第136話 お遊び

 俺が魔法の試験が行われる舞台の方へとやってくると、その場にはすでに120人ほどの受験者たちが集まっていた。


 また、舞台の上には最初に入ってきた魔法使いの女性以外にも5人の魔法使いの教師たちがおり、まるで俺らを観察するようにじっと見てくる。


 そして、魔法使いの女性は全員が各試験場所に分かれたのを確認すると、一度この場に集まった者たち全員を見渡し、試験についての説明を始める。


「皆さん初めまして。私は魔法の試験を担当するセマリと申します。では早速ですが、魔法の試験について説明させていただきます。


 魔法の試験で行うことは2つ。1つ目は魔法の威力の試験。2つ目は魔力量の試験。どちらも特殊な魔道具を使い、魔法の威力および魔力量を数値として記録させていただき、威力測定が終了後、魔力測定を受ける流れになります。


 なお、この記録は入学後のクラス分けの際の参考にさせてもらいますので、全力を出すように頑張ってください」


 魔法の試験では、セマリが説明したように魔法の威力と魔力量が試される。


 その時に使われる魔道具はシュゼット帝国学園が独自に作り上げたもので、なんでも学園の敷地内にあるダンジョンの奥深くから取れる特別なアイテムを使っているそうだ。


 魔法学園でも、的を壊すことで魔法の威力と魔法を使用する時の魔力の操作能力を見られるが、ここではより正確な威力が数値として試されるのだ。


「では試験を始めます。試験は2組に分かれて3人ずつ行い、私ともう1人の試験官が威力測定、他の4人が魔力測定を担当します。


 また、試験を始める前には受験番号と名前を名乗るようにお願いします。それでは、一番前にいる君たちは私と共に来てください」


 セマリともう1人の試験官が一番前にいた男女を3人ずつ連れて行くと、彼らは威力を測るための魔道具から15mほど離れた位置へと立ち、名前と受験番号を順番に言っていく。


「魔法の属性は何でも構いません。では、自分のタイミングで魔法を放つように…始め」


 セルマが開始の合図をすると、3人は同時に魔法の詠唱を初め、彼らの手元には火の玉や石の礫、風の刃などが作られていく。


 3人は詠唱を終えて魔法を的へと放つが、魔法が当たった的は傷一つ付くことはなく、的の上に三桁の数字が現れるだけだった。


「受験番号568番、火球ファイア・ボールの威力158。

 受験番号162番、岩弾ロック・バレットの威力541。

 受験番号489番、風刃エア・カッターの威力350」


 セリマが読み上げた数字は彼らが放った魔法の威力で、魔道具が測定できる最大数値は5000までと言われている。


 この5000という最大数値は中級魔法と言われる炎爆フレイム・ボム風嵐ウィンド・ストームまでが測れる数値であり、それ以上の上級魔法を測ることはできない。


 ただし、それはあくまでも目安であり、例えば同じ火球でも込めた魔力量や魔力の精密さで威力が変わってくる。


 そのため、魔力がたくさん込められて緻密に作られた火球をあの魔道具に当てた場合、5000以上の威力が出て計測ができない場合もある。


 実はこの魔道具が作られたのは最近のことで、現状では一流の魔法使いたちには意味のない魔道具だが、こうして彼らのような魔法を本格的に学ぶ前の子供たちの実力を測るのには、丁度良い魔道具なのである。


「では、3人はそのまま横にある魔道具の方へと移動してください。そちらで魔力測定を行います。注意事項の説明などについては担当の試験官がしてくれますので、しっかりと説明を聞くように」


 3人はセルマの指示に従うと、舞台の隅の方に用意された魔道具の方へと向かっていく。


 それはもう一つの場所で試験を行っていた受験者たちも同じで、彼らも威力測定が終わったのか魔力測定の方へと歩いていた。


「では、次はそちらの3名。私の方に来てください」


その後、試験は滞りなく進んでいき、残り30人ほどとなった時、よく知る人物が試験を受ける番となった。


「受験番号682番。アイリス・ペステローズです」


 アイリスはソニアほどではないが魔法を得意としており、俺のように武術の心得があるわけではないため、彼女が魔法の試験を受けるのは当然だと言えた。


「始めてください」


「ふぅ…水よ。無数の剣となりて、我が敵を屠る刃となれ。踊れ…踊れ…我が刃は、敵を切り裂く剣舞なり」


 アイリスは一度深呼吸をして意識を集中させると、魔法を詠唱しながら魔力を綿密に練っていく。


(ふむ。前に見た時よりさらに魔力の練り方が上手くなってるな)


 俺はそんな彼女を眺めながら、以前ハーピーと戦っていた時のことを思い出し、あの時よりも彼女の魔力操作能力が段違いに良くなっていることに気がついた。


水剣・乱舞アクアソード・ダンス』」


 アイリスが魔法を発動すると、的の周りに20本ほどの水の剣が現れ、それらの一本一本が舞を踊るように不規則に動きながら的へと当たっていく。


(あの魔法なら、キングキメラにも傷をつけることくらいはできそうだ)


 アイリスの魔法がすべて的に当たり消滅すると、周りは彼女の並外れた魔法に静まり返り、試験官のセマリでさえ、アイリスの予想以上の魔法に少し驚いた様子を見せる。


「…受験番号682番、水剣・乱舞の威力3201」


 アイリスの記録は現在の最高記録であり、他の者たちが1000を超えるのが3人ほどしかいない中、彼女の実力は圧倒的だと言えた。


 ちなみにだが、記録は的に何発魔法を当てようとも最初の一発分しか判定されないため、彼女の記録は最初の剣一本分となるので不正とかは一切ない。


「お疲れ様でした。あなたたちは魔力測定に向かってください。では、次はそちらの3人、こちらに来てください」


 アイリスが魔力測定の方へと向かうと、次に呼ばれたのは俺を含めた男3人で、俺たちは順番に指定位置へと立って行く。


「では、左端の銀髪の君から受験番号と名前をお願いします」


「はい。受験番号305番、ルイス・ヴァレンタインです」


 俺が受験番号と名前を言うと、次は右隣にいた青年へと順番が移る。


「ありがとうございます。では、試験を始めてください」


 セマリの言葉を合図に、横にいた青年たちは魔法の詠唱を始めるが、俺はぴくりとも動くことなくじっと的を見ていた。


「どうしました?ルイス・ヴァレンタイン。何か問題でも?」


「いや、何でもないです」


 セマリは俺が動かないことが気になったのか、少し訝しむようにそう尋ねてくるが、俺は的から視線を外すことなく考え事をしながら言葉を返す。


「よし、遊ぼう。えっと、詠唱は…覚えてねぇや。何でもいいか。雷よ、飛んでいけ『雷撃サンダー』」


 普段から魔法の詠唱なんてしない俺は、当然詠唱を覚えているはずもなく、適当に言った言葉に合わせて魔法を発動すると、青白く輝く雷が空気を切り裂き、そのまま的へと当たる。


「受験番号305番、雷撃の威力1111」


 そうして表示された数字は俺の狙い通り1のゾロ目であり、成功したことで少しだけ達成感を得る。


 そして、幸いにもアイリスの記録のおかげで俺の数値が話題に出ることはなく、俺としては非常に満足のいく結果だった。


 威力測定が終わり移動すると、ちょうどアイリスたちが魔力測定を行っており、アイリスの魔力測定が終わるとまた周囲がざわめき出す。


「す、すごい。魔力量が4500を超えてるって」


「僕たちなんて、2000を超えるのでもやっとなのに」


 魔力測定とは体内にある魔力量では無く、魔力の許容量そのものを測るもので、魔道具に触れると体内へと魔力が流れ込み、その魔力が体の中にある魔力を調べることで大体の総魔力量が分かるのだ。


 魔力量の基準として、一流の魔法使いだと余裕で万を超えるが、子供のうちは成長途中ということもあり体が出来上がっておらず、多くて2500、平均的に見れば1800あたりが普通だと言える。


 そんな中、同い年の女の子が4500以上なんて数値を出せば、全員が注目してしまうのも仕方がないことだろう。


「次、どうぞ」


 そんなことを考えながら順番を待っていると、ようやく俺の順番となり、俺は水晶のように丸い玉の形をした魔道具へと触れる。


 ちなみに、魔力測定を行う魔道具と威力測定を行う魔道具の原理は一緒だが、作る際に刻まれるルーン文字が違う。


 ルーン文字とは別名魔法文字とも呼ばれており、魔導具士や錬金術師が魔道具やアイテムを作る際、魔道具に直接刻まれる特殊な文字のことである。


 俺が魔道具に触れると、手のひらから体の中に魔力が流れ込んできたので、俺はその魔力に自身の魔力で干渉し、測定結果に嘘の数値が出るよう細工する。


「受験番号305番、ルイス・ヴァレンタイン。魔力量2222」


 さっきは1のゾロ目にしたので今度は2のゾロ目にしてみたが、思い通りに成功したので少しだけ楽しむことができた。


 その後、すべての実技試験を終えた俺たちは、いよいよ最終試験である面接へと向かうのであった。






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