第12話 昇格

 イゼラたちとの戦いはすぐに終わった。奴の仲間は俺の異常さに気がつくと、我先にと逃げ出した。


 しかし俺がこんな奴らを逃すはずもなく、光魔法で結界を張ると、奴らがこの場から逃げられないように閉じ込める。


 そして、風属性魔法で風の刃を作ると、結界を叩いて逃げようとしている男たちの首を跳ね飛ばした。


「ば…ばかな。お前!水属性しか使えないんじゃなかったのか!!!」


 学習しないイゼラは、俺が水属性くらいと言った言葉をまだ信じていたようで、なぜかキレながら俺のことを責め立ててくる。


「さっきも言っただろ。俺は誰も信じてないってさ」


 そこでようやく俺が嘘をついていた事に思い至ったのか、少し顔を歪ませながら剣を抜く。


「チッ!だが!僕はAランク冒険者だ!お前如きが勝てると思うなよ!『身体強化』!!」


 イゼラはそう言うと、凄い速さで俺の方に突っ込み、剣を振り下ろしたり横薙ぎにしたりと色々な手で攻めてくる。


 確かにスピードは速いし、そこそこ実力もあるようだ。

 しかし、Aランクと言っても実力は下の下だ。ランドルと比べると攻撃は軽いし、何より視線の動きで攻撃箇所が丸わかりだ。


 そんなものが俺に当たるわけがない。


 俺はイゼラの実力を見切ると、振り下ろされた剣に対して、俺は自身の剣を下から思い切り掬い上げるようにぶつける。


 イゼラは剣から伝わる衝撃に耐えられなかったのか、柄から手を離してしまい、剣は遥か後方へと飛んでいった。


 俺に敵わないことを自覚したのか、イゼラは尻餅を着いてガタガタと震えていた。


「わ、悪かった!謝る!だから許してくれ!」


「何でだ?お前も俺を殺そうとしたろ。殺されても文句は言えないよなぁ?」


 俺はそう言うと、座り込んだまま立ち上がろうとしないイゼラに向かって剣を振り下ろす。


 しかし、俺の剣は奴を切り裂く事はなく、イゼラの横で轟音を立てて地面を抉っただけだった。


 イゼラは衝撃により吹き飛ばされると、結界に体を打ちつけて気を失った。


「お前まで殺したら俺が疑われんだろ」


 他に隠れてる奴がいないのを確認すると、俺は結界を解除してトロールの討伐証明部位とイゼラを回収し、森の外へと出るのであった。





 冒険者ギルドに戻って来た俺は、ここまで引きずってきたイゼラを投げ捨てると、近くにいた職員の女の子にギルマスを呼んでくるように頼む。


「エイルさん!」


 女の子が階段を登っていくと、今度はシーラさんが俺の近くに駆け寄って来た。

 そして、近くで意識を失って投げ捨てられているイゼラを見ると、今度は俺の方へ視線を向けてくる。


「な、何があったんですか?エイルさんは大丈夫なんですか?」


「大丈夫です。それと、詳細はギルドマスターが来てからしますので」


「わかりました」


 俺の雰囲気を察してか、只事じゃない事に気がついたシーラさんは真剣な表情をして頷いた。


 それから少しすると、ギルドマスターも一階にやって来て、とりあえずイゼラを拘束するように指示を出す。


「エイルくんは私と一緒に来てくれ。話が聞きたい」


「わかりました」


「それとシーラ、君も一緒に来るといい。話が気になるのだろう?」


「はい。ありがとうございます」


 ギルドマスターの部屋に入った俺たちは、ソファーに座ると、さっそく何があったのかを話し始める。


「それで、何があったんだい?」


「実はですね…」


 俺は森の中でトロールと戦って倒したことや、その後イゼルとその仲間たちに襲われて返り討ちにしたこと。そして、イゼラ以外は殺して奴だけを連れ帰ったことを伝える。


「ふむ。状況はわかった。しかし君の話しだけだと判断はしづらいな。その現場に職員を派遣するか」


「えぇ。お願いします」


「よし。シーラ」


「はい」


「君に調査を任せる。護衛として冒険者も付けるから安心したまえ。それと、君は今日からエイルくんの専属に任命する。これからも頑張るように」


「わかりました」


 シーラさんに調査を任せたのは、おそらく今回イゼラを試験官に選んだ罰だろう。

 そして俺の専属にしたのは、今後俺に何かあった時、すぐにヴォイドさんに報告がいくようにだろう。


「あ、それと。エイルくんは試験合格だから、あとでカードの更新をしておくように」


「面接はいいんですか?」


「構わんよ。君の人となりは数回話して分かっているから問題ない。それに、トロールも討伐したと言っていたし、証明部位もあるのだろう?」


「それはもちろん」


「なら何も問題はないよ」


「おめでとうございます!エイルさん!」


「ありがとうございます」


 話が一段落したところで、俺たちはテーブルに置かれた紅茶を一口飲む。


「それにしても、面接を経てランクを上げているはずなのに、なぜあんな輩がいたのだ」


ヴォイドさんはそう言うと、少し困り顔でため息を吐いた。


「まぁ、どうしようもないことだと思いますよ」


「と、言うと?」


「面接時は適格な人格の持ち主でも、年月が経てば人は変わるものです。

 さらに伸び悩んでいる中、優秀な後輩がでてくれば焦り嫉妬するのも仕方がないかと。

 それに、彼らにも生活がありますからね。仕事が減るのは困るんでしょう」


「なるほど。少し対策を考えてみるよ」


「その方がいいかと思いますよ」


 これで本当に話が終わった俺たちは、ヴォイドさんに挨拶をすると、シーラさんと一緒に一階に向かう。


 その途中、シーラさんは俺の前に出ると深く頭を下げて来た。


「エイルさん。この度は私の人選ミスで危険な目にあわせてしまい、申し訳ありませんでした」


「かまいませんよ。誰にだってミスはあります。それに、イゼラは巧妙に自身の性格を偽っていましたから、気づかなくても仕方ありません。何せギルマスのヴォイドさんも気づいていませんでしたからね」


「でも…」


「なら、今後は二人で頑張って行きましょう。まずは調査の方、お願いしますね」


「…わかりました。任せてください!」


 さっきまで落ち込んでいた彼女だが、俺に任されたことでやる気を出したのか、元気に返事をしてくれた。


 その後、シーラさんが複数の冒険者やギルド職員と調査を行い、俺の証言と状況の一致、そしてイゼラが全てを自白したため、事件は無事に解決した。


 ちなみにイゼラは犯罪奴隷となり、今頃は鉱山で死ぬまで労働をさせられていることだろう。





 あれから二週間、俺は屋敷にいる時は水クッションの上で寝転がってだらけ、気が向いたら冒険者として依頼をこなす日々を送っていた。


 そしてつい先日、最速でAランク冒険者になった俺は、ダンジョンに潜るための手続きを行うために冒険者ギルドへと来ていた。


「エイルさん。今日もいらっしゃったんですね」


「はい。今日からダンジョンに潜ろうと思いまして」


「なるほど。では手続きをしますね。カードをお願いします」


 シーラさんに言われた通り、俺は彼女にギルドカードを渡すと、特殊な魔道具にカードを当てる。


 これは、魔道具を通してギルドカードにダンジョンに入る許可を登録するものだ。

 この魔道具にカードを当てなければ、ダンジョンの入り口まで行っても見えない結界で入ることができないようになっている。


 カードが薄っすらと光り登録が完了すると、シーラさんは俺にカードを返してくれた。


「これで手続きは終わりです。お気をつけて」


「ありがとうございます」


 ようやくダンジョンに潜ることができるようになった俺は、ギルドを出ると飛行魔法を使い、すぐにダンジョンへと向かうのであった。





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