037:怯える理由を聞かせてくれ

 四方八方から飛んでくる敵の弾丸。

 それを回避しながら、敵に狙いを付けるが敵の動きは想像以上に速い。

 今までの敵とは違い簡単にはサイトには収まらず。

 俺は攻めの手を掻きながら、奴の攻撃を避ける事しか出来なかった。


 上からの攻撃を回避し、横から迫った攻撃を紙一重で躱す。

 機体が揺れて姿勢を制御しながら飛行し、追ってくる敵と共に雲を突き抜ける。

 再び上空へと戻って来て、太陽を背にして現れた敵のビッドから逃れる。

 ジリジリと装甲を焦がすプラズマ式の攻撃で、中々に厄介だと思った。

 エネルギー残量を見ればまだ余裕はあるものの、このままではやられるのも時間の問題だった。


「逃げ道を塞いで確実に殺しに来ているな……厄介だ」

《……》


 無言で距離を詰めてくる敵。

 手にしたレールガンから放たれる弾の威力は凄まじく。

 何よりも、弾丸の速さが段違いである。

 見てから避けるのは至難の業で、敵の銃口の向きから弾道を予測しなければならない。

 慣れない第五世代の操作に段々と慣れてきたのは良いものの、打開策が無い。


 このまま成すがままでいたぶられ続ける訳にはいかない。

 俺はスラスターを一気に噴かせて加速した。

 ぐんぐんと加速していき、機体内のアラームがけたたましく鳴り響く。

 限界ギリギリまで機動力を上げて、直線距離で敵を離そうとする。

 しかし、敵もスラスターを噴かせて追随してきて弾丸を放ってくる。

 俺は操縦桿を握りしめて方向を九十度変えて弾丸を避けた。

 凄まじいGによって体が締め付けられて、俺は歯を食いしばって加速を続ける。


 まだだ、まだだ、もっともっと速く。

 自分を極限まで追い込めば、あの時の状況を再現できる筈だ。

 死地へと自らを追い込めば、逆転の光が見えてくる筈だ――ッ!!


 ビットが急加速して、俺の進行方向に回り込む。

 プラスマが放たれて、何とか回避したものの胸部装甲を焼かれて。

 損害状況を片手間で確認しながら、俺は更に加速した。

 

 

 機体内が激しく揺れて、頭から血の気が失せていく。

 

 

 視界が暗くなっていき、段々と気持ちよくなっていく。

 

 

 太陽が綺麗で、吸い込まれていくようで――歌が聞こえた。



 明るい声で、綺麗な声で曲を口ずさむ女性。



 懐かしさを覚えるその曲は、俺の頭を駆け巡って――歯車が合致する。



「――ッ!!」



 意識が急速に浮上して、体に再び生気が巡る。

 俺は操縦桿を操作して、機体を急速反転させた。

 追ってくる敵が俺の機体に狙いを定めて、”二発の弾丸を放とうと”している――見えるぞ。


 数秒先の未来が見えた気がして、俺は機体を回転させて弾丸を放つ。

 すると、一発目のレールガンの弾とかち合って爆ぜる。

 敵から驚きの感情が伝わって来て、俺は機体を動かして相手に突っ込んでいく。

 敵は俺の機体を避けようと右へと移動して――見える。


 敵が避けた瞬間に、その方向へと銃口を向ける。

 引き金を引き弾を放てば、相手はビットを引き寄せて弾丸を弾く。

 しかし、今の動きは慌てての行動だと分かった。

 確実に俺の動きが変わったことを警戒している動きだ。


 俺はニヤリと笑い。

 俺の殻を破ってくれた歌に感謝した。

 今までは霞かかっていた歌が、ほんの僅かだが理解できた。

 そして、俺は敵の動きの先を読むことが出来る。

 原理は分からない。しかし、力を手にしたのなら――使わなきゃなッ!!


「お前の動きが分かるッ!! お前の全てを――封じてやるよッ!!」

《……!》


 エネルギー残量はもう見ない。

 此処からはフルスロットルの戦闘だ。

 相手が倒れるか俺が倒れるか――一か八かだッ!!


 ペダルを限界まで踏み加速する。

 敵も加速して、音速を超えて飛翔する。

 追随する敵を見ながら、俺は弾丸を放った。


 互いの機体が交錯し、弾丸が空中で弾け飛ぶ。

 アラートが鳴り響き、機体から悲鳴が上がっている。

 敵のビットが激しく動き俺の動きを止めようとしてきた。

 しかし、その軌道は既に見ている。ビットの動きを先読みして弾丸を撃ち込む。

 シールドの付けられていない部分から撃ち込めば、ビットは激しく閃光して爆ぜた。


「もっとだッ!! もっともっと、その先へ俺を連れて行ってくれよッ!!」


 笑みを浮かべながら、機体の枷を解き放つ。

 リミッターが外された機体は更なる自由の翼を得て。

 大空を駆けながら、青い粒子をちりばめていった。

 空に軌跡を描いていくソルジャーは、俺にとっての良き理解者で。

 良い出会いがあったと喜びながら、敵の攻撃を回避していく。



 しかし、敵の動きが変わる。



 俺が気持ちよく飛んでいれば、奴は俺の動きの先を行く。

 避けようとした位置に奴のレールガンの弾が飛ぶ。

 バチバチと激しく閃光するそれが機体に被弾した未来が見えて、俺は一気に下へと急降下した。


 肩を大きく抉られて、コックピッド内に火花が散る。

 損害状況は危険レベルであり、少々、弾を受けすぎてしまった。

 未来が見えても、敵には未だに一発も当てられていない。

 レベルの差は歴然であり、俺は舌を鳴らして悔しがった。

 此処が戦場で逃げられない状況であれば、俺は確実に殺されていただろう。


 ――そう、殺されていたのだ。

 

 俺はニヤリと笑って、敵に弾丸を放つ。

 連続で攻撃を放ちながら変則機動を行って。

 互いに入り乱れながら、飛行していれば――奴の背後から現れる。


 同じソルジャー型の機体が現れて敵に切りかかる。

 敵はそれに動じることなく、敵のブレードを肘と膝で受け止めて。

 ブレードを受け止められたソルジャー型は、胸部のミサイルを全弾発射した。

 敵は後退してビットによって攻撃を防ぐ。

 しかし、そうなれば防御に回せるビットは残らない――俺は引き金を引いた。


 マガジンを交換して、全ての弾丸をぶっ放す。

 すると、敵は連続してブーストを行って距離を離してきた。


《――退くぞッ!!》

「了解ッ!!」


 応援に駆け付けたヴォルフさんが肩にマウントしていた二丁のライフルで敵をけん制する。

 俺は先に戦線を離脱して島から出ていく船に乗り込んだ。

 チラリと見れば、島から紅蓮の炎が上がっていて。

 綺麗だった島は悲惨な状態になってしまっていた。

 悲しみ、怒り――色々な感情がこみ上げてきて俺は唇を噛んだ。


「……すまん」


 守れなかったことへの謝罪。

 島が生きている筈も無いのに、俺は自然と口にしていた。

 ヴォルフさんは船へと勢いよく乗り込んできてハッチが閉じられる。

 そうして、船の中に明かりが灯ってけたたましいアラートが鳴り響く。


《緊急転移システムを発動します。乗組員は衝撃に備えてください》

《マサムネ、出っ張りを掴め。揺れるぞ》

「は、はい!」


 緊急転移とは何なのか。

 俺は疑問に思いながらも、機体の腕で出っ張りを掴む。

 すると、ぐわんぐわんと機体内から音がしてがたがたと揺れ始める。

 俺は歯を食いしばって揺れに耐える。


 アラートが鳴り、大きく揺れて――視界が一気に広がった。


 全面にゴムのように景色が伸びていき――一瞬で元に戻った。


 少しのめまいと吐き気を覚えながら、今のが緊急転移なのかと思った。

 一体、何処へと転移したのかと思いつつ、俺はハッチの外の景色をディスプレイに映し出した。

 すると、炎の海はそこにはなく。見渡す限りの海が広がっていて。

 どうやら見たことも無い場所へと飛んだらしい。

 俺は取りあえず敵の攻撃が止んだことにホッとして、ゆっくりと機体を動かした。


 下にいる指示係に従いながら機体を動かして。

 機体をケージへと格納して、ハッチを開いた。

 大きく息を吐きながら、俺は外にいる人間の手を借りて外へと出た。

 一仕事終えて、久しぶりの戦闘に満足して、俺はただただ笑っていた。


 あんなに強い敵がいたのだ。

 この先の戦いでもっと強い奴に会えるかもしれない。

 俺はその事にわくわくしながら、カツカツと音を立てて歩いていく。

 すれ違う人間が俺の表情を見て怯えていたが、俺には分からない。

 戦いはこんなに楽しいのに――何で、怯えているのか。

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