038:決意を新たに、次なる任務を

 戦闘を終えて、船内の説明を聞いた。

 これから此処で任務の説明を受けて、仲間たちと共同生活を送る事になる。

 新たな戦闘の気配を感じながら、俺は胸を躍らせて。

 そうして、船内を歩いていれば端末にメッセージが入って呼ばれたことに気づく。


 俺は早速、ブリーフィングルームに行こうとした。

 その時、俺を探していたという職員の方から呼び止められて、外部との通信用の部屋に行くように指示された。

 案内してもらってから、その部屋へと入る。

 パチパチと光っている大きな箱状の機械が幾つか設置されていて。

 壁も特別製なのか自分の部屋とは違うと感じた。

 ゆっくりと置かれた簡素な机に近づいて――書置きを見つけた。


 専用の通信装置で此処に連絡しろと書かれていて。

 俺は指示通りに置かれた装置を操作して連絡を繋ごうとした。

 コール音が続いて――相手が応じた。


《……》


 相手は無言であり、俺も無言だった。

 しかし、誰が出てくれたのかは何となく分かっていた。

 話したいことは山ほどあったのにいざ通話になれば口が思うように動かない。

 俺は口を開けては閉じるを繰り返して、何を話すべきかを考えて――


《……元気だったか》

「……はい。ゴウリキマルさんも元気でしたか?」


 彼女の声を聞いて、やはりそうだったと思った。

 元気かと問われただけでも嬉しい。

 こうしてまた話ができるだけでも、俺は幸せだった。


 俺の質問にゴウリキマルさんは肯定して。

 今はまだ会えないけども、その内、そちらと合流すると言ってくれた。

 俺はその日を楽しみにしていると伝えて。

 彼女に今まで起きたことを話そうとした。

 しかし、彼女は俺の言葉を遮って質問してくる。


《……私な。実は、お前に会いたくて、もう一回だけ。お前の家に行ったんだよ。何度もチャイムを鳴らしてな……そしたら、お前が出てきたんだよ……覚えているか?》

「……俺は何て言ってましたか?」


 彼女の声は少しだけ震えていた。

 まるで、その先を話したくないと言わんばかりで。

 俺はその先を理解しながらも、敢えて、彼女の口から聞こうとした。


 すると、彼女は絞り出すように声を出した。


《……貴方は誰ですかって……なぁ、マサムネ――お前は、誰だ?》

「……俺は、俺です……今は何者なのかは分からない。ただ、この世界で居続ければ、それが分かる気がします」

《……私はお前の言葉を信じていいのか》

「信じてください……例え俺が何者であったとしても、俺は貴方の味方でいたい」


 自分が現実に住むマサムネで無い事は何となく理解していた。

 現実だと思っていたあの部屋は、何処にもつながっていない。

 後付けのように思い出される記憶は、全て捏造されたもので。

 俺は何一つとして、現実の思い出を持っていないのかもしれない。


 自分が何者か分からない。自分がどう生まれたのかも知らない。

 己が何一つ理解できなくても――俺は進み続ける。


 止まっていても何も始まらない。

 足を動かし続ければ、何時かきっと真実にたどり着ける。

 戦いを経験していく中で、俺の眠っていた記憶が呼び覚まされていく。

 もっともっと戦えば、俺はいずれ全てを思い出す気がした。

 だからこそ、俺はU・Mに入る決意をしてこの場にいる。


 他の誰でもない俺自身が決めた道だ――彼女は理解してくれるか。


 暫くの間、沈黙が場を支配する。

 時計の秒針が刻まれていく音だけが響いて――彼女は大きく息を吐いた。


《考えても分からねぇ。私はお前を信じる以外にないと思ってる……だからよ、マサムネ。私と一緒にまた戦おうぜ》

「……はい。一緒に戦いましょう」


 決意を新たに、彼女と言葉を交わす。

 握手でも出来たならもっと良かったけど……それでも良かった。


 またゴウリキマルさんと戦えることを喜びながら。

 俺は彼女と一緒に話をして。

 過ぎ去った時間を取り戻すように、俺たちは他愛のない会話をし続けた――


 |||


 ゴウリキマルさんとの会話を終えて、俺は足早にブリーフィングルームに向かう。

 集められる人員の名前や人数は書かれていなかったが、恐らくは複数人で任務に当たるのだろう。

 俺は貰った制服に袖を通して、カツカツと靴の音を鳴らしながら歩いて行った。

 職員が白を基調とした制服なのに対して、俺たちの制服は黒を基調として赤いラインが入っている。

 見方によっては悪役に見えてしまうが……まぁこれはこれでいいだろう。


 長い廊下を歩いていき、端末の案内を頼りに進んでいけば、黒い扉が見えてきた。

 前に立てば自動で扉が開いて、俺は中へと足を踏み入れる。

 もう既に全員集まっているようで、俺を含めて合計六名の男女が集まっていた。


 ディスプレイの横に立つヴォルフさんは俺に座るように指示して。

 俺は先頭の椅子に腰かけてから、前を見た。


「……知っての通りだが、我々が島を出るタイミングで敵の襲撃があった。アレは恐らく、我々の敵となるゴースト・ラインからの刺客で間違いない。今後はより一層、情報を規制し我々の居場所が突き止められないようにする。皆にも、細心の注意を払って行動してもらいたい……マサムネ、話は手短に済ませるように」

「あ、はい」


 手短に済ませろというのはゴウリキマルさんとの通話で。

 俺は申し訳なく思いながら頬を掻いた。

 トロイたちが誰と話していたんだと茶化してきて――ヴォルフさんが咳払いをする。


「私語は慎め。これより作戦会議を行う……今日集まってもらった六名が作戦行動を共にする。一人ずつ自己紹介をしろ。お前からだ」

「ハッ! オッコ・バーデンガムであります! 年齢は28、独身であります!」

「……次」

「は、はい! レノア・メリフストです……えっと、歳は23です……うぅ」

「……貴様ら、真面に自己紹介もできんのか」


 阿保みたいな自己紹介の仕方にヴォルフさんが呆れている。

 しかし、俺も二人の真似をしようとしていたので何も言えない。

 トロイはげらげらと笑っていて、ヴォルフさんからの拳骨を喰らっていた。


 俺を含む残りの人間も簡単な自己紹介を済ませて。

 俺たちはいよいよこれから行う作戦について聞かされた。


「我々の諜報部隊が突き止めた情報によると。ゴースト・ラインは大規模なメリウス製造工場をいくつか保有している。全ては分かっていないが、現在確認しているだけで四つは存在する。お前たちにはその内の一つを潰しに行ってもらう」

「……てことは、俺たち以外にも何人かが動くんですか」

「そうだ。情報を秘匿するために、それぞれの作戦場所は隠しておく。故に、仲間たちには何をするかを伝えないようにしろ」

「……も、もしかして……わ、私たちの中に、ななな、内通者が?」

「……可能性はある。我々の潜伏場所がこうもあっさりと突き止められたからな」


 ヴォルフさんは内通者の存在を警戒している。

 このままでは、何処に行こうとも居場所がバレてしまうから。

 早めに潰しておけるのならいいけど、仲間同士で疑心暗鬼になるのはまずい。

 それを分かっていながら、俺たちに内通者の存在を臭わせたのは何故か?


 恐らく、ヴォルフさんにも考えがあるのだろう。


 俺は彼を信じながら作戦の内容を頭に叩き込んでいく。

 メリウスの工場となると、あの無人機たちを製造しているのだろう。

 このままでは、帝国へと渡り戦況が一変してしまう。

 戦争が終結するのは良い事だが、このまま帝国を勝たせるのは危険な気がした。

 何故かは分からない。しかし、俺の勘がそう告げている。


「お前たちには我々が用意した時限式の爆弾を携行してもらう。三名を一チームとして、それぞれポイントAとBに爆弾を設置してくれ。何方が失敗しても駄目だ。必ず爆弾を設置して帰って来い。作戦開始時刻は、明日の12:00。質問はあるか」

「はい。時限式の爆弾のタイマーはどう設定されているんですか?」

「十分で起爆する様に設定されている。何事も無ければ大丈夫だが……諜報部隊からは、妙な情報も入っている」

「妙な情報とは?」

「施設内で製造された物以外のメリウスが確認されている。恐らくは、警護任務に当たる敵だと思われるが……中には名付きもいるかもしれん。可能であれば隠密行動を取りたかったが、施設内にはいくつもの防衛装置が取り付けられている。強行突破して、内部から破壊する以外に手立てはない」

「え、遠距離からの砲撃とか。く、空中からの爆撃は?」

「それも限りなくゼロに近い。施設内には対空用のレーザーユニットが確認されて近づけない。それと、ドーム型のバリアも確認されている。外部からの砲弾は全て弾かれてしまうだろう。我々が出来ることは、地上から入れる通路を通って施設内に侵入するしかない」


 ヴォルフさんは渋い顔をしながらそう告げた。

 侵入経路が固定されているのであれば、かなり厄介だと分かる。

 十中八九、そこに守りが固められている筈で。

 俺たちはそれしかない事を納得しながらも不安を抱いていた。


 質問が無いからと作戦会議はそれで終了し、作戦行動を始めるまで機体の最終チェックを済ませろと言われた。

 俺たちは出ていこうとして――端末が鳴る。


 俺は端末を出して確認し……あぁ、そういう事か。


 俺は一人で納得して端末を戻す。

 そうして、鼻歌を歌いながら通路を歩いて行った。

 そんな俺を見るトロイは怪訝な顔をしていて、俺は気にせず笑っていた。

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