第116話 様子見
ついにヒュドラが復活し、身体強化を使ってヒュドラとの距離を一瞬で詰めたルイスたちは、まずは挨拶代わりにそれぞれ一撃を入れる。
ルイスはイグニードに魔力を流し込んで炎を纏わせ、フィエラは部分獣化したことで威力が上がった殴打を叩き込む。
しかし、予想通りヒュドラの鱗はルイスらの一撃を容易く防ぐほどに硬く、ヒュドラに傷一つ付けることができなかった。
「どうだったフィエラ」
「ん。やっぱり硬い」
「だな。こっちも傷一つ付かなかった」
「あと、殴った手が少し毒にやられた」
フィエラはそう言いながらルイスの方に手を見せると、確かに右手が少し毒に侵され紫色になっていた。
「なるほど。対策なしの接触はダメか。とりあえず治してやる」
ルイスはフィエラの右手に状態異常回復の魔法をかけると、彼女の手は元通りに治った。
「ありがと」
「ついでに継続系の回復魔法もかけておいてやる」
今後もフィエラが殴るたびに毒に侵されていては後々邪魔になるので、予めそうなる可能性を潰しておき、ルイスは自身にも同じ魔法をかけることを忘れない。
「さて、どうしたものか」
「あの硬さだと、今までと同じ攻撃は通用しない」
「だな。だが、鱗のない腹や目を狙えば、もしかしたら攻撃は通るかもしれない。まずはそこを狙っていこう」
「わかった」
ヒュドラは未だルイスたちのことを敵として認識していないのか、周囲の観察を続けながらまるで自分が王だと言わんばかりに動かなかった。
「敵として認識されないのは、やっぱりつまらんな」
前世ではいつも敵が多い人生ばかりだったルイスではあるが、そんな中でも彼を敵以前に認識すらしていなかった存在が何人かいた。
そのうちの1人が魔王であり、ルイスは封印から解き放たれた寝起きの魔王に寝ぼけながら殺されたのだ。
しかも、その後もルイスのことに最後まで気がつくことはなく、欠伸をしながら周りの状況だけを見ていたのだ。
「本当にあれは悔しかったな。まぁ、俺に力がなかったのも悪いが」
ルイスはそんな魔王とのことを考えながらヒュドラの腹に近づくと、闘気を纏わせたイグニードを全力で突き刺す。
「ギャァァア!!」
「よし。刺さったな」
予想通り、鱗で覆われている背面とは違い皮膚しかない腹には剣が突き刺さり、そこから夥しい量の黒い血が流れ出てくる。
「なら、このまま…やば」
このまま腹を裂いて一頭目を殺そうと剣を握っている手に力を入れた時、ヒュドラから溢れ出た血が地面に垂れ、その地面を溶かし始める。
「血も猛毒なのか。状態異常回復の魔法を使っているとはいえ、これはさすがに直接触るとやばいな」
「ギュアアア!!」
「ん?」
ルイスは冷静にヒュドラについて分析していくと、突然ヒュドラが悲鳴のような鳴き声を出し、首の一つが勢いよく地面に叩きつけられたのが視界に入る。
「フィエラか」
ルイスがヒュドラの腹を攻撃している間、フィエラは身体能力を活かしてヒュドラの下顎を殴ると、僅かに仰け反ったヒュドラの頭を地面に向かってさらに殴りつけたのだ。
「お、ようやく俺らを見たか」
腹はルイスに剣を突き刺され、頭の一つはフィエラによって地面に叩きつけられたせいか、ようやくヒュドラがルイスたちの存在を認識した。
「よう。やっと俺らを見たな」
「ガアァァア!!!」
ヒュドラは足元にあるルイスを足で踏みつけようとしたり、高速で移動するフィエラに複数の頭で噛みつこうとするが、体が大きい分、動きが遅いヒュドラでは彼らの動きを捉えることができず、ルイスたちに攻撃をすることができなかった。
「あはは。でかいだけの木偶の坊が」
ルイスはヒュドラの攻撃を避けながらも、鱗の無い腹や関節を狙ってイグニードで切り、フィエラも隙をついてはヒュドラの頭たちにカウンターを入れて行く。
「グルァァァァアア!!」
ヒュドラは自身の攻撃が当たらないことに苛立っているのか、それとも攻撃されていることにプライドが傷ついたのか、攻撃がさらに単調になっていく。
その分、ルイスたちの攻撃が当たりやすいようになっていき、気がつけばヒュドラは黒い血を大量に流し、足元は毒で地面があちこち溶けていた。
「このままいけば倒せそう」
「いや、こんなに簡単に倒せるわけがないだろ」
ルイスの横に戻って来たフィエラはそんな事を言うが、ヒュドラがこんなに簡単に倒せるのならシュヴィーナの先祖たちがその時に倒しているはずなので、ルイスは改めてヒュドラを観察する。
「ガアァァア!」
すると、ヒュドラの真ん中にある頭が鳴き声をあげた瞬間、ヒュドラの体が僅かに光、先ほどまであったはずの傷が癒えていく。
「ヒヒヒ。ヒュドラには回復能力がありましてね。そう簡単には殺せませんよ」
これまでルイスたちの戦いを観戦していたウールはヒュドラの能力について説明すると、笑いながらルイスたちの様子を眺めていた。
「お前は俺たちと戦わないのか?」
「いえいえ、滅相もない。私は魔族ではありますが戦闘は苦手なのですよ。どちらかと言えば研究をする方が好きでしてね。このまま見ているだけで十分でございます」
「ふーん。まぁ、お前がそう言うならいいよ。混ざりたくなったら言ってくれ、いつでも相手してやるから」
「ヒヒ。何だか友人のように話しかけて来ますねぇ」
ルイスがあまりにも親しげに話しかけてくるため、魔族であるウールでさえもこの状況に若干困惑していた。
(こいつ、戦闘は苦手と言っているが、魔力はかなり多いな)
それに対してルイスも会話をしながらウールの魔力量を確認するが、現段階でシュヴィーナよりも多く、さすがは魔族といっただけの実力はあるようだ。
「まぁ、今はいいか。ヒュドラに集中するぞ、フィエラ」
「わかった」
真ん中の頭が回復役を担っているのであれば、まずはそいつから潰せば良いと判断したルイスたちは、ルイスが他の頭の気を引き、その間にフィエラが真ん中の頭を仕留める作戦で行く。
「さすがに全ては無理か。だが、フィエラの方に行く数が少なければそれでいい」
いくつかの首はフィエラの方に向かってしまったが、ほとんどがルイスの方に集まっているので、残りはフィエラに任せる。
ルイスは剣や魔法で6つの首を相手にしながら舞うように戦い続け、フィエラも真ん中の頭を守ろうとする2つの首を避けながら距離を詰めていく。
そして、真ん中の頭の近くへと辿り着いたフィエラは闘気を纏わせた手刀を横に一閃すると、ヒュドラの首は深く切り裂かれて血が溢れ出す。
「やった…え?」
回復役を潰したと確信したフィエラであったが、彼女が付けた傷が一瞬のうちに回復し、ヒュドラは何事もなかったかのようにフィエラへと反撃する。
「くっ!!」
驚きで少し油断してしまったフィエラは、ヒュドラの噛みつきを皮膚を掠らせながら避けると、すぐに距離をとって状況を確認する。
「どういうこと。確かに致命傷だったはず」
フィエラの言う通り、ヒュドラは間違いなく致命傷を負っており、あの傷を治すなど不可能に思われた。
「おそらく回復役なんていないんだろう。実際は体内にある膨大な魔力で傷を治しているだけで、真ん中はさっきみたいに油断した相手を殺すための囮ってところか」
「エル」
ルイスはフィエラの毒で侵された腕を治しながらさっきの攻防を見て分かったことをフィエラに伝えると、これからの作戦について彼女に説明する。
「まずはあの膨大な魔力をなんとかしないとダメだな。でないと、いつまで経っても倒せない。だから今回は持久戦で行くぞ」
「わかった」
「最初と同じようにやつに攻撃をして回復をさせつつ、最後は種族魔法を使わせる。種族魔法を使わせれば、魔力もかなり減らせるはずだ」
フィエラはルイスの作戦を聞いて立ち上がると、すぐにヒュドラへと向かって駆けて行く。
「俺もなるべく魔力は温存しておこう。このまま楽に終わる気がしないし、何より…もっと楽しみたい」
ルイスはニヤリと笑ってフィエラが向かった反対側に移動すると、自身が立てた作戦通り、ゆっくりとヒュドラに攻撃を仕掛けて行くのであった。
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