第137話 試験終了

 訓練場から場所を移して学園内に戻ると、俺たちは近くにいた教師の指示に従い最初に筆記試験を行った教室へと入る。


「ルイス様」


「アイリスとセフィリアか。何のよう?」


 俺が教室の隅にある椅子に座って窓の外を眺めながら、外の天気の良さから今日は昼寝日和だと思っていると、何故か知り合いでもないアイリスとセフィリアが2人揃って俺のもとへとやってくる。


「突然すみません。こちら、座ってもよろしいですか?」


「あぁ、構わない」


 セフィリアが前の席に座って良いか尋ねてきたので、俺が許可を出すと2人は仲良く並んで座った。


「2人って知り合いだったのか?」


「え?いえ、私は聖女様のことを知りません。今ここで初めて会いました」


「私も、今回は初めてですね」


「なら、何で2人で来たんだ?」


「私はルイス様にお話がありこちらに来たんですが、どうやら聖女様も同じだったようで、たまたまここで出会ったんです」


 どうやら2人は本当に偶然出会ったらしく、セフィリアもアイリスの話に同意するように頷く。


「そうか。んで、俺に何のよう?」


「はい。先ほどの試験についてですが、ルイス様は手を抜いていたようだったので、何故なのか気になったのです」


「私は試験についてお尋ねしようと思ったのですが、お話を聞く限り、どうやら全力は出されなかったようですね」


 2人の要件はどうやら俺の試験についてだったようで、どうしてなのかと尋ねるように俺の方を見てくる。


「特に全力を出す理由が無いからな」


「理由ですか?」


「そう。俺は別にこの学園で主席になりたいわけじゃ無いし、頑張りたい訳でもない。ただSクラスで入学して、あとは自由に生活できればそれで良いんだ」


「あなた様には、他に目的があるということですか?」


「あぁ。この学園に来たのも、仕方がなかったのもあるが、会いたいやつが1人いたからってだけだ。それ以外にこの学園に求めていることは何も無い。だからアイリスが俺より目立ってくれたのは助かったよ」


「い、いえ。私は全力で頑張っただけなので…。ただ、ルイス様のお力になれたのならよかったです」


 アイリスが隠れ蓑になってくれたおかげで、俺は特に目立つこともなく試験を終えることができた。


 筆記も特に問題はなかったし、魔法試験もあの記録ならまず間違いなくSクラスに入ることが出来る記録だ。


「ですがルイス様。今回の魔法試験では少し遊びすぎたのでは?」


「どういうことですか?」


 アイリスは俺がゾロ目で記録を出して遊んでいたことに気が付いているようで、そのせいで教師の誰かに目をつけられるのではと心配しているようだった。


「あれでいいんだよ」


「どうしてですか?」


「んー、秘密かな。それより、そろそろ面接が始まるみたいだ。この話はこれで終わりにしよう」


 俺はそう言ってこの話を終わらせると、彼女たちも俺がこれ以上話す気はないと悟ったのか、それ以上尋ねてくることはなかった。


(さて。あの人はこれで俺に興味を持ってくれるかな)


 俺が本当に会いたいのはあいつただ1人だが、あの人に興味を持ってもらうことで会うことができれば、今後はより自由に学園で動くことができるようになる。


 その後、40分ほど待ったところで俺の面接が行われる番となり教室から出ると、指示された部屋へと向かうのであった。





 面接は大体15分ほどで終わり、いつもと同じ面接官にいつもと同じ質問をされるだけのつまらないものだった。


 この学園を志望した理由、入学したら何をしたいか、何を専門的に学びたいかなどを聞かれたあと、人柄を知るため好きなものやこれまでの経験についても聞かれたりした。


(はぁ、つまらん。実技試験は少し遊べたからよかったけど、面接でふざけるわけにもいかないからな)


 面接だけはいつも同じことの繰り返しであるため、何度も経験している俺としては本当に退屈でしかない。


 しかし、これで全ての試験が終了となり、最後に試験終了後の説明があるだけなので、ようやく屋敷に帰って休むことができるのだと思うと少しだけ足取りが軽くなる。


 教室に戻ってきてからしばらく経つと、ようやく全員の面接が終わり、筆記試験の時に担当してくれた教師が教室へと入ってくる。


「皆さん、お疲れ様でした。以上で全ての試験が終了となります。試験の結果については二週間後に学園の広場にて3日間掲示いたしますので、確認をしにきてください。では、お気をつけてお帰りください」


 教師がそう言って教室から出ていくと、周りにいた他の受験者たちも帰り支度を済ませて教室から出ていく。


「エル。帰ろう」


 俺も持ってきた物をカバンにしまって席を立った時、ちょうど他の教室で試験を終えたフィエラたちが声をかけてくる。


「だな。早く帰って休みたい」


「ん。今日は尻尾を枕にして寝てもいい」


「それは楽しみだな」


 疲れた時にはフィエラの尻尾が何よりも癒しの効果があるため、あれをもふもふしながら寝れる今世には多少なりとも感謝している。


「ルイス様。お帰りになられるのですか?」


「あぁ。もうここでやることもないし、この後の予定もないから帰るよ」


「そうなんですね」


 フィエラと話をしていると、同じく帰り支度を済ませたアイリスがそんな事を尋ねてくるが、彼女の近くにはセフィリアの姿もあった。


「そういえば、セフィリアとソニアはどこに泊まってるんだ」


「あたしは近くの宿を借りているわ。こっちには知り合いもいないし、お金ならあるから特に困ってはいないわ」


「私は帝都にある教会でお世話になっております。一応は聖女なので、お願いをすれば泊めてもらえるんです。もちろん、泊めていただいている間はお祈りと慈善活動を行わせていただいております」


「ふーん」


「というかルイス。あなた聖女様と知り合いだったの?」


 ソニアはこの場にセフィリアが自然と紛れていることにようやく気付いたのか、どういうことかと尋ねるように目を細めて俺の方を見てくる。


「あぁ。少し色々あってな」


「色々ってなによ」


「面倒だから細かいことはフィエラたちに聞け。それより、俺はもう疲れたから帰る。またな」


 俺はそれだけを言うと、アイリスたちに背を向けて教室を出ていく。


 その後、馬車の近くで休憩していたミリアと合流すると、ソニアと別れてついてきたフィエラたちと一緒に馬車に乗り、屋敷へと帰るのであった。





〜side学園長〜


 ルイスたちの試験が終わり受験者全員が帰った後、教師たちはさっそく緊急会議を開き試験についての話し合いを行う。


「今年の受験者は優秀な子が多いですね」


 そう語るのはルイスたちの筆記試験を担当した試験官で、軽く採点をしただけでも点数の高い生徒が例年よりも多くいた。


「本当ですな。私が担当した武術の試験でも、秀でた才能を持った子たちが多くいましたぞ」


「魔法の方も同じです。昨年までと比べると、今年の受験者たちは明らかにレベルが高いですね」


 同意するように実技試験について話すのは、武術を担当した男性と魔法の試験を担当したセマリで、2人はそれぞれ記録した用紙を眺めながら少しだけ楽しそうにしていた。


「特に印象に残っているのはアイリス・ペステローズ、ソニア・スカーレット、シュヴィーナというエルフの少女の3人ですね。彼女たちの魔法技術と魔力量は彼女たちの代で最も高いといえます。当時同じ試験を受けた皇女様よりも高いので、彼女たちはしっかりと育てていきたいですね」


「私が印象に残ったのはフィエラ・キリシュベインと平民の少年、それとホルスティン公爵家の子息くらいか。特にフィエラ・キリシュベインは凄まじかったな。平民の青年も良い太刀筋をしていたし、実践経験もあるようだから実に楽しみだ。ホルスティン公爵家の子息はさすがと言ったところだ。危うく負けてしまうところだったぞ」


「ふむ。私の方もほぼ同じ子たちに注目しています。平民の青年は勉学の方はギリギリといったところですが、他の子たちは筆記の方も問題ありません」


「あとはやはり聖女様ですね。あの方の治癒能力は、私よりも遥かに上です。ただ、まだ魔力の扱い方にムラがありましたので、そこら辺が今後の課題になるかと」


 試験官たちはそれぞれ担当した試験でのフィエラたちについて意見を口にしていくが、そんな中、会議室の奥で一枚の資料をじっと見つめている女性がいた。


「学園長。学園長は気になる受験者はいましたか?」


「そうだねぇ」


 セマリが声をかけたのは、先ほどまで一枚の資料を見ていた女性で、彼女は黒く艶やかな髪をかき上げ、夜空のように美しい藍色の瞳を細めながら妖艶にニヤリと笑う。


「私は、この子が気になるよ」


「この子ですか?」


 学園長がそう言ってテーブルに置いた受験者の資料を見たセマリたちは、何故といった様子で彼女のことを見る。


 その資料に書かれていたのは、筆記試験の点数が88点、魔法試験の威力測定が1111と魔力量が2222という数字が書かれた1人の青年だった。


「学園長。確かにこの子も魔力量や魔法の威力は優秀な方ですが、それでも先ほどの3人に比べると少し見劣りしてしまうかと」


「そうですね。筆記試験の点数も他よりは高い方ですが、やはりセリマたちが言っていた彼女たちに比べると、失礼ながら良い方とは言えません」


 セリマたちは本当に何故学園長がこの受験者に興味を持ったのか分からず、少し困惑した様子で言葉を返す。


「確かに、一見この子の成績はあなたたちが言った子たちよりも劣って見える。けど、点数や記録の数字が興味深くてね」


「点数と記録ですか?確かにこうして数字が揃うことは珍しいですが、何も全くないと言うわけではないでしょう。それとも学園長は、まだ学園にも通っていない子供が意図的に数字を調整したとおっしゃるのですか?」


「さぁね。だからこそ、私はこの子が面白いと思ったんだよ」


 セリマたちは最後まで納得した様子は無かったが、学園長がそれ以上何も言う気がないということを察すると、彼女たちは他に気になる受験者はいないかと話し合っていく。


(ふふ。こんなに面白い子は初めてだね。君に会うのが楽しみだよ)


 学園長は窓の外に広がるオレンジ色に染まる空を眺めながら、手元にある資料に書かれた青年に会える日を心待ちにし、ニヤリと笑うのであった。






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