪い中、フィエラは迫り来る剣たちを研ぎ澄まされた感覚だけで避け、踊るように攻撃しくる剣を拳打と蹴りで消し去っていく。
「私には通じない」
蹴りから放たれた風が霧を吹き飛ばすと、無傷で立っているフィエラと、少し肩で息をしているアイリスの姿が現れる。
「さすがですね。全くの無傷とは」
「狙いは悪くなかった。けど、相手が悪い。獣人は人族よりも五感に優れてる。視界を奪う程度では意味がない」
「なるほど。魔法の先生とは何度かお手合わせをしたことがありますが、別の種族の方とお手合わせをしたことはありませんでした。種族特性を失念していました」
アイリスはそう言いながら荒くなった息を整えると、大きく深呼吸してからフィエラのことを見る。
「フィエラさん。お願いがあります」
「なに?」
「私は、次の魔法に全てを込めます。なので、恥を忍んだ言います。どうか、魔法が完成するまで待っていて貰えませんか」
アイリスの願いは戦う者にとって恥以外の何物でもない願いであり、実戦ではあり得ない願いでもあった。
「わかった」
しかし、これが命を懸けた実戦でないことをフィエラも分かっており、何よりアイリスが全力を出すと言うのだから、ライバルとしてそれを受けないのは彼女にとっても恥であった。
「感謝いたします。では…それは、水を司る属性竜なり。幾千の時を生き、水と共に生きる竜の王なり。踊れ、舞え。我は偉大なる竜の力の一端を欲する者」
「あれは、まさか…」
アイリスが魔法の詠唱を始めると、離れたところでシュヴィーナたちと2人の戦闘を見ていたルイスは、ここに来て少しだけ驚いた表情を見せる。
「くく。面白い。あの魔法が使えるようになったのか?」
ルイスはアイリスが発動しようとしている魔法が何なのか理解すると、楽しさから思わず笑みが溢れる。
「水は全て飲み込み、水は全てを流し去る。さぁ、今ここに、全てを破壊する暴水となりて、その姿を表せ!『
アイリスが詠唱を終えた瞬間、彼女の魔力が大きな水流となり、それは朧げながらに竜の形を作り出す。
「ふふ。魔力量も魔力制御も足りてないから形はまだ朧げだが、間違いなくあれはレヴィアタンだ。いいなぁ。俺も戦ってみたかった」
レヴィアタン。それは、水を司る水属性の竜王であり、幻想種に次ぐ強さを誇るSSSランクの魔物でもある。
そして、このレヴィアタンを参考に作られた海の竜王という魔法は非常に難易度の高い魔法であり、宮廷魔法師でも上位の強さを持つ者たちしか使えない。
そんな高難度の魔法を朧げながらにも使用してみせたアイリスに、これまで無関心だったルイスが初めて興味を持った。
「さて。フィエラはあれをどうするのか」
ルイスはアイリスの渾身の魔法をフィエラがどう対処するのか楽しみで、彼女の動きを目に焼き付けるようにじっと見つめる。
(すごい)
そんな中、フィエラは目の前に現れた巨大な水の竜を前に、興奮から鳥肌が立ち、楽しさから思わず笑ってしまう。
「アイリス、最高。私もアイリスの全力に応えないと」
フィエラはそう言って腕だけを部分獣化させると、いつでも放って良いとアイリスに目で合図する。
「はぁ、はぁ。いけ!!!!」
アイリスは魔力の急激な消費から朦朧とする意識の中、気を失わないよう珍しく大きな声を出すと、海の竜王が気持ちに応えるように大きな口を開けてフィエラへと迫る。
「『狼王の咆哮』」
フィエラはそれに対し、静かに腰を落として拳を構えると、闘気を纏わせた正拳突きを放つ。
それは音を置き去りにし、後から響く音はまるで狼の咆哮のようで、拳打から放たれた衝撃波が正面からアイリスの魔法と衝突した。
その余波は離れたところで2人の戦いを見ていたルイスたちのもとまで伝わり、周りの生徒たちは吹き飛ばされないように踏ん張るので精一杯だった。
2人の大技がぶつかったことで生じた水の霧が晴れると、そこには制服が少し破けているフィエラと、魔力切れで立つ力もないのか座り込んでいるアイリスの姿があった。
「はぁ、はぁ……ふふ。完敗ですね」
「最後、良い技だった」
「ありがとう…ございます。おかげで、フィエラさんとの差を知ることができました」
「ん。私も楽しかった……エル」
フィエラはしばらくアイリスと会話をした後、観客席で楽しそうにこちらを見ていたルイスに声をかける。
「はぁ。仕方ないな」
ルイスはそれだけでフィエラが何を言いたいのか理解すると、その場から舞台の上へと一瞬で移動し、座ったままのアイリスへと近づいていく。
「ルイス様?」
アイリスはルイスが突然目の前に現れたことで困惑するが、今は立つ力もないためどうすることもできない。
「そのまま動くなよ」
「え?…きゃっ」
ルイスは一言だけそう言うと、一度しゃがんでからアイリスの背中と膝裏に腕を回し、そのまま抱え上げた。
「ル、ルルル、ルイス様?!」
「黙ってろ。耳元で騒がれるとうるさい」
「す、すみません…」
突然抱き上げられたことに驚き、そして好きな人にそんな事をされて胸が高鳴っていたアイリスだったが、ルイスの煩わしそうな反応ですぐに落ち込んでしまった。
「最後…」
「最後?」
「最後の魔法はよかった」
「あ、ありがとうございます」
アイリスはまさか褒められるとは思っておらず、その一言だけで一度落ち込んだ気持ちもすぐに晴れて顔が熱を持つ。
(すごく嬉しいです)
初めて自分が評価され、頑張って覚えた魔法もルイスに褒められて嬉しかったアイリスは、落ちないようにまわしていた腕に少しだけ力を入れると、噛み締めるように今の幸福な時間を楽しんだ。
その後、ルイスはアイリスを抱えたまま医務室へと向かい、あとのことは先生に任せて訓練場へと戻るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
申し訳ありません。
本当は今日のお話でライドくんまで持っていくつもりでしたが、アイリスとフィエラの戦闘を書くのが楽しすぎて、文字数が多くなってしまいました。
次話でライドくんとフィエラの戦闘をやります。
ライドくんについては、私なりの最高のざまぁを用意しているので、楽しみにしていただけると嬉しいです!
なので、もしよければ次話もよろしくお願いします!!
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