第77話 魔導国

 セフィリアの馬車を出てフィエラたちと合流した後、俺たちはサファリィの街を出て魔導国ファルメルを目指す。


 ファルメルまでは馬車だと2ヶ月ほどかかるが、俺たちが身体強化を使って走れば半分の1ヶ月で辿り着ける。


 サファリィを出たその日の夜。野営の準備を終えて夕食を食べていた俺たちだったが、シュヴィーナがずっと聞きたそうにしていたことを尋ねてくる。


「エイル。その…昼間の件なのだけれど、ルイスっていうの誰かしら?」


「ん?あぁ、俺のことだ。エイルは冒険者としての仮名で、ルイスが本当の名前だ」


「姿だけでなく名前まで違うのね。…ねぇ、やっぱり本当の姿を見せてくれないかしら。私、すごく知りたいの。それに仲間になったのだし、色々と隠されていると悲しいわ」


 シュヴィーナは座っていた姿勢を正してそう言うと、真剣な表情で俺の方を見てくる。


「まぁ別に減るもんじゃないしいいけどさ。そんな気になるもんかね」


 俺は何故そんなにも気になるのか不思議に思いながら、自身にかけていた変装魔法を解除する。


「……」


「何だよ」


「す、凄く綺麗だわ…」


「それは男に対して言う感想として間違っていると思うんだが?」


 昔は確かに可愛いとか女の子みたいだと言われていたが、今はもう背も伸びたし、体つきだってだいぶ変わって男らしくなったはずだ。


 それなのに、今になってそんな事を言われると、さすがの俺も少し胸にくるものがある。


「そ、そうなのだけれど。でもなんだか、月に照らされたあなたの銀髪と黄金の瞳が神秘的で、思わず…」


「やめてくれ。改めて詳細に感想を言われると複雑だ」


「ん。シュヴィは間違ってない。いつものエルもかっこよくて好きだけど、本当のエルも綺麗で好き」


 シュヴィーナに続いてフィエラまで余計な事を言うものだから、さすがに気まずくなってエイルの姿に戻ると、何故かシュヴィーナは少しだけ残念そうな顔をしていた。


「俺のことはもういい。それより、ファルメルについてからの予定についてだが、少し変更する」


「どのように変更するのかしら」


「もともとは一般の図書館に通って魔法を学びながら冒険者の活動をするつもりだったが、魔法学園に通うことにした」


「魔法学園?」


「あぁ。簡単に言えば魔法使いを育てるための学校だな。12歳を過ぎた子供たちを集めて一年間魔法の基礎を教える初等科と、基礎が身についた子供たちに本格的な魔法を教える高等科に分かれている場所だ。俺はそこにある図書館に用がある」


 俺の話を一通り聞いた後、フィエラは聞きたい事があるのか手を挙げて質問をしてくる。


「どれくらいいるつもり?」


「3ヶ月程度だ。必要な本を読んだら自主退学するつもりだ」


「わかった」


 それ以外に質問は特に無いようだったので、俺たちはこの話を終わらせてその日は眠りについた。





 それから約1ヶ月後。俺たちは日中はひたすら身体強化を使って走り続け、気分転換に魔法で空を飛んだりもしながらようやく魔導国ファルメルへとついた。


 俺は国に入る前に変装魔法を解除し、ルイスとしての姿で検問所に並ぶ。


「やっぱり綺麗ね」


「ん。好き」


「その話はもういい」


 魔法を解除した理由は、前にフィエラにも話をしたように、この国では中に入る時に通る門に魔法解除の魔法が付与されているため、エイルとして入ろうとした時に魔法が解除されてしまうのだ。


 それで門番に疑われるのも面倒なので、予め魔法を解除したというわけである。


「でも、これはこれで目立っているわね」


「仕方ない。エルの見た目が良すぎるから」


(…それはお前らもだと思うがな)


 確かに俺の姿を見ている女性たちも結構いるように感じるが、それは彼女たちも同じことで、2人をチラチラと見ている男どもがかなりの数いるように感じられた。


 俺たちはそんな視線を無視して列に並び、門番に冒険者カードを見せて中へと入る。


「わぁ!凄いところね!」


「確かにそうだな」


 建物は縦に長い不思議な形をした屋根などが多く、街を歩く人の中にはローブを着ている人たちが多くいた。


 そして、特に凄いのが街の中を走っている大きな細長い乗り物で、2本の線のようなものの上を走っていた。


「あれはなに?」


「多分あれは魔導列車だな。帝国でも帝都だけだかあれが最近で使われるようになったと聞いた」


 他にも、帝国では高いはずの時計が小さいサイズで手頃な価格で売られていたり、魔石を使った便利そうな道具がたくさん売られていた。


「まぁ観光はまた今度にして、とりあえず今日泊まる宿でも探すか」


「そうね」


「わかった」


 人で賑わう街の中を歩きながら、俺たちは街の様子を見て回るが、こちらをたまに見る人々の中に少し気になる視線が混ざっていることに気がつく。


(ふむ。フィエラのことを見てる奴らがいるな。やはり獣人だからか?)


 俺はどうしたものかと考えながらあたりを警戒していると、隣にいたフィエラがそっと手を握ってくる。


「大丈夫。気にしない」


「…そうか」


 彼女自身もその視線には気づいているのだろうが、当の本人がそう言うのであれば俺が何かをする必要は無いだろう。


 それに、あの程度の魔法使いにどうこう出来るほど彼女は弱く無いため、とりあえずは彼女に任せることにした。


 それからは何軒か宿屋を見て回り、獣人にも差別のない宿屋を見つけたのでそこに泊まることに決める。


「すみません。3人で二部屋お願いします」


「はいよ!少し待ってな!」


 受付にいた元気の良いおばさんはそう言うと、手際良く手続きを済ませて部屋の番号が書かれた札を俺たちに渡してくれる。


「それと、一つお聞きしたいんですが、魔法学園に入るにはどうしたらいいか教えてもらえますか?」


「ん?あんたら遠くから来たのかい?魔法学園に入るには、毎月行われる実技の簡単な試験に合格すれば入れるよ。試験は魔法を使って的を壊すことだから簡単だろう?

 ただ、この時期だと途中からの入学になるだろうから、最初は授業について行くのが大変だろうね」


「なるほど。では、その試験はいつですか?」


「今月の試験は明日だね」


「…それって、受けられますかね」


「あぁ。当日受付もやっているから、もちろん受けられるよ」


 おばさんから試験が受けられると聞いて少し安堵した俺は、女性にお礼を言って部屋に向かうと、それぞれの部屋に分かれる前に俺の部屋に3人で入る。


「明日の試験についてだが、俺は受けようと思う。お前たちはどうする?」


「もちろん受けるわ」


「私も受ける」


「シュヴィーナは大丈夫だと思うが、フィエラは属性魔法が使えないだろ。どうするんだ?」


「考えがあるから安心して」


 どうやらよほど自信があるのか、フィエラはやる気に満ちた表情で俺とシュヴィーナのことを見てくる。


「まぁ、お前がそう言うならいいけど」


 その後はいつ頃に宿を出るか、試験後は何をしようかなど話をした後、フィエラとシュヴィーナは自分たちの部屋へと戻り、その日は明日に備えて早めに眠るのであった。







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