第37話 楽しみが一つ
キングトレントの解体を終えてギルドに戻って来ると、俺たちはすぐに換金をお願いして呼ばれるのを待っていた。
「すみません」
「…あ、さっきの」
すると、正面からさっき森で会った四人組が俺とフィエラのもとへと寄ってきて声をかけてくる。
「先ほどはありがとうございました。よければこのあとお礼と言っては何ですが、食事を奢らせてもらえませんか?」
「そうですね。フィエラ、どうする?」
「ん。私は任せる」
「わかりました。なら、ご一緒させていただいてもいいですか?」
「えぇ!もちろんです!」
人と関わることを面倒だと感じる俺ではあるが、この街に来たばかりということもあり、少しでも情報を集めておきたいと思ったのだ。
そして報酬を貰った俺たちは、四人の行きつけだというお店に案内して貰い、各々席へとついて行く。
俺の隣にはフィエラとリーダーらしき男が座り、向かい側にパーティーメンバーの男一人と女二人が座る形だ。
注文は彼らのおすすめ料理に任せ、まずは飲み物を飲みながら軽く自己紹介をすることになった。
「それでは改めて、俺はこのパーティーのリーダー兼剣士をやっているリックです。よろしくお願いします」
「俺はタンクのフォール」
「私は魔法使いのソーニャよ。よろしくね」
「私はヒーラーのメイルです。よろしくお願いします」
リックは赤髪の男で、背はそこまで高くないが体つきは割としっかりしている。
フォールは短く切り揃えた茶髪が似合う奴で、タンク役をこなすだけあって筋肉質な体をしており、背も高いためタンクとしては最適だろう。
ソーニャは紫色の髪にとんがり帽子とローブという如何にもな格好をした魔法使いで、魔力はそこそこ高いようだ。
メイルはヒーラーだと言っていたが、腰にはメイスを装備していたのをみると、近接要員としても自衛としても戦えるようだ。
近接役が三人と少しバランスは悪い気もするが、メイルがあくまでも支援や自衛として戦う程度なら悪くないパーティーメンバーだろう。
「俺はエイルです」
「フィエラ」
「エイルさんとフィエラさんだね。よろしく」
俺たちも軽く自己紹介をしたところで、ちょうど店員が料理を運んできた。
俺たちは料理を食べながら話をしていると、お互いに打ち解けて敬語で話すことも無くなった。
「へぇ。四人は幼馴染でパーティーを組んでいるのか」
「あぁ。みんなこの近くの村で育ったんだ。それで、小さい頃から大きくなったら冒険者になろうって話してて、三年前に冒険者になったんだよ」
「そうなんだな。じゃあランクはどれくらいなんだ?」
「今はDランクだ」
三年前に冒険者になっていまだDランクなのかと不思議にも思ったが、どうやらこの街は低ランク向けの依頼がそもそも少ないらしく、ランクアップするのが他の街より時間がかかるらしい。
ただその分、早くから魔物と戦う機会が増えるので実践面では質の高い冒険者が多いとのことだ。
(なるほどな。地域によってそういう違いもあるのか)
「そーいえば、二人のランクっていくつなの?」
俺が新たに知らなかった知識を身につけられたことに満足していると、ソーニャが俺たちのランクについて尋ねてきた。
「俺たちはAランクだよ」
「うっそ!まじで?!」
ソーニャは俺たちのランクを聞いてよほど驚いたのか、テーブルを叩いて勢いよく立ち上がった。
「こらソーニャ、はしたないですよ」
「そうだぞ。落ち着けソーニャ」
「ご、ごめん」
ソーニャはメイルとフォールに嗜めなれると、少し落ち込んだ様子で席へと座った。
「けど、ソーニャが驚くのも分かるな。俺らより年下の二人がAランクって言われて俺も驚いたよ」
四人は現在18歳らしいので、俺らより5つほど年上ということになる。
「四人もこのまま続けていけばすぐにAになれるさ」
「ありがとう。俺らも頑張るよ」
リックは剣士として体格は悪くないし、フォールやソーニャ、それにメイルも各々適した役割についているためこのまま経験を積んでいけばAランクになることも可能だろう。
「ねぇ!エルは魔法が得意なの?」
俺が四人をそう評価して飲み物を飲んでいると、向かい側に座っていたソーニャが話しかけて来る。
「まぁ、それなりにかな」
「エルは近接も強い」
「へぇー!魔法もあんなに凄いのに、近接でも戦えるんだ!」
「まぁ、俺らは二人で組んでるからな。フィエラは見ての通り獣人だから魔法は使えないし、結果的に俺が色々やってるって感じだ」
実際、俺はオールラウンダーなので、基本的に接近戦はフィエラに任せ、俺が彼女のフォローやサポートに回ることの方が多い。
「ところで、二人ってどういう関係なの?」
俺の説明を聞いたソーニャは、今度はニマニマしながら俺たちの関係について尋ねて来る。
(こいつ、めっちゃグイグイくるな…)
俺が呆れながらそんな事を思っていると、隣に座っていたフィエラが俺のことをじっと見つめてくる。
「や、やっぱり二人ってそういう関係なの?!」
「ううん。付き合ってはいない。でも私がエルにアピール中」
「きゃー!!やっぱりそうなのね!フィエラちゃん!ちょっとこっちきて!フォール、あんたは邪魔だから向こう行ってて!」
ソーニャはそう言うと、肉料理を楽しんでいたフォールをお尻でどかし、フィエラを隣に来るように手招きする。
フィエラは俺の隣から離れると、ソーニャとメイルの間に座って女子だけの話し合いを始めた。
食事の邪魔をされた哀れなフォールは、肉料理が乗った皿を手に持ち俺の隣へと座る。
「すまん。エイル。ソーニャが無礼を」
「いや、別にいいよ。フォールも何だかんだで被害者だし」
「助かる」
その後、俺たち男性陣は街のことや戦い方、それと冒険者としての情報交換を行い、フィエラたち女性陣はフィエラの恋愛話しに花を咲かせるのであった。
四人と別れてから宿に戻ってきた俺は、リックから聞いた情報について考えていた。
「魔物が増えてる…か」
確かにこの時期、どこかの街で
俺は特に興味がない話だったので聞き流していたが、どうやらそれがこの街だったようだ。
魔物暴走が発生する原因は主に二つで、食料が不足して襲ってくるか、森に新たな脅威が現れた時だ。
まぁ、例外として人為的なものも存在するが、とにかく魔物暴走が発生した場合、その街はかなりの脅威に晒されることになる。
「少しだけ滞在して出て行くつもりだったが、思わぬ収穫があったな」
「何かあった?」
俺はまだ見ぬ強敵と戦えることにワクワクしながら笑っていると、ソーニャたちとの二次会から帰ってきたフィエラが話しかけてきた。
「あぁ。最高のイベントが起こりそうだ。もう少しここに滞在するぞ、フィエラ」
「ん。わかった」
いつ戦いが起きても良いように、俺は念入りに準備をしていくことに決めるのであった。
〜side???〜
それは、とあるところからルイスを見ていた。
「あれれ〜?何でここにルイスくんがいるんだぁ〜?んー。ま、いっか!それより〜、ルイスくんがいるならちょっと弄っちゃおうっと♪」
それは、気まぐれで森の新たな王に干渉する。
「ほほほいほいっと!…うんうん!良い感じだぁ〜。君にはルイスくんと戦ってもらうからよろしくね♪」
それが干渉したことにより、新たな森の王は種族が進化し、更なる強力な力を得る。
「きゃはは!どうなるのか楽しみだなぁ〜!ボクのルイスくん!もっともっとボクを楽しませてね♪きゃはははは!」
進化した森の王は、新たに力を身につけ、知識を身につけ、戦い方を学習していく。
ルイスの知らないところでそれが干渉したことにより、この世界に新たな化け物が誕生した。
新たな森の王は、外の世界へと出るために動き出す。
目的は、それによって与えられたルイスという名の人間と戦うこと。
周りの魔物は王の圧倒的な力に怯え、あるいは服従して追従する。
ルイスと森の王の戦いは、すぐそこまでへと迫っていた。
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