第38話 雑魚狩り
キングトレントを倒してから一週間が経ったある日、俺とフィエラはアドニーア辺境伯領の近くにある村へと来ていた。
そこまで大きくはない村だが、住民たちはお互いを助け合い、作物などを育てて自給自足が出来るくらいには住みやすい村だったと聞く。
数日前までは。
俺らがこの村に来たのは、この村の近くに盗賊が棲みつき、数日前にその盗賊たちが食料を奪って行ったためなんとかして欲しいという依頼を受けたからだ。
いつもなら盗賊の討伐依頼を受けたりはしないのだが、最近は魔物ばかりの相手をしていて飽きてしまったのと、たまに対人戦をやらないと感覚が鈍ってしまうからだ。
時間がある時にフィエラと組み手をしたりはしているが、そこに殺意は含まれていないためどうしても緊張感があと少し足りない。
なので今回は対人戦での感覚を鈍らせないために、殺しても問題ない盗賊討伐の依頼を受けることにしたのである。
「この度は依頼を受けてくださり、誠にありがとうございます。この村の村長をしております、ゾーダと申します」
「初めまして。Aランク冒険者のエイルです。こっちがパーティーメンバーのフィエラです」
「よろしく」
ゾーダさんは杖をついたご老人で、盗賊の件があって眠れていないのか目元には隈があり疲労感も感じられた。
「何もない村ですが、立ち話も何ですし儂の家へいきましょう」
少し歩いてゾーダさんの家に着くと、俺たちは椅子に座るよう促された。
「こちらお口に合うかは分かりませんが、よければ…」
「ありがとうございます」
俺たちはテーブルに置かれたお茶を一口飲むと、さっそく盗賊たちについて話を聞くことにした。
「それでですが、盗賊について詳細を教えていただけますか」
「はい。奴らは数日前、突然儂らの村へと現れると、食料を渡すように言ってきました。
儂らも最初は断ったのですが、若いものが見せしめに殺されかけまして、結局は備蓄のほとんどを持っていかれてしまいました」
アドニーア辺境伯領の周辺は、魔物が頻繁に出没するため商人などの出入りが少ない。
それに、商人が来ても他の領地より値段が高くなってしまい、村人たちではなかなか手が出せないのだ。
そのため、周辺の村は自分たちで作物を育てたり森の浅いところで動物を狩って生活をしており、冬は備蓄で乗り越えるのが当たり前となっている。
しかし、今回はその備蓄を盗賊たちに奪われた挙句、近くに棲みつかれてしまったため、今後のためにも何とかして欲しいというのが今回の依頼についてだった。
「現状は分かりました。では、その盗賊たちがどこにいるかは分かりますか?」
「はい。この村から少し歩いたところに森がありまして、その奥の方に廃坑があるのですが、奴らはどうやらそこに棲みついているようです」
その後も村長から分かる限りの情報を貰った俺たちは、さっそく盗賊たちを討伐するために森の中へと向かうことにした。
森に入った俺たちは、気配を消して森の中をしばらく走ると、村長が言っていたらしき廃坑へと辿り着く。
「見張がいるな」
木の裏へと隠れて廃坑の方に目をやると、廃坑の入り口に2人の男たちが立っていた。
「索敵魔法で廃坑内を探ってみる。フィエラは周囲の警戒を頼む」
「わかった」
俺は集中するために目を閉じると、索敵魔法を使用して廃坑内の情報を探っていく。
「中は少し複雑な作りになってるな。盗賊の数は30人ほどと多め。一番奥は少し広い作りになっててそこに2人だけ強そうな奴がいる。おそらくこいつらがボスだろう」
廃坑内を探って分かった結果をフィエラに話すと、次にどうやって攻めるか作戦を立てる。
「中はさっきも言った通り少し複雑で、ここ以外にも通路がいくつかあった。おそらくここで採掘していた時に掘られた道だと思う」
「なら、二手に分かれて道を塞ぐ?」
「いや、俺が全部塞いでくるから、フィエラはここで見張を頼む。もしかしたら離れている間に中から奴らが出て来る可能性があるからな。それで村にでも行かれたら意味がなくなる」
「わかった」
大まかに作戦を立てると、俺はフィエラのもとを離れて右回りで他の道がある場所を回っていくのであった。
「ここだな。『
最初の通路についた俺は、周囲に見張がいない事を確認すると、土魔法で壁を作って塞ぎ軽く手で叩いて硬さを確認する。
「とくに問題はないな。ただ、念の為トラップも作っておくか」
もしかしたら衝撃によって壁が壊れる可能性があるため、土魔法で落とし穴を作ったり上から落ちて来る檻を作ったりしていく。
その後も複数の通路を塞いで回ったが、見張がいたのは二箇所ほどで、他の所は人が来た痕跡すらなかった。
(やつらはこの道を見つけられなかったのか?)
盗賊たちがこの坑道をどこまで把握しているのかは分からないが、やはり念の為すべての道を塞ぐことにした。
そして作業を終えた俺は、急いでフィエラがいる場所へと戻る。
「フィエラ。何か変化はあったか?」
「ない。見張が眠そうに欠伸してたくらい」
「…そうか」
もしかしたらここにいる盗賊はあまり強くないのかもしれないと思ってしまったが、依頼を受けた以上は達成しなければならないため気持ちを切り替える。
「こっちも通路はすべて塞いできたし、行くとするか」
「ん。わかった」
「まずは見張からだな。眠いなら寝かせてやろう。『
闇魔法の睡眠で見張の男たちを眠らせた俺たちは、持ってきた縄でそいつらを縛ると、堂々と正面から中へと入っていく。
「道は俺が先導するから、フィエラは後方の注意を頼む」
「了解」
縦に並んで歩く俺たちは、罠や不意打ちに注意しながら進んでいくが、とくに罠とかはなく順調に進んでいくと、休憩室のような所に辿り着いた。
「フィエラ。部屋の中に5人いる。扉を開けたら一気に叩くぞ」
「わかった」
「『
風魔法で音が漏れないように幕を張ると、俺たちは扉を開けて中へと入る。
そして、二手に分かれると4人の男たちを一気に始末し、最後の一人がようやく俺たちに気づいて武器を構える。
「だ、誰だ!」
「お前たちの討伐依頼を受けた冒険者だ」
「冒険者だと?!…だが、見た所2人だけのようだな!敵襲だー!!…ふっ。これでお前らも終わりだ!ボスたちがきたらお前らに勝ち目はない!」
男は勝ち誇った顔で長々と一人で喋るが、いくら待っても仲間たちが来る様子は無かった。
「な、なぜだ。なぜ誰も来ない」
男がいくら待っても仲間が来ないこの状況に疑問を持ち始めたので、俺が答えを教えてやる。
「無駄だよ。この部屋は遮音の魔法によって外に音が漏れないようになっている。いくら叫んでも誰も来ないよ」
「そ、そんな…」
「んじゃ、お前も死んどけ」
俺は男との距離を一瞬で詰めると、剣で首を刎ねて終わらせた。
「うし。次に行こう」
「ん」
そうして盗賊たちがいる場所を同じ戦法で攻略していった俺たちは、ついに最奥の盗賊のボスたちがいる場所へと着いた。
「たのもー」
俺たちはもはや隠れたりすることはなく、元気に声を出して部屋へと入っていく。
「何だ貴様ら」
真ん中にいる体の大きい男が目を細めながら俺たちを見て来るので、ここに来てから恒例になりつつある自己紹介をする。
「お前らを倒しにきた冒険者だよ」
「冒険者だと?他の奴らはどうした」
「それならみんな死んだぞ。あとはお前らだけだな」
部屋の中にいるのはボスも含めて7人で、うち1人が魔法使いのようだ。
「ほう?少しはやるようだな。お前ら、遊んでやれ」
ボスの男がそういうと、周りにいた5人の男たちが一斉に襲いかかって来るが、俺とフィエラの相手になるはずもなく、あっさりとあの世へと行った。
「はぁ。使えない奴らだ。仕方ない、俺が相手をしてやろう」
男はそういうと、立て掛けてあった二本の剣を持って構える。
そして、後ろに控えていた魔法使いも杖を構えると、いつでも魔法を放てるように準備する。
「フィエラ。ボスは俺が貰っていいか?」
「ん。なら私は魔法使い」
フィエラはそう言うと、身体強化を使って魔法使いとの距離を一瞬で詰める。
しかし魔法使いもそこそこ戦えるようで、すぐに結界魔法で防御する。
「さて。俺らもやろうか」
俺は腰から剣をゆっくり引き抜くと、ボスの男に向かって構える。
「行くぞ。『身体強化』」
男は身体強化を使って俺の方へ突っ込んでくると、両手に持った双剣で攻め立てて来る。
(ふむ。スピードはそこそこあるがそれだけだな。多少戦えるようだけど、一撃が軽すぎる)
男の分析を終えると、俺は剣を両手で持って下から掬い上げるように思い切りぶつける。
「くっ?!」
衝撃に耐えられなかった男は後ろに少しのけ反ると、俺はその隙を見逃さずに一歩踏み込んで左手首を切り落とした。
「ぐわあぁぁぁあ!」
男は無くなった手首を押さえながら膝を突くと、息を荒くしながら俺の方を睨んでくる。
「俺の双剣撃が…通じないだと」
「確かにスピードはそこそこあったけど、それだけだからなぁ。双剣を使うならもっと筋力も鍛えないとダメだぞ?片手な分、簡単に押し切られるし」
冥土の土産にアドバイスをしてやると、男はちょうど良い高さにあった首を刎ねられて地面へと倒れた。
「エル。こっちも終わった」
「お疲れ」
フィエラが戻ってきた方を見ると、魔法使いの男も胸元に穴が空いて死んでいたので、俺たちは最後に盗賊たちの死体を外で焼いて村へと戻る。
その時、入り口を見張っていた2人の男たちを依頼達成の証人として連れていき、この日に受けた依頼は無事に達成することができたのであった。
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