第13話 ダンジョン

 ダンジョン。それはいつから存在しているのか分からず、また世界に突如として現れる不思議な場所で、中には数多の魔物と宝物が眠っている。


 ダンジョンの最奥にはダンジョンコアと呼ばれるものがあり、このダンジョンコアがダンジョンを制御し、支配しているのだ。


 このダンジョンコアは破壊する事ができず、また外に持ち出すこともできない。


 ではダンジョンは永遠に増えるのかと言われればそうではない。

 どうやらダンジョンには存在可能数があるらしく、ある日突然ダンジョンが消えると言うこともある。


 といってもそんな事は滅多にないので、過去の記録にそんな事があったと記されている程度だが。


 そんなダンジョン内に出てくる魔物は何故か倒すと魔石だけを残して消滅し、その他の部位は何も残さない。


 では外の魔物を倒した方が稼げるのではないかと思うだろうが、ダンジョン内で出てくる魔物の魔石は品質が高く、また込められている魔力も高いため高値で取引される。


 そして冒険者がダンジョンに潜る一番の理由、それは魔物を倒すとたまに手に入る武器や防具、そして魔導書などのアイテムを手に入れるためだ。


 どういう原理かは不明だが、何故か魔物を倒すとたまにアイテムを落とすことがある。

 しかもそれらのアイテムには魔剣などもあるため、みんなそれを手に入れようとしているのだ。


 そして、手に入るアイテムの強さはダンジョンのランクに依存するらしく、よりランクの高いダンジョンほど強い武器などを手に入れることができる。


 俺が今来ているのは、公爵領に存在するダンジョンの一つで、Aランクダンジョン『氷雪の偽造』と呼ばれる場所だ。


 ここは全階層が氷雪地帯となっており、出てくる魔物も氷や雪で本物を真似て作られているものがほとんどだ。


 そして雪が常に積もっており動きにくく、気温が低くて体温を奪っていくため、対策をしていないとあっという間に死んでしまうような危険な場所でもある。


「ま、俺には関係ないけど」


 ダンジョンの扉を潜った俺は、体を覆うように火属性魔法で幕を張る。


 普通であればこんな事をすると魔力がすぐに尽きて動けなくなるのだが、俺の魔力量はスノーワイバーンを倒した時よりもさらに増えている。


 だからこの程度の消費は大した問題ではないのだ。


「んじゃ、さっそく行きますか」


 ゆるくやる気を出した俺は、索敵魔法を展開して魔物の位置を把握し、ダンジョンの中へと入っていくのであった。





 ダンジョンには5階層ごとに転移用の魔法陣がある部屋があり、そこにある魔道具にギルドカードを翳すと、次回からそこに転移して攻略を始めることができる。


 また、10階層ごとにボスが出てくるわけだが、こいつを倒さないと次の階層に行くことができない。


「お、アイスゴーレムか」


 俺は現在、ダンジョンの攻略を初めて一時間ほどで最初のボス部屋へと来ていた。


 ここまでくる間に倒してきたのは、氷でできた魔物の群れで、アイスウルフやアイスオークなどだった。


「んじゃ、まずは火属性魔法が通じるか試してみますか。『火槍ファイア・ランス』」


 俺は火の槍を10本作ると、それを一気にアイスゴーレムに放つ。


 しかし、ゴーレムを形成している氷の密度が高いのと周りの気温がかなり低いせいか、俺の魔法はあまり効いていないようで、防御力でいえばスノーワイバーンよりも圧倒的に上だった。


「ふむ。普通の火魔法はダメか。温度を上げれば行けそうだけど、それじゃあつまらないよな」


 ニヤリと笑った俺は、敢えて魔法で攻撃することをやめ、剣を抜いて近接戦を挑む。


 身体強化を使用し、地面を思い切り蹴った俺は、一気にアイスゴーレムの懐へと潜り込んだ。


 そして、力を込めて剣を横薙ぎするが、ゴーレムを両断することはできず、1/3ほどの所で止められた。


 すぐに剣を引いて距離を取るが、ゴーレムに痛覚などは無いため、傷など気にせずに突っ込んでくる。


「くっ!!」


 アイスゴーレムのタックルを躱しきれなかった俺は、剣を盾にして受け止めるが、勢いに負けて吹き飛ばされた。


「チッ。やっぱり魔法なしは厳しいかな」


 いくら身体強化をしているとはいえ、自分よりも大きい奴にタックルをされれば吹き飛ばされて当然だ。


「さて、どうしたものか」


 場所は雪原。雪のせいでいつものように素早く動くことはできず、一撃の重さは圧倒的に相手の方が上。


「はは。こんな状況、楽しく無いわけがない!」


 俺は魔力とは違う闘気を体から溢れさせ、またゴーレムに向かって突っ込む。


 姿勢を低くし、地面に近い場所を走る俺を目掛けてゴーレムは右腕で殴りつけてきた。

 俺はそれを躱すと、地面に叩きつけられた右腕に剣を突き刺す。


「『振波』!」


 闘気とは、魔力とは違う力の一つで、魔力が魔法と呼ばれる奇跡を起こす源ならば、闘気は武術を得意とする一流の者たちが使う生命エネルギーのようなものだ。


 闘気を使うことで、斬撃を飛ばしたり、防御力をあげたり、剣を闘気で覆うことで威力を上げたりすることができる。


 そして、俺が今回使った振波は闘気を使った技の一つで、闘気で剣を覆い、その闘気を振動させて相手を内側から破壊する技である。


 そして、振波によって与えられた衝撃に耐えられなかったゴーレムの腕は、剣を刺したところから蜘蛛の巣状に罅が入っていき、肘のあたりより先が地面へと落ちた。


「さぁ、ここからが本番だ」


 その後、同じことを繰り返してゴーレムの四肢を破壊し、最後に頭部を破壊してやると、アイスゴーレムは魔石だけを残して消滅した。


「あー楽しかった!今日はもう帰ろうかな」


 魔法を使わずに闘気だけで倒すことができた俺は、魔石を回収して階段を降りていくと、11階層の入り口付近にあった部屋の魔道具にギルドカードを翳してその場所を登録し、転移用の魔法陣で外へと出るのであった。





 冒険者ギルドに戻ってきた俺は、シーラさんに取ってきた魔石を渡して買取をお願いし、今はそのお金を受け取ろうと待っていた。


「見つけた」


「ん?」


 すると、突然後ろから声が聞こえたので振り返ってみると、そこには俺と同じ銀髪を腰あたりまで伸ばし、アメジストのように綺麗な紫色の瞳とそこそこ大きな胸に引き締まったウエスト。

 そして、アイリスと比べても引けを取らない容姿で同い年くらいの美少女が俺のことを見ていた。


 しかし、その女の子の一番の特徴は頭についている獣のような耳と、後ろにはふさふさの尻尾が生えていることだ。


(獣人か。珍しいな…)


 この世界には、大きく分けて人族、亜人族、魔人族の3つの種族が存在し、亜人族はさらにエルフ、ドワーフ、獣人などいくつかの種類に分かれる。


 亜人族も普通に人間社会で生活している奴らはいるが、このヴァレンタイ公爵領は自然環境のせいで住んでいる亜人族はほとんどいない。


(そんな珍しい種族が目の前にいるわけだが…。ふさふさの耳に尻尾。種族は…)


「…犬か」


「狼。間違えないで」


 犬だと思って呟いたら、食い気味で狼だと否定された。どうやら犬に間違えられたことが気に障ったらしい。


「それは失礼。それで?狼のお嬢さんが何の用かな」


「私の名前はフィエラ。単刀直入に言う。私とパーティーを組んでほしい」


「やだ」


「なんで」


「面倒だから」


 ここまで表情を変えずに淡々と話してくるフィエラだったが、俺が断ると少しだけ表情を歪めた。


「…どうしたらパーティーを組んでくれる」


「だから組まないって。てか、どうして俺なんだよ」


「あなたがこのギルドで一番強い。私は強くなりたい。だからあなたの側にいたい」


 何だか最後の部分だけを聞くと告白されているようだが、それよりも彼女の強くなりたいという言葉に少しだけ興味が湧いた。


「なんで強くなりたいの?」


「強くなればさらに強い敵と戦える。そうすれば私はさらに強くなれる」


「ふーん、なるほどね」


 どうやらフィエラは俺と一緒で、強くなること自体にしか関心がないようだ。


 強くなるためなら戦って死ぬ覚悟もある。自分の死よりも高みを目指すことの方が大切。そんな思いが彼女の瞳からは感じられた。


「少し興味が湧いた。だから俺と戦え。そしたらパーティーの件を考えてやる」


「望むところ」


 フィエラはそう言うと、出会ってから初めて分かりやすく表情を変えてニヤリと笑うのであった。





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