第11話 先輩冒険者

 冒険者ギルドで昇格試験の話を聞いてから二日後。俺はいつもより少し早い時間に冒険者ギルドへと来ていた。


 トロールが出る場所は森の奥の方となるため、朝早くから移動しなければ帰ってくる頃には日が暮れてしまうからだ。


 そんなわけで、冒険者ギルドのを扉を開いて中に入ると、すでにシーラさんと試験官の冒険者が立っていた。


「すみません。お待たせしましたか?」


「いえ、大丈夫ですよ。それほど待っていませんので」


 シーラさんはそう言うと、今度は横にいた金髪の爽やかイケメンって風貌で、20代半ばくらいの男性が話し始める。


「君がエイルくんだね。話は聞いているよ。期待の新人らしいね」


「大した事ないですよ」


「はは。そうかい?なら、今日は楽しみにしているよ」


「イゼラさん。自己紹介」


「おっと、忘れていたよ。僕はイゼラ。Aランク冒険者だ。よろしく頼むよ」


「俺はエイルです。よろしくお願いします」


 お互いに自己紹介を終えた俺たちは、さっそくトロールのいる森に行こうという事になり、俺たちはシーラさんに見送られて冒険者ギルドを出るのであった。





 森にやって来た俺たちは、さっそく森の中へと入ってトロールを探す。


 といっても、索敵魔法ですでに見つけているので、あとはその場所に向かうだけだ。


「エイルくんは魔法も使えるのか。本当に優秀なようだね。他にはどんな魔法が使えるんだい?」


「大した魔法は使えませんよ。あと使えるのは水魔法くらいですかね」


「水魔法か。ふむ…」


 イゼラは少しだけ考え込むと、すぐに前を向いて歩き始めた。

 俺も彼の後へ続いて歩いていくと、しばらくしてトロールがいる場所へとたどり着く。


「エイルくんはトロールのことをどれくらい知っているんだい?」


「そうですね。動きが鈍いこと。再生能力がありタフなこと。あとは武器として丸太を使う場合があるくらいですね」


「十分だな。なら、僕はここで見ているよ。もし危なくなったら助けるから、全力でやってくるといい」


「わかりました。『身体強化』」


 俺は身体強化を使うと、いつもより速度でトロールに迫る。

 トロールも俺に気がつき雄叫びを上げると、右手で拳を作って振り下ろして来た。


 俺はそれをギリギリのところで躱して地面を転がると、改めて剣を構える。


 そしてまたトロールの方へ迫っていくと、今度は奴の拳を避けながら切り込んだ。


 しかし攻撃が浅かったのか、傷はすぐに治ってしまいダメージにならない。


 その後も幾度となく同じことを繰り返していき、奴のスタミナが切れるまでそれを続ける。


 トロールは魔法が使えるわけではないので、奴の回復は自然治癒によるものだ。

 そして、自然治癒を急速に行うことでその分体力が多く消費される。


 だから奴の体力がなくなれば回復は出来なくなり、最後は簡単に殺すことができるのだ。


 そんな戦いを一時間ほど続けると、ようやく奴の回復が俺の攻撃について来れなくなった。


 俺はその隙を見逃さず、腕に身体強化を集中させて腕を切り落とすと、続け様に首を切り落とした。


「ふぅ」


 俺が一息つくと、後ろからイゼラが拍手をしながら近づいてくる。


「うん。なかなかやるね。見事な戦いだった。さすが期待の新人だ」


「ありがとうございます」


「だからこそ…惜しいねぇ」


 イゼラはそう言うと、さっきまで浮かべていた爽やかな笑顔ではなく、口の端を吊り上げて醜く歪んだ笑顔で俺のことを見てくる。


「あぁ。本当に惜しい。君のような将来有望な冒険者がこんなところで死んでしまうとはね」


「どういうことですか?」


「いやね?君は僕たちにとって邪魔な存在なんだよ。才能豊かで将来性がある君は、僕たちにとっては将来を脅かす邪魔者でしかない」


イゼラが改めて手を叩くと、草陰や木の奥から10人ほどの武装した冒険者が出て来た。


「悪いけど。君にはここで死んでもらうよ。トロールとの戦いを見ていたけど、そこそこやるようだからみんな気をつけるようにね。まぁ、この数だし大丈夫だと思うけど」


 ざっと見た感じ、いるのはC〜Bランクといった冒険者たちばかりで、Aランクはイゼラだけのようだ。


「これまでもこんなことを?」


「たまにね。若いのに才能がある奴が嫌いだって奴は大勢いるのさ。

 だからダンジョン内で見かけた時や森の中で見かけた時は、この世から退場してもらったよ。そしたら、ギルドの奴らも魔物にやられたって思うだろ?

 というわけで、君にもそろそろ死んでもらうよ?」


 イゼラの言葉を合図に、俺を取り囲んだ冒険者たちは各々武器を抜く。

 俺はそんな奴らを見て俯くと、思わず肩を震わせてしまった。


「おや、泣いているのかい?だが残念。ここで見逃すという選択肢はないよ。大人しく死んで…」


「…くっくっくっ。アッハハハハハ!」


 俺が突然笑い出すと、周りにいた男たちは少し困惑しながら俺のことを見ていた。


「…助からないと分かって気でも狂ったかい?」


「アハハハハ!あー、たまんねぇなぁ。たまんねぇよ、こんな状況……ゾクゾクする」


 俺はその言葉をきっかけに身体強化をかけると、トロールと戦った時とは比較にならない速度で動く。


 そして、近くにいた男の首を刎ねると、その勢いのまま隣にいた男を蹴り飛ばす。


 感触からして骨が折れていたので、そのまま肺にでも刺さってそのうち死ぬだろう。


 地に足がついた俺はそのまま地面を蹴ると、突然二人の仲間がやられて戸惑っている男を横に両断した。


 そこで動きを止めて周りを見てみると、イゼラとその仲間たちは呆然としながら俺の方を見ていた。


「はぁ。敵を前に棒立ちとか。そんなんだからランクが上がんねぇんだよ」


「な…なにが。お前!何をした!」


イゼラが慌てながらそんなことを尋ねてくるが、こいつは馬鹿なのだろうか。


「なんで俺を殺そうとしている奴らに教えてあげなきゃいけないんだ?」


「いいから答えろ!!」


「はぁ。本当に馬鹿だな。仕方ない、教えてやるよ。ただ身体強化を使って剣で切っただけだ。何も難しいことはしてないよ」


「そんなわけ無いだろ!お前の身体強化はそんなに速くなかった!それに詠唱もしていないのにありえないだろ!」


 話が通じないと思っていたら、どうやらトロールとの戦いが俺の全力だと思っていたようで、そのせいで理解ができていないようだった。


「あれは俺が手を抜いていただけだ」


「……は?手を抜いた?何で…」


 トロール相手に俺が手を抜いていたことが理解できないのか、イゼラとその仲間たちは俺のことを恐怖の籠った目で見始める。


「簡単な話だ。お前たちが何かをして来た時に対処できるよう、誤解させるために手を抜いていただけだよ」


「き、気づいていたのか?いつから…」


「最初からお前のことは信じていなかった。そして、お前が俺の敵だと認識したのは森に入ってから。索敵魔法で少し離れた位置に不審な動きをする奴らがいるのを見つけたからだ」


「な?!なぜ僕を疑ったんだ!!」


「お前を、というより…俺は全てを信じていない。誰も信じていない。だから常に一人で行動するし、常に警戒する。だからお前たちの不審な動きにも気づけた。ただそれだけの話さ」


 何てことのない話だ。俺は誰も信じていない。これまでの人生で俺は多くの人に裏切られ、罠に嵌められ、殺されてきたのだ。


 今さら誰かを信じるなんて事はできないし、警戒しないなんてこともできない。


「説明はこれで終わりだ。さぁ、お前らに俺を殺せるかな?」


 イゼラたちを見回しながらニヤリと不敵に笑った俺は、ゆっくりと剣を構えて一歩を踏み出すのであった。





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